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9-38:大いなる前哨戦 上

「くっ……凄い揺れてるけど、大丈夫なのかい!?」


 誰にともなくそう叫ぶと、激しく揺れる船体などもろともせず、アズラエルが席を立って自分の横まで来た。


「問題ない……モノリスを活用したバリアがある。だが、内部に入られたら危険だ……迎撃のため、先に出るぞ」


 そう言い残し、アズラエルはブリッジから颯爽と抜け出していった。彼の役目は艦内に侵入する敵機を倒すことだ。そして視線を横に移すと、アシモフが立ち上がるアランに向かって声を掛けているのが見えた。


「アラン・スミス。アナタは周囲の殲滅が終わってから出撃してください」

「しかし……」

「アナタがもっとも熾烈な戦いをするのですから、消耗は抑えておきなさい」

「あぁ……分かった」


 アシモフに窘められ、アランは渋々、という調子で椅子に座りなおした。対して自分は立ち上がり――本来ならすぐにでも他の者たちの後を追うべきなのだろうが、それより前に彼に声を掛けに行くことにする。


「アラン君」

「ティア……」


 こちらを見上げる彼の顔には、申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。恐らく、自身が切り込んでいけないことを申し訳なく思っているのだろうが――。


「いつも、ボクらは君に護られてばかりだったんだ。今は、ボクのことを頼りにして欲しいな」

「あぁ、そうだな……ティア、必ず生き残ってくれ」

「ふっ……そう言いたいのはボクの方だよ、アラン君。君は本当に無茶ばかりするんだから」


 頼りにしてとは言ったものの、それは原初の虎という切り札を温存するため自分たちは露払いをするに過ぎない――時が来れば、自分たちの中で最も熾烈な戦いを繰り広げるのは彼なのだ。


 先日、ナナコと船内で話したように、アランが大怪我を負った後は眠る時間が増えてきているという事実を思い出し――もう、もう一度大きな傷を負ってしまったら、もう彼に次は無いのかもしれない。そんな不安が胸をよぎる。その不安に押しつぶされないように――少しでも彼の生を実感するため、自分は膝まづいてアランの手を取って強く握った。


「お願いだよ、アラン君。どうか生き残って……クラウを取り戻す道を一緒に探してほしい」

「あぁ、そうだな。俺はアイツに約束したんだ。迷ったら、必ず俺が探し出してやるって。もし、アイツの魂が迷子になってるなら……助け出してやらないとな」

「うん、約束だよ」


 握る手を緩めて、代わりに彼の右の手の小指に自分の小指を絡ませた。神妙な表情をしていた彼が表情を和らげて「約束だ」と言ってくれたことに対し、少しばかり安堵を覚え――自分も立ち上がり、ブリッジを後にした。


 艦内の廊下を過ぎ、入口の所まで来ると、外から激しい戦闘音が聞こえだした。ベルトから新しい機械仕掛けのトンファーを取り出して自分も戦闘に参加しようと思った矢先、扉のすぐそばでアガタが腕を組んで立っているのが見えた。


「ティア、司教クラスまでの魔法を使えるようにしたと、レムから通信が入りました」


 そう言われても、何の変化もなかったのだが――試しに自分の身に司教クラスの補助魔法を掛けてみることにする。すると、確かに魔法は発動し、身体にいつも以上の力が溢れるのを実感できた。


 こちらが魔法を使えたのを確認し、アガタ・ペトラルカは正面に立てていた鉄のこん棒の柄を握り、勢いよく振り回し――眼前で繰り広げられている戦いに目を向けたようだった。


「ティア、見えますか。空中の庭園におわす天使たちが……」


 アガタに並び、自分も正面を真っすぐ見る。片目が使えないので視覚による距離感こそ掴めないものの、第五世代型アンドロイドの存在は気配で感知できる。ホークウィンドの鍛錬の成果が魔法によって更に引き上げられ、より鮮烈に不可視の存在の気配を感じられるようになっていた。


 眼ではなく、この身が捕らえる蠢く無数の影たちは、天使などという厳かな存在ではなく――。


「ここに居るのは天使などではなく……薙ぎ払うべき敵だ!」

「上等ですわ!」


 二人で檄を飛ばし合いながら、一気に前へと走り始める。アガタもレムの助力により、完全迷彩を感知できるようになったのだろう、その細腕で迷うことなく振りぬかれた鉄棒の先には不可視の敵が確かに存在し――強大な臂力ひりょくで振りぬかれたアンドロイドは、姿を表すのと同時に大きくへしゃげて動かなくなった。


「まだまだ……!」


 アガタは鉄棒を振り回して一回転、そのままの勢いで迫ってきている一体を吹き飛ばし、今度は踏み込んで「かっとばせですわ!」と叫びながら更にもう一体のアンドロイドを吹き飛ばす。鉄の塊は敵陣にまで吹き飛ばされ、天使どもはその隊列を大きく乱した。


 こちらも負けてはいられない。大空の要塞、その石畳を駆け抜け、自分はアガタが乱した敵陣の真中へ突っ込んだ。


「神薙流奥義、四の型……煉獄火炎!」


 ベルトからクラウが作っていた炸薬を取り出し、それを敵が密集しているところに投げつける。言ってしまえば神薙流でも何でもない、爆薬を投げつけているだけなのだが、それっぽい名前が付けばきっと威力も上がる――大切なのはそういうことなのだろう。


 炸薬は燃え上がりはするものの、確かなダメージを与えられたのは爆心地に居た一体だけだった。流石は七柱の尖兵、簡単な攻撃では倒れてはくれないか。


 だが、敵陣に突っ込んだのには他にも理由がある。補助魔法と結界のある今ならやれる――第五世代型達が近距武器を構えてこちらへ向かってくる気配を察知し、そのまま低姿勢に構えて足元で結界を発動させ、煙の渦巻く正面へと一気に突き進む。


 僅かな隙間を縫って敵陣を抜けると、背後で轟音が鳴り響いた。自分が一気に駆け抜けたことで第五世代型達が互いの獲物を誤ってぶつけ合い、破壊し合っているのだろう。


 ともかく、やはり本来レムリアに存在する武器では第五世代型アンドロイドを破壊するのはかなり厳しいことは分かった。アガタのように質量にモノを言わせればいけるのだろうが、自分としてはもう少しスマートに敵を殲滅したいところだ。また、足を止めて全力で蹴り飛ばせば破壊も可能だろうが、この乱戦の中で足を止めること自体が自殺行為だ。


「それなら……これで!」


 先ほど取り出したトンファーについているトリガーを引きながら、そのまま透明の敵に対してすれ違いざまに拳を振り抜く――機械仕掛けのトンファーから、ナナコの持つ剣のような光の刃が発生し、それが確かな熱をもって天使の首を跳ね飛ばした。


 この武器ならば、天使に対して確かなダメージを与えられる。そのまま気配の感じるまま、こちらへ向かってくるアンドロイドたちの隙間を縫いながら――同時に敵の頭部と四肢を切断しながら――拓けた場所で大太刀回りをしている巨躯の元へと合流した。

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