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2-11:真夜中の襲撃 上

「おい、皆起きろ! 敵襲だ!!」


 隣の部屋のドアを乱暴に叩くと、すぐに扉はエルにあけ放たれた。いつもと違いブレストプレートは脱いでおり軽装だが、すでに長剣を右手に構えている。


「……数は?」

「分からんが、小物がかなりの数……だが、一斉にこちらに向かってきている」


 部屋の中を見ると、クラウとソフィアが目を擦りながら上半身を上げている、とそんな感じだった。

 

 そして、すぐに襲撃者の影が窓に映る――黒く羽ばたく無数の塊、アレは虫――ではなく、蝙蝠の群れだろう。


 直感だが、アレの第一の狙いはあの子だ。奥歯を噛みしめ――間に合え――すぐにソフィアのベッドのほうへ駆け寄り、彼女を抱きかかえたまま床に転がる。直後、窓が割れる音がして、上部を猛烈な羽音が行きかう。


「……このぉ!」


 蝙蝠の群れの中を、長剣の一閃が煌めく。悲しいかな、それは浮遊する羽の中を手ごたえ無く切り抜けるだけであったが、仕切りなおさせるだけの効果はあったらしい。床下からソフィアと二人で這い出るころには、蝙蝠の群れはベランダのほうへと集結していた。


「ほぉ……奇襲は失敗。まさか、私の気配を勘づける奴がいるとは……」


 蠢く影の中から声がすると、それは次第に人の形を取り始める。月の明かりに照らされたそのシルエットは、黒いマントに貴族風の服、そして銀の髪に赤い瞳、優男という風貌の妖しい男――そして、口元に除く鋭い牙。まさしく、吸血鬼のそれだった。


「お初にお目にかかる。私は吸血鬼の盟主【ヴァンパイアロード】・アルカード……」

「……ライトニングスピア!!」


 相手が自己紹介している傍で、自分の体の横を電撃が走り抜ける。それは驚愕の表情を浮かべている吸血鬼に直撃したものの、相手の外套を少し焼いた程度で霧散してしまった。


「ふ、ふふ、さすがは至高の魔術姫と言ったところか……こちらの口上すらも許してくれないとは」

「……四階層程度ではディスペルされる……」


 相手は会話のキャッチボールを望んでいるのに、後ろに立つソフィア・オーウェルはまったくそれに応じない。そのせいか、アルカードなんちゃらさんは、白い顔に青筋を立てて激昂しているようだった。

 

「き、貴様、失礼なのではないか!?」

「魔族と交わす言葉は持っていない!」


 背後で魔法杖を操作する音が聞こえる――第四階層でダメだったのなら、より上位の魔術を打つ気だろう、射線上にいるとまずいと思い、横に飛びながらそで下から取り出したナイフを放つ。向こうもそれに気を取られたのか、当たる前に翻したマントに弾かれたものの、こちらの回避運動と次弾の装填は完了した。


「構成――帯電、放電、磁力、加速、複製――裁きの雷、集いて我に仇なす敵を討て、蒼電の一閃【ジャッジメントジャベリン】ッ!!」


 振り返ると、ソフィアの杖の先端に三つの陣が生成されており、その一つ一つから稲妻が発射された。それらは収束し――もちろん、着弾したところで理解したのだが――高速で駆け抜ける蒼い雷光は、如何に人外の力を持つ相手ともしても避けるすべもなく直撃する。


「ぐ、ぬぅ、この、聞かん坊がぁあッ!!」


 吸血鬼は再び稲妻を外套で受ける。今度は胸のあたり一帯を抉るほどにはなったが、やはりダメージにはなっていない。以前、上位の魔族に対しては魔術でなくアタッカーの必要がある、と言っていたのはこのせいか、魔獣を簡単に消し飛ばすソフィアの術が効いていないのだから。


「くっ……」

「く、くく……これ以上の術は撃てまい? 街中ではなぁ!」


 名も知らぬ吸血鬼が大きく息を吐いた瞬間、凄まじい気迫がこちらに叩きつけられる。それに威圧され、一瞬すくんでいるうちに、黒衣のマントが一気に接近してきた。


「……させるか!!」


 吸血鬼の突進を止めたのはエルだった。剣をかざし、ソフィアの前で振り下ろされた腕を受け止めている。


「人間風情がぁ……このアルカード・シスを止められると思うなッ!!」


 ソフィアにさんざコケにされたせいか、吸血鬼はかなりお怒りのようだ。というか、最初のやり取りのせいで少し、いや大分甘く見てしまっていた――エルの技量でもって、その一撃を耐えるのにギリギリといった表情をしているのだから、相手の力はかなり強いことが推察される。


「エルさん!」


 そう叫んだのはクラウだった。直後、エルの体を緑色の淡い光が覆う。補助魔法が掛かって相応に力が入ったのか、今度はエルが吸血鬼の腕を弾き返した。


「ふぅん、補助魔法……だが……!!」


 余裕綽々という表情の吸血鬼は、弾かれた右腕はそのまま、左腕を脇腹の高さから伸ばしてくる。


「……甘い!」

「そっちがねッ!!」


 伸びる左腕を止めるために、エルはすぐに剣を翻す。だが、それくらい出来るのは相手も想定の内だったのだろう――相手の手は、最初から剣を掴むために伸ばされていたのだ。


「鋼を魔法で鍛えることは……出来んよなぁ!」


 刃をものともせず、吸血鬼はエルの長剣を握る。ひびの入るような鈍い金属音が響いたかと思うと、その直後、剣は粉々に握りつぶされてしまった。


「しまっ……」

「遅い!」


 エルが柄を離して逃げるよりも早く、吸血鬼の膝が彼女の腹にめり込む。防具も無い状態、もろに入ったせいか――内臓をやられたのだろう、エルは口から血を吐きながら、そのままクラウの居る壁のほうに叩きつけられた。



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