表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
470/992

9-26:神薙の巫女 上

「ホークウィンドも、誰かを思って戦っていたのかい?」

「私の場合、それは任務と祖国への忠義であったのだろう」

「でも……アナタの故郷は既になく、任務を下した人だって、既に亡くなっているんじゃないのかい?」


 こちらの質問に対して、ホークウィンドは「その通りだ」と頷き――どこか遠い目をしながら続ける。


「そう言う意味では、私もT3や今のアラン・スミスと変わらない。亡き者の無念を晴らそうという己の願望が……そして全てを奪った者たちへの怒りの炎が、私に戦う力を与えてくれていたのだ」

「復讐かい?」

「うむ……しかし、それは強い想いでもあるが、同時に脆さもある……復讐とは奪ったものを打ち滅ぼすということに対して持てる力の全てを注ぎ込むことに他ならない。そう言う意味では、我が身を顧みない諸刃の刃であるな」


 復讐は諸刃の刃という言葉は、自分の胸にすとんと落ちてきた。今のアランについて自分が感じている懸念はまさしくそれだ。元々無茶をするタイプではあったけれど、それ以上に今の彼には脆さがある――それが自分にとっては心配なのだ。


「ねぇ、ホークウィンド。つまらない悩みだと思って聞いてほしいんだけれど……ボクは、アラン君に復讐のために戦って欲しくないんだ。もちろん、彼の心を否定したわけじゃないし、ボクもアラン君本人にはそれで良いって言ってしまったけれど……」

「何故、そなたは虎に復讐を求めぬのだ?」

「それは……」


 予想外な問答に、一瞬返答に窮してしまう。先ほどから答えを明示してくれていたホークウィンドから、まさか質問が飛んでくるとは思わなかったのだ。


 繰り返される質問に、自分の疑問を何とか言語化しようと試みる。中々上手く言葉にできないが、ホークウィンドはじっと待ってくれているが――ひとまず、思いついたことを口に出してみることにする。


「きっと、今の彼が痛々しいからだと思う。うぅん、ちょっと違うな……彼らしく感じないから、かな」

「ふむ、成程……それでは、彼らしいとは何だろうか?」

「えぇっと……うん、誰かのために一生懸命で、自分のことなんか顧みないで走り抜けるのが彼らしいというか……」


 ホークウィンドからの問答が続くにつれ、自分の思考が段々と言語化出来るようになってきた。なるほど、彼はこうやって、自分が答えに辿り着くのを手助けしてくれていたのだろう。


「ボクはきっと、アラン君の復讐を否定したいわけじゃないんだ。ただ、今の彼は誰かを護るというよりも、敵を滅するために戦っている……それがなんだか、怖いんだと思う。

 でも、復讐のために戦うのは止めて、なんてボクには言えないし、生ぬるいことを言ってるって言うのは分かってる。ボクだって、ルーナ達を許せないって気持ちは変わらない……でも、それでも、今のアラン君は、ボクが見てきたアラン・スミスじゃないんだ」

「そうか……なればこそ、やはり彼の側に居てやるといい」

「どういうことだい? それだけじゃ、根本的な解決にはならないと思うけれど……」

「うむ。実際、そなたの悩みが直ちに解消されるわけではない。同時に、今の原初の虎は、何を言っても心が晴れることもない。

 だが、いつか気付くときも来るはずだ……失ってしまった物は取り返せはしないが、残っているものは護らなければならないという時がな」

「ふぅ……なんだかそれって男の勝手って感じがするな」

「むっ……」


 率直な意見だったのだが、思いのほかホークウィンドには効いたらしい――男は珍しく小さく呻いて押し黙ってしまった。とはいえ、自分の意見もまた一理あるとは思う。


 そもそも、彼の力になりたいという己の願望に対して、ただ付いて行って護られるのでは本末転倒だ。こちらとしては、破滅に向かっているように見える彼を何とかしたいのだから。


「仮にアナタの言う通りの選択をしたとしても……今、クラウの気持ちが良く分かるよ。ボクは彼の役に立ちたいと思っているのに、結局護られる選択肢をするだなんて、なんだか納得いかないよ」

「……確かにな。ではこういうのはどうだろう? もしそなたがアラン・スミスの在り方に本当に耐えられない時は……いいや、彼の心が闇へと落ちそうな時には、頬を叩いてでも正気に戻してやるというのは」

「えぇっと……良いのかな?」


 叩いてでも止める、というのは少々我が強すぎる気がして思わず質問を返してしまったのだが、ホークウィンドは腕を組んだまま大きく頷いた。


「良いのだ。復讐に心を縛られて、目が曇り大義を失うことがあってはならない。互いに滅し合おうというのだ、そこに貴賤や善悪などもあり得ぬが、同時に人として超えてはならぬ一線があることも確かなことなのだから」

「……なるほど。うん、そっちの方が、なんだかボクに向いていそうだ」


 正確には今の自分には、ではあるが。少なくとも、受け身で居るよりはずっと良いはずだ。心の中で反芻していると、師は腕を解いてこちらを見据えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ