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9-28:船内の二人部屋 上

 ホークウィンドとの鍛錬が終わってから自室に戻ると、アガタが先に戻っていた。彼女はこちらを見るなり先ほど一件について――アランとの件を邪魔してしまったと思ったらしい――謝罪をしてきた。


 とはいえ、自分としてもアレで良かったように思う。自分自身も雰囲気に流されてしまった部分もあるし、クラウに対して申し訳ない気持ちがあったのも確かだ。もちろん、肝心な彼がヘタレなのも相変わらずだったことだけは納得いかないが、それでもその場の勢いで何とかなってしまうより良かったかもしれない。


 実際の所は男女の情事なんか、その場の勢いが大切なのかもしれないが――ともかく気にしてない旨をアガタに伝え、備え付けのシャワーで汗を流した後、ベッドに腰かけて先ほどホークウィンドに共有されたことをアガタには話しておくことにした。


「成程……それは、アランさんとナナコさんには言わない方が良いでしょうね」

「まぁ、本当は君にも言うかは悩んだんだけどね」

「それって、どういう意味ですの?」

「何って、文字通りの意味だけれど……深い意味は無いよ」

 

 恐らく、彼女自身は感情を上手く抑え、ポーカーフェイスに徹せられると認識しているのだろうが――なんやかんやで顔には結構出るタイプだ。教会を追放されるときも、レヴァルで再会した時も、彼女はいつも申し訳なさそうな表情をしていたから、自分はクラウと比べて彼女に対する不信感は少なかったという事情がある。


 とはいえ、同時にかなり口が堅いのも間違いない。様々な事情があったものの、彼女はそれらを匂わせることすらしないで、レムのみことのりを実行し続けていたのだから。そういう意味では話して問題ないと判断して共有した形だ。


「ふぅ……まぁ良いですわ。アナタなりに、私のことを信頼してくれているって証拠なのでしょうし。来るべき時が来るまでは、私もそのことは胸の内に止めておくことにします」

「あぁ、そうしてくれ」

「ところで……これは、ゲンブたちには共有済みですが……先ほど、一度だけレムの声をキャッチできました。ヘイムダルへの侵入作戦はレムも賛成であり……同時に、これが最後の戦いになるだろうとも。

 右京達は我々の襲撃に備えて海と月の塔とヘイムダルにそれぞれ第五世代型を配置しているようですが、主力であるアルジャーノンやハインラインは右京のJaUNTで瞬時に移動できるので、どちらを攻めても奇襲として成立しないようです」

「えぇっと、JaUNTって言うのは何なんだい?」


 こちらの質問に対し、アガタは「私もあまり細かいことは共有されてはいませんが」と前置きを置いた。


「JaUNTは元々、旧世界でデイビット・クラークなる人物がモノリスに接触することで扱っていた能力のようです。端的に言えば瞬間移動をする能力であり、接触している物体と合わせて、術者を瞬時に別の空間へと移動させる能力のようですわね」

「厄介そうだね……欠点は無いのかい?」

「JaUNTは、転送先の空間を思い描かなければならない……そのため、知らない所への瞬間移動は出来ないようです。

 また同時に、空や海中など風景の変わらない場所への移動は難しいようですわ」

「なるほど、攻めには使えなさそうな能力だけれど……」

「えぇ、構造を知る空間内、つまり自分たちのテリトリーにおける防衛戦においてでは、かなり強力な能力と言わざるを得ませんわね」


 海と月の塔では七年ほど生活していたが、多くのフロアは立ち入り禁止であり、自分ですら把握していない場所は多い。ヘイムダルについては言わずもがな――それに対して塔も空中要塞も敵にとっては勝手知ったる自分の庭だ。地の利は完全に向こうにあると言える。


 一応、アシモフによりある程度の内部構造はゲンブに共有はされているらしいものの、それでも自分たちの襲撃に合わせてどこかしら改修していたり、罠を設置したりしている可能性も否めない。


 そもそも、本来戦いというものは圧倒的な物量で押しつぶせる場合を除いて、守るより攻めるほうが難しい。物量で負けている自分たちが攻め戦をすること自体に大分無理がある訳だが――とはいってもこれが恐らく最後のチャンス、やり切るしかない。


 アガタの話を聞きながらそんな風に思考が周るが、ネガティブなことをいうこともない。ひとまずJaUNTとは何かは理解したので「なるほど」と言いながら頷き返すと、アガタも頷き返して話を続ける。

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