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9-50:リーゼロッテ・ハインライン 上

 翡翠色の剣閃は壁を容易に切り裂き、自分の背後には人一人通れる分の外へと続く亀裂が出来た。レム一人を置いて――右京を倒さずに離脱するのは得策ではないと思う一方で、この狭い空間でへカトグラムの相手にするのは無理がある。そう判断して、自分は思い切ってリーゼロッテが穿った亀裂の方へと走り出し、一気にそこから外へと跳躍した。


 元々いた場所はヘイムダルの最下層だが、その周りには衛星のようにいくつかの岩石が浮遊しており、ひとまず一度そこに着地する。しかし一息つく暇もなく、上方から恐ろしいまでの殺気を感じて上を見ると、既に建物の切れ目まで移動しているリーゼロッテがこちらを見下ろしており――左手の宝剣から漆黒の球体が射出されるのを見て、こちらもすぐに次の足場へと跳躍する。


 次の足場に着地すると同時に一度加速を切ると、先ほど自分が乗っていた足場が重力波に呑まれて雲海の下へと落下していくのが見えた。再び奥歯を噛んで加速をして次の足場へと飛び乗った瞬間、今度は翡翠色の太刀が二つ目の足場を真っ二つに両断していた。


 一度距離を取って方策を考えることにしよう。リーゼロッテ本来の力に神剣の加護、その上にパワードスーツの力が加わってかなりのスピードはあるだろうが、こちらが重力波に呑まれさえしなければADAMsの方が速度は上なはずだ。狭い空間では重力波から逃げるのが難しいから外に出る選択をしたのであり、移動に集中すれば漆黒の檻に捕らわれることは無い。


 そう判断したはずだったのだが――浮遊する岩場を移動するがてら、亀裂から身を乗り出している黒い剣士の方を見ていると、彼女も躊躇なくその身を空中へと投げ出した。そして、発生させた力場を足場にし、リーゼロッテも空中をジグザグと跳び始める。


 自分は足場が無いと動けないのに対し、彼女はどこでも足場を作れる――つまり、彼女は自分に接近するのに最短距離を詰めることが出来る。さらに、武神はこちらの軌道を読み、先立って足場を神剣の光波で破壊することも可能であり、想定よりも距離を稼ぐことが出来なかった。


『くそ、なんでアイツは俺を目の敵にしているんだ!?』


 冷静に思い返せば、以前エルもスザクと空中戦をしていたのだから、リーゼロッテにはこれくらいは朝飯前なのだろうが――あまりにも鋭い、同時に絡みつくような執拗な殺気を感じ、思わず脳内で叫んでしまう。


『リーゼロッテ・ハインライン、DAPAの私設傭兵団の隊長。要人警護が任務だが……お前は何度もその警護を打ち破って暗殺を成功させている』

『それじゃあ、逆恨みってことか!?』

『いいや……先ほど奴自身が言っていたが、お前が何度も見逃してきたのが原因だろうな。

 お前は、ターゲット以外は殺さないと制約を掲げていた。彼女との戦いの中で、何度もその命を奪うチャンスがあったのにも関わらず、その制約を守ることを優先した……それが、彼女の戦士としてのプライドを深く傷つけていたのではないかと思う。

 極めつけに、さっきの一言は良くなかったな。リーゼロッテが最も嫌った言葉だ』


 そんなことを言われても、自分としては記憶にないのだが。しかし、べスターの言っていることは理解はできる。命のやり取りをしているのに手を抜かれるというのは、そこに対して真摯であればこそ、オリジナルのやっていたことをリーゼロッテは許せなかったのだろう。


 同時に、少し安心した部分もある。自分のオリジナルは暗殺者として、誰振り構わず殺して回っていた訳ではないということは分かったのだから。人殺しという事実は覆らなかったとしても、不要に命を奪うことをしていなかったのを知れただけでも、多少は気持ちも楽になる。


 とはいえ、オリジナルの行動の結果のツケを、一万年の時を超えてクローンである自分が払わされる時が来たとも言える。それは皮肉なこととも思うが――しかし、リーゼロッテが旧世界で生き延びなければ自分はエルと出会うことも無かったのだろうし、そう思えばこそ色々と複雑だ。


 宙に浮かぶ岩石を乗り継ぎながら――乗り捨てた岩は重力に引かれて次々に雲の下へと落下していっている――相手から距離を放すことに専念していると、再び脳内にべスターの声が響き渡る。

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