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9-35:キーツの無敵艦隊 上

 作戦会議が終わり、ピークォド号はヘイムダルに向けて出発した。敵からの襲撃を防ぐために船体に迷彩を施して進んでおりスピードを落としているため、到着までにはまだしばらくかかる見込みだった。


 ブリッジに一同買集まっているが――恐らく決戦のイメージを脳内で描いているのだろう――緊張のせいからか皆黙っている。ただ一人、自分の隣に座る少女を除いて。


「T3さん! 緊張してますか!? ちなみに、私は凄く緊張してます!」


 確かに珍しく、セブンスは緊張した面持ちでこちらを見つめていた。


「貴様のような能天気でも緊張するのだな」

「むっ……私だって緊張はしますよ! だってこの一戦に、この星の……宇宙の命運が掛かってるんですから」


 成程、そう考えれば緊張するのも頷けるか。対する自分はと言えば、そこまで緊張しているわけではなかった。危険な作戦と言うのはいつものことだし、最初からこの星を創った絶対者を相手に戦うと誓ってきたのだから、今までと何ら変わりないのだから。


 逆に、セブンスが緊張してしまっている要因は、誰とも知らぬ者たちのことまで考えてしまっているのが原因だろう。お人好しな彼女らしいと言えばそれまでだが、重要な場面で緊張により力が発揮できなかったでは困る――いや、能天気なセブンスは少しくらい緊張しているほうが良いのかもしれないが、ともかく重い雰囲気で横に居られるのもこちらの調子が狂うのも間違いなかった。


「そんなに難しく考えるな」

「うぅ、でも……」

「なまじ見知らぬ者たちのことまで背負おうとするから身体に無駄な力が入るのだ。いつも通りで良い」

「いつも通り……はい、そうですね!」

 

 自分の言葉に少女は正面を向き、自己暗示を掛けるかのように「いつも通り、いつも通り」を繰り返した。しかしピンとこなかったのだろう、再び不安そうな表情を浮かべながらこちらへ向き直った。


「あの、私のいつも通りってどういう感じでしょう?」

「どうも何も、そういう感じだ」

「えぇっと、それってどういう……?」

「……来る!?」


 セブンスの質問は、アラン・スミスの声でかき消された。自分もセブンスも、それどこかブリッジに居る全員の視線がアラン・スミスに集まった。


「来るって……はぅ!?」


 セブンスの語尾が上擦ったのは、左舷からの衝撃に艦隊が揺れたせいだ。「バリアを展開」とすぐに動いたのはイスラーフィールで、併せてアズラエルが被害状況を確認し、艦内の機材で消火活動を開始しはじめた。


「損傷は軽微ですが……レア様、これは……」

「この反応は……フレディの無敵艦隊!?」


 レーダーに一瞬だけ、無数の点が映し出され、そしてすぐに消えた。フレデリック・キーツの無敵艦隊に関しては、ゲンブから共有は受けていた。数百の無人ステルス戦闘機と五つの艦隊からなる鋼鉄の黒翼団――元々は惑星レムの先史文明時代を築いた者たちやその他の知的生命体の来襲に備えるために作られた大気圏内外両用の艦隊にして、熾天使を持たない代わりに彼が持っていた独自戦力だ。


 しかし、ダン・ヒュペリオンが亡き今、肉の器を持たないフレデリック・キーツの艦隊がどうして出てきたのか――同様に疑問に思ったのだろう、アランが「どういうことだ!?」とアシモフに荒げた声で質問をぶつけている。


「フレデリック・キーツが俺たちを裏切ったというのか!?」

「いいえ……右京が艦隊のコントロールを奪っているのでしょう。無敵艦隊の起動は本体であるフレデリック・キーツのDNA認証が必要です。右京はフレディの本体を回収し、それで無理やり起動し、百の戦闘機と五つの艦隊をハッキングして動かしているのかと」

「くそ……何でもありだな、アイツは!」


 アラン・スミスはそう怒鳴りつけて、すぐさま人形の方へと向き直った。


「ゲンブ! ピークォド号の装備で抜けられるんだろうな!?」

「いいえ、かなり厳しいと言わざるを得ないでしょう。我が艦を護るバリアは母なる大地のモノリスと直結しているためかなり頑丈と言えますが、ダメージが蓄積すればエネルギーの充填よりも消費の方が早い……せめて、戦闘機を撃墜できれば……」

「……私が出よう」


 そう言いながら自分は席を立ち、扉の方へと向かった。ピークォド号にも迎撃システムが搭載されていると言っても、さすがに百を超える戦闘機が同時に仕掛けてくることは想定しないはず。そして、音速を超える戦闘機に対し、遠距離攻撃を仕掛けられるのはこの中で自分しかいない。


 しかし、どう足掻いても足場は欲しい――それなら、準備をさせればいいか。


「ゲンブ、ピークォド号には超音速の偵察機が搭載されていたな?」

「えぇ……ですが、アナタはそれを操縦できますか? 偵察機の操作は教えていなかったと思いますが」

「何を言う。弓を引くのに機械の操作などしていられるものか……適当な人物を選んで発進させてくれ」


 それだけ言い残し、自分はブリッジを抜けだしてピークォド号の入口部分へと移動を始めた。扉を占めるバルブを回し、扉を開き――艦を護るように淡い膜が貼られており、その外側で爆発が起こっているのが見える。外界からの攻撃を防ぐためのバリアにぶつかっては、自分の体が消滅してしまうだろう。


『ゲンブ、私が飛び降りる間だけ艦のバリアを解除してくれ』


 脳内の通信機でそう告げて、自分は背から精霊弓を取り出し、ADAMsを起動するべく顎を降ろし――ふとその時、自分が来た通路の方から足音がこちらへ近づいてくるのが聞こえた。

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