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9-40:熾天使の絆 上

 セブンスが無敵艦隊の主砲を退けた後、自分もイスラーフィールが操縦する偵察機でヘイムダルを目指した。その道すがらでは戦闘機の追跡と、戦艦からの誘導ミサイルによる攻撃はあったものの、それらは精霊弓で撃ち落とすことには成功した。


 とはいえ、戦闘しながらの移動になった以上、ピークォド号には遅れて空中要塞に到着する形になった。こちらの着地点は平坦な高台で、ピークォド号から離れており――すでに眼下では激しい戦闘が開始されているのが視認できた。


「もう少し近くに寄せられなかったのか?」

「無茶を言わないでください……浮力で制動しているピークォド号と違って、偵察機は止まるのに拓けた場所が必要なのですから」


 自分が精霊弓の弾倉を入れ替える傍ら、イスラーフィールが偵察機の長細いガラス蓋を開けながら答えた。自分だけならADAMsを使えばすぐにピークォド号の方へと合流もできるが、超音速移動の機構を備えていない、それも例の反物質バリアもないイスラーフィールを取り残していけば、彼女だけやられてしまうだろう。


「……貴様、体重は?」

「女性に体重を聞くとは、良い趣味をしていますね? まぁ、お察しの通りです」


 彼女を抱えてADAMsを起動することも考えたが、その考えは棄却することにした。特殊合金で出来ている彼女を抱えること自体は自分の義手を使えば不可能ではないだろうが、片腕で抱えられるほど軽くもないはずだ。いくら音速と言えども、両腕が塞がっている状態で空中要塞を移動をするのは危険だろう。


「とはいえ、体表はシリコンで出来ていますから、結構柔らかいんですよ?」

「どうでも良い情報だ。ともかく、早くピークォド号の所まで移動して、合流しなければな……」


 ローブを翻しながら無表情で一回転する熾天使を横目に、ピークォド号までの道筋を模索する。同時に、神経を集中させて辺りの様子を伺う。ここは既に敵陣の真っただ中であり――ここに来るまでも随分と戦わされたが――不可視の怪物がどこに潜んでいるとも限らないのだ。


 臨戦態勢に入ったのは僥倖だったと言えるだろう。神経を研ぎ澄ませていなければ、眼下の鉄火に紛れた無邪気な殺意に気付かなかっただろう――すぐに奥歯を噛み、斜面にある屋根を移動しながらこちらへ接近してくる薔薇色の髪の少女に対して迎撃態勢を取る。


 現在はトリニティ・バーストによる強化がないので、熾天使との接近戦は最後の手段だ。音速同士でぶつかれば、義手にダメージが入って弓を引けなくなる――先ほど弾倉を入れ替えたばかりの弓を番え、移動しながら熾天使の移動する軌道を読み、光の矢を放つ。


 敵もこちらの攻撃パターンを学習しているのだろう、ジブリールは屋根をジグザグに移動しながら放たれた波動を躱し――そして一気に高台まで躍り出て、こちらには目もくれずにイスラーフィールの方へと突撃してきた。


『ちっ……!』


 ジブリールがこちらに眼もくれていない間、イスラーフィールごと仕留めれば良かったものを――気が付けば自分は水色髪の少女の前へと移動しており、真正面から迎撃する形を取っていた。


 ジブリールはこちらの攻撃を避けたものの、そこで加速に限界が来たのだろう――こちらも神経に限界が来て、世界に風の音が戻ってくる。正常な時の流れの中で改めてジブリールを見ると、どこかアイセンサーの焦点があっていないように見えた。


「イスラーフィール……アたシを裏切っタのねェ……」

「ジブリール、違うよ、私は……!」


 アナタを救いに来た、そう言いたかったのだろうが――感動の再会といった雰囲気でないことは明確だ。


 確かに、イスラーフィールはDAPAを――僚機を裏切ったとも取れなくもない訳だが、それにも増してジブリールの様子がおかしい。元々感情的で情緒の安定しないアンドロイドではあったが、以前にも増して挙動や情動が不安定に見える。


 その答えは明白だ。恐らく、ジブリールはルーナより絶対の命令を受けているのだろう――僚機であり、敵に補足された裏切り者であるイスラーフィールを倒す様にと。そしてそれを証明するかのように、ジブリールは首から上をガタガタと揺らしながら、焦点の合わない瞳でイスラーフィールを見つめていた。


「壊しテやる……コワしてヤるこワしテやルコワシテヤル!!」

「ジブリール!」


 相手が動き出す気配を察知し、こちらも再びADAMsを起動し、襲い掛かってくるジブリールを迎え撃つ。とはいっても、出来ることは先ほど同様に弓で牽制することくらいだが――それらは自動学習によって対応されてしまうので、致命傷を与えることは出来ずに追い払う程度のことしかできない。


 こんなやつに足止めを食らっている場合ではない。自分はどこかに潜んでいるであろうアルジャーノンに対処しなければならないのだから。それならば、加速の切れたタイミングを狙い、一気に仕留める――多少無理をしてADAMsを引っ張れば不可能ではない。しかし、相手の加速が切れる直前、脳内のイスラーフィールの声が聞こえだした。

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