表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
468/992

9-24:知的生命体における自己規定の考察 上

 ホークウィンドとの座学は、ピークォド号の格納庫を利用して行っている。座学と言えども演武など軽く動き回ることもあるし、そのためには比較的広い空間が必要だからだ。


 格納庫の中には、何個か乗り物のようなものが陳列されている。以前ナナコに聞いた話では、いわゆる脱出用の乗り物らしい。大型の帆船に取りつけられている小型のボートと同じようなものと考えれば、空という海を漂うこの船にそういった機械が搭載されているのも納得できる話でもあるだろう。


 ともかく、先ほど軽い組み手を終え、今は座学としてホークウィンドの忍術講習を受けている。彼は機械を好まないのか――使えはするのだろうが――わざわざ移動式の黒板を運んできて、そこにチョークで絵や文字を力強い筆圧で刻んでいた。


「これが火遁の術だ。実戦では、導火線に一斉に火をつけて投げることになる」

「ふむ……クラウが作ってた爆薬を使えば、同じことが出来るかな? まぁ、術というか、発破を投げつけているだけな気がしないでもないけれど」

「細かいことは気にするな。大切なのは炎が巻き起こるという事象だ」

「うぅん、忍術とやらは奥が深いねぇ」

 

 そもそも、袖から一気に投げ出した発破に同時に火をつけるということからして難しそうだ――というか、何か根本的に間違えているような気がしないでもない。ともかく、忍術の奥が深いということ自体はきっと間違えてないだろう。


 ホークウィンドの講習が終わり、今度は瞑想を言い渡され、胡坐をかきながら瞳を閉じて精神を統一しようとしていると「感謝しているぞ、ティア」とホークウィンドの声が聞こえてきた。目を開くと、いつの間にか目の前で男も胡坐をかきながら瞳を閉じていた。


「瞑想中なのに会話していいのかい?」

「むしろ、今が良いだろう……そなたの心に迷いが見えるからな。その辺りを払拭してからの方が精神も統一しやすいはずだ。ただし、姿勢はそのままで、呼吸もそのままで……その方が、雑念に振り回されずに思考ん集中しやすくなる」


 言われるがままに再び瞼を閉じて、呼吸を意識する。するとなんとなくだが気分も落ち着いてくる。確かに、この状態で話すのも悪くなさそうだ――そう思っていると、正面からホークウィンドが「私は」と切り出し始めた。


「所帯を持つこともなく、ただこの生を任務と戦いに捧げたのだが……まさか、私の技を継いでくれる相手が居るとは思わなかった」

「ボクはあまり良い生徒じゃないさ。アナタの技を再現できるだけの技量は、今のボクには無いんだから」


 ホークウィンドの技が無茶苦茶であるのは大前提にあるとしても、以前の自分ならある程度のトレースならできたはずだ。クラウが望んでさえしてくれれば、それを自分は体現することが出来るから――多少は無茶な動きでも再現できるはずなのである。


 しかし、今の自分にはその原動力そのものがない。学ぶことは出来ても、おっかなびっくりにマネすることくらいしか出来ない。しかし、瞼の奥で巨漢の首が横に振れる気配を感じる。どうやら師の考えは違うようだ。


「いいや、そんなことはない。短時間の修練で第五世代型の気配を見破ったのだから、才能は間違いなくあるし……何より、出来ないと思うことは避けたほうが良い。

 人間が想像できることは実現できる……旧世界のある著作者が残した言葉だ。私はこの言葉に胸を打たれ、その通りに実践してきた。

 もちろん、文字通りにすべてが可能だったわけではない。どれだけ望もうとも時間を超えることは出来ないし、光の速さで動くことなども不可能だ。だが……同時に、望まなければ進歩はないし、進まなければ実現もあり得ない。

 そう言う意味では、我が忍術でもっとも重要なことは、望むこと……自分には不可能と諦めず、可能となるまで研鑽を続けることなのだ」

「ははは、出来ると思って実際に分身したりしているから、あながち嘘でもないんだろうけれど……」


 ホークウィンドが自分に対して言ってくれたことは、かつて自分が誰かに言ったことがある。それを思い返し――すると胸がざわつくので、改めて再び目を閉じて呼吸を整える。


「ボクも同じようなことを、クラウに言い続けたよ。実際に、アナタの言う通りだと思う……でも、ボクは文字通りに半人前なんだ。一人で完結した人格じゃない。望むことはクラウに任せていたし、自分一人じゃ何を望めばいいのか分からないんだよ」

「私から見れば、そうは見えんがな。もし、そなたに望む心が無いとするならば、私に技を教えてくれと懇願してこなかったはずだ。それこそ、黄金病に罹った人のように、絶望して動かぬ彫刻のようになっていただろう。

 それでもそなたが行動するのは、本当は望む心があるから……そのように思うがな」


 そこでホークウィンドも瞼を開き――こちらが瞑想を中断してしまっているのを咎めるでもなく、どこか悟ったような瞳で天井を眺め出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ