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9-47:始まりの依頼に対する回答 上

 姿を現したレムは――といっても、どうやら周りの映写装置の物で健在しているだけで、ホログラムのようだが――こちらを見ながら微笑んだ。


「アランさん、お久しぶりです……まぁ、私はずっとアナタを見ていましたが。同時に謝罪を。私は当初、アナタにこんな苦難を押し付けるつもりはなかったのですが……」


 彼女の微笑みは次第に深刻な表情へと代わり、最終的にはレムは大きく頭を下げた。そしてその背後で、右京はため息を吐きながら、どこか諦観の表情を浮かべながら口を開く。


「来たかい、レム……いいや、晴子」

「……晴子?」


 初めて聞くなのはずなのに、なんだか妙に懐かしく感じる。しかし、やはり思い出すことはできない。こちらが不思議そうに声をあげたせいか、右京は一度レムから視線を外してこちらを見ながら小首をかしげた。


「何だい、先輩は聞かされていなかったのかい?」

『そうか、やはり……』


 右京の言葉の最後を、脳内の声が遮った。べスターはここに来るまでにレムの正体に心当たりがあると言っていたことを思い出す。


『べスター、どういうことだ?』

『アラン、落ち着いて聞けよ。女神レム、あの姿をオレは見たことがある……彼女の本名は伊藤晴子。お前の妹だ』


 べスターから告げられた事実に対して、意外と自分の心は動揺しなかった。どちらかと言えば少し納得がいったくらいだ。


 レムが――晴子と呼ばれる彼女が自分を蘇らせたのは、恐らくだが自分が原初の虎だったからではなかったのだ。彼女はオリジナルのことを良く知る人物であり、同時にこの世界の在り方を見て、判断を下すのに相応しい人物であると、そう判断したのだろう。


 もっとも、自分の倫理観が特別に優れているとは思わないが――同時に、スザクが言っていたことを思い出す。妹は兄のことを信頼していたと。だから、彼女は自分を選んだのだろう。一万年の時の中で築き上げたこの世界の在り方の裁定者として。


 強いて動揺した点を挙げるとするなら、よりにもよって自分の妹が、背後で糸を引く黒幕と一度は契ったという所か。


 そう思いながら、自分はレムの姿をじっと見つめる。ふと、レムの顔が誰かに似ていることに気づいた。それは、血縁者である自分のことではなく――彼女の後ろに居る少年の顔立ちと、どこか似ているということに今更ながらに気づいたのだ。


『べスター、お前が気付いたもう一つのことって言うのは……』

『あぁ……シンイチという少年は、恐らくだが……晴子と右京の息子だ』


 つまり自分は、これから甥にあたる少年を斬らなければならないのか? それだけではない、レムの心情を思えば――我が子の身体に夫の人格が入っているというのは、それも倒さなければならない相手の魂が宿っているというのは、かなり堪えるのではないか。


 もちろん、右京が宿っている器がレムの息子であるというのは、自分とべスターの邪推に過ぎない。もしくは、シンイチが二人の子孫であるとしても、晴子自身が産んだ子供とは違うかもしれない。ハインラインのように血族を受け継がせているだけの可能性だってある。


 しかし、それにしては――少年の顔にはあまりにも晴子の面影がありすぎるように思う。それに、実の息子であろうと血族であろうとも、自分の血を分けた者と対峙しなければならないというのは辛いことのはずだ。


 そんなこちらの心配を他所に、晴子は――いや、女神レムは毅然とした視線を右京の宿る器に浴びせている。


「アランさん……この星を見て周って欲しいという私の願い、覚えていますか?」

「あぁ、覚えている」

「私はずっとアナタを見守ってきました。ですから、アナタが何を思っているかは知っています。そのうえで、改めてアナタの口で、アナタの意見を教えて欲しいのです……この星の在り方が正しいかどうか。我々七柱の創造神が作ったこの箱庭が、存続すべきものなのかどうかを」


 そう、全ての始まりはそこからだった。レムが自分に課した使命――それは、もはや自分にとって使命以上の意味を帯びている。仮に右京の器が自分の予想通りのものであったとしても――自らの胸に宿る決意を揺らす訳にはいかない。


「そんなの決まってるぜ、レム……この世界の在り方は間違っている。この世界は神々によって造られた箱庭なんかじゃない、こじらせたエゴイスト共に管理されるディストピアだ!」


 この世界を見て回って、辿り着いた答えはこれだった。思い返せば、かなり早い段階から答えは出ていたように思う。しかし、疑念が確信に変わるだけの時間も必要だったことも確かだった。


 自分が出した答えに対し――始まりの依頼に対する回答に対し、レムは真剣な面持ちで大きく頷き返した。

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