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9-42:熾天使の絆 下

『……もらった!』


 範囲を絞り、しかし熾天使の装甲を貫けるほどに出力を上げ、イスラーフィールを巻き込まないようにジブリールの足を狙って光の矢を放つ。ジブリールも再加速をしてイスラーフィールから距離を取ったものの、それを予想して偏差射撃を行った――ジブリールはこちらの攻撃を避けることは叶わず、圧縮された光の矢によって右の膝下を撃ち抜かれた。


 もう、音速戦闘の脅威はないだろう――ADAMsを切った瞬間、足を失った熾天使はその場に倒れ込み、しかしすぐに両腕を使いながら上半身を起こして頭上の僚機を見つめだした。


「ぐっ……イスラー……フィール……」

「……どうして? 私を壊すんじゃなかったの?」

「そうよ……壊して……でも、アナたは……あたシの……たった一人の、大切な僚機……」


 見つめ合う二人の熾天使を見て、成程、イスラーフィールがジブリールを救いたいと言った動機もなんとなくだが理解した。強力な指令によって敵対していても、最後には僚機を貫けなかった所を見るに、あの二人の絆は本物なのだ。


 以前、アズラエルを見た時にも近い感情を持ったことがあるが――第五世代と我々第六世代との差とは何なのだろうか? 彼らは高次元存在を降ろす器としては適合しなかったらしいが、時おり見せる感傷的な立ち居振る舞いは、肉の器にある第六世代型と大差も無いように見える。

 

 元々は七柱の尖兵として敵視していた天使達ではあるが、結局のところは第五世代も七柱の被害者に過ぎないのだ。彼女らは彼女らなりに世界を認識し、一定の自我を持っているのだから。


 もちろん、ある種の同情と共感、憐憫を覚えたことに違いは無いが、だからと言って他の天使たちに手心を加えるつもりは無い。自分の目的は七柱を倒すことであり、それを邪魔をするのなら容赦はしない。


 とはいえ、今回はこれで良かったのだろう。足を破壊してしまったのは自分であり、傷ついたジブリールと戦力の落ちているイスラーフィールを連れて他の者たちと合流する難易度は上がってしまったが――彼女らも七柱に在り方を歪められた存在なのだから。


 ともかく、ここは敵地であり、他の天使たちがこちらへ向かってきている。イスラーフィールがジブリールのプログラムを書き換えている間に、自分は防衛をしなければならない。


 そう思って二人の少女から視線を離して防衛行動に移ろうとした時――イスラーフィールが倒れ込むジブリールに近づいたまさにその時、二人の少女の間に鈍色の亀裂が走った。文字通り、空間に突如として現れたその亀裂から、恐らく魔術であろう光線が跳び出してきた。


 イスラーフィールはそれを素晴らしい反応速度で躱すが、それと同時に亀裂と、倒れていたはずのジブリールの姿が忽然と消えてしまったのだった。


「……何が起こった!?」


 思わず叫ぶ自分に対し、イスラーフィールは肩を落とし――ややあってから頭を振り、自分の方へと歩いてくる。


「……私のカメラをスローモーションで再生しても、ジブリールは忽然と消えました……恐らく、アルファルドのJaUNTで、瞬間移動させられたのだと思います」

「成程……しかし、何故?」

「もし今日中に決着が付かなかった時に、こちらの戦力が増強されるのを恐れたから……ないし、アルファルドがルーナに対して恩を売りたかったから、というのが私の考えにはなりますが……」


 イスラーフィールは自信なさげに答える。合理的に考えれば彼女の考えは正しくありそうだが、自分としても腑に落ちないのも確かだった。何なら、敢えてジブリールを捨ておいて、彼女を護りながら移動する自分とイスラーフィールの邪魔をする、くらいのことを右京はしてきそうに思うからだ。


 ともかく、この場に残ったのはジブリールを救い出すことは出来なかったという結果だけだ。もし自分が警戒を怠らずにADAMsを起動していれば、こんな風に――目の前の少女が落胆することは無かったかもしれない。


「……すまなかった」


 気が付けば、自分の口から謝罪の言葉が出ていた。それが意外だったのか、イスラーフィールは悲しげな表情はどこか唖然としたものに代わり、すぐに口元に微笑を浮かべて首を横に振った。


「謝る必要はありません。むしろこちらこそ、私の我儘に付き合ってくれたことに礼を言わねばなりませんね」

「ふん……では、ピークォド号に合流するぞ。貴様はアシモフの護衛をしなければならないのだろう」

「はい、そうですね……急ぎましょう。露払いには、私も参加しますから」


 イスラーフィールは無表情に戻り、袖からチャクラムを出して回しながら、眼下から忍び寄る天使たちを見つめる。自分も気を引き締めなおし、弓を構えて敵の気配を手繰り――そして自分たちは襲い来る敵の魔の手を迎撃しながら一気に斜面を降り始めたのだった。

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