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9-49:始まりの依頼に対する回答 下

「一つ言っておくぜ、右京。俺は、自分自身がクローンであろうが、死骸であろうが、そんなことはどうでも良いと思っているんだ」

「しかし、こうやって墓場から掘り起こされ、都合のいいように使われているんだよ?」

「あぁ、そうかもな……だが、それが何だっていうんだ? 俺はこの星で神だとか名乗って、何も知らない人々を苦しめているお前らが許せない……それだけだ」


 それだけ言って、自分は虎の爪を強く握りながら肩の高さまで上げて見せた。同時に、背筋に悪寒が走る――これが自分に宿る未来視によるものなら、邪魔が入る前にこの男の首を切り落とさなければ。


「やれやれ、二対一とは分が悪い。それなら……!」


 こちらが奥歯を噛むのに合わせて、右京は嘆息交じりに首を振った。バックルに手を駆けて音速の壁を超えようとした瞬間、横の壁が崩落し――音速の壁を超えて変身が済むのと、こちらの身体を重力波が包み込むのはコンマゼロゼロ以下でほとんど一致した。


『……だが、このまま!』


 決着を付けてやる。重力の中でそのまま走り、右京の首にナイフを振り抜ける瞬間、翡翠色の刃がその往く手を阻んだ。


 刃を止めた剣の持ち主は、自分が良く知っている相手だ。長い髪に、女性としては高身長の美しい女剣士。相変わらず黒に身を包んで居るものの、今はコート姿ではなく、エグい角度のハイレグを――いや、恐らくはパワードスーツなのだが――着こんでいる。


 こちらが身を引いて体勢を立て直そうとした瞬間、相手の左手にある宝剣が怪しく光り、直径一メートルほどの漆黒の球体がこちらへ向かって放り出された。それを寸でのところでしゃがんで躱すと、すぐに黒衣の剣士は間合いを詰め、その長い足でこちらの顎を砕かんと蹴り上げてくる。


 短剣を交差させて蹴りを防ぐが、その脚力の恐ろしいこと――自分の体はそのまま背後へと吹き飛ばされてしまう。そのまま間合いを詰めることもできたのだろうが、相手はあえてそれをしてこない。恐らく、少し話をしたいといったところか。


「まさか出鱈目の預言書の通り、邪神ティグリスが復活するとは……本物のアナタともう一度出会えるなんてね……」


 ADAMsを切った瞬間、長い前髪から僅かに双眸を覗くことが出来た。美しかった彼女の琥珀色の瞳は、今は銀色に染まっており――同時にどこか蠱惑的な色を帯びながら、じっとこちらを見つめている。


「会えて嬉しいわ、タイガーマスク。アナタは私を覚えていないのでしょうけれど、私は夢の中で、ずぅっとアナタを想い続けてきた……夢の中で私は何度もアナタの首を跳ね、同時に私は心臓を抉られ……」


 女は一度言葉を切って小さく首を振った。彼女の動きに合わせて、結われた長い髪も左右に揺れ――そして、エルに宿った何者かは、そこでやっと顔を上げた。


「でも、それも私の願望に過ぎない。どっちだっていいの……アナタに殺されるのも悪くはないわ。本物のアナタはいつだって、私のことなんか眼中になくて……それが、私にとってどれだけの屈辱だったか、アナタには分からないでしょうね?」


 そう淡々と続ける彼女の喋り方は、なんだかエルに似ていると思った。もちろん、エルは殺し合いを好むタイプでないし、そう言う意味では別人ではあるのだが――口調が似ているというのもあるかもしれないが、どこか自虐的な調子がそっくりなようにも感じられる。


 しかし、どうするか――出来れば彼女を傷つけたくはない。何とか無力化出来ないか、そう悩んでいるうちに、右京が女の方を見ながら口を開いた。


「悪いね。でも、言った通りになっただろう?」

「えぇ。控えて居ろと言われた時には殺してやろうと思ったけれど、アナタの予測は外れたことが無いからね……ちなみに、次に声を掛けたら本当に殺すわよ。私の邪魔をしないで頂戴」

「あはは、了解だ……僕もそれどころじゃないしね」


 右京は黒衣の剣士から視線を外すと、宙に浮かぶレムの方へと向き直った。同時に、女は二対の神剣を構えなおし、こちらに向けて纏わりつくような殺気放ってきた。


「さぁ、構えなさいタイガーマスク。私は、七柱の創造神が一、武神ハインライン……リーゼロッテ・ハインライン! アナタが眼の敵にする者の一人なのだから!」

「お前は俺のターゲットじゃない」

「……アナタがその気にならないのなら、その気にさせてあげるわ!!」


 こちらの返答が気に食わなかったのか、リーゼロッテ・ハインラインは瞳に怒りの炎を灯し、右手に持つ翡翠色の太刀を振りかぶってきた。

次回投稿は10/17(火)を予定しています!

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