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9-19:ナナコの決意 下

「……傷を負った状態で天を衝く塔から落下したのだから、私の命もそこで潰えるはずだった。しかし、復讐に燃える心が、執念が……何とかこの魂を繋いでくれた。

 そこで、視察のために付近に潜伏していたゲンブに拾われて、一命を取り留め……七柱に存在を気とられないために、生体チップの除去手術を行い……三百年の間、潜伏していたのだ。

 そして……この身に付着していた勇者の血液を元に、神殺しのミストルテインを成業するために創り出された第七世代型アンドロイドの生成を進めた。筋力と骨格を増強し、同時に勇者ナナセ・ユメノと同じ剣術を扱う戦う人形……それがお前だ」


 話が終わり、自分はグラスの水を見つめながら正面に指を突き出した。そう、セブンスは戦うための人形なのだ。


 元々、自分はナナセのクローンを創ることだって反対した。それは、彼女の死を冒涜することに他ならないように思ったからだ。しかし、七柱の創造神が持つ七聖結界を破れる武器を扱えるだけの人材が必要だったのも確かであり――サークレットで人格を矯正するということで、セブンスを創り出すというゲンブの提案を認めた形であった。


 情動をコントロールすることができれば、彼女は戦うためだけの道具に過ぎないはずだった――そしてこの事実を告げれば、セブンスは私に対して怒りをぶつけ、同時に自身の出自に絶望するのではないかと思った。


 本来なら、怒りをぶつけられようと問題ないはずだ。如何に彼女が絶望しようとも、それだって知ったことは無いはずだった。しかし、今のセブンスは確かな人格を持つ、一人の人間である――それ故に、彼女を直視することが出来なかったのだ。


「私はアナタを一人にしませんよ、T3さん」


 予想外の返答に、自分の視線は自然と上がった。蔑まれるかと思ったのだが――それどころか、セブンスは海と月の塔で自分を護った時と同じような笑顔を浮かべ、じっとこちらを見つめていた。


「……貴様はナナセではない」


 今の言葉は、セブンスに対してというより、自分を納得させるためのものだったのかもしれない。ナナセは死んだ――今目の前に居る少女は、自分と共に旅をして、苦楽を共にした相手ではないのだと。


 セブンスはそんな自分の気持ちを汲んだのか、「はい、分かってます」と小さくこぼし――顎に人差し指を当てながら左右に首を傾げ始めた。


「私は果たして誰なんでしょう? 夢野七瀬のクローン? セブンス? それともナナコ……? きっとどれでもあって、どれでもない……少なくとも、T3さんの言うように、夢野七瀬でないことだけは確かです。

 でも、アナタを一人にしないのに、私が夢野七瀬である必要もありませんよね?」


 そこまで言って、セブンスはまた思い出の中の彼女と同じ笑顔を浮かべてと両手を伸ばし、こちらの右手を握った。恐らく力を込めているのだろうが――自分の腕は義手なので、セブンスの手の柔らかさを――もしくは硬さを――感じることは出来ない。


 しかし、その手の温もりだけは、微かにだが感じられるような気がする。きっとそう錯覚するのは、目の前の少女の笑みが温かいからに違いない。


「私は、私の意志で、アナタを一人にしないと決めただけです。仮にどれだけ邪険にされても、私はアナタの側にいます」


 握られた手を握り返そうか、一瞬迷いが生じた。恐らく、握り返せばセブンスは喜んでくれる――そんな気がした。


 しかし、握り返すことは出来なかった。セブンスは自身がナナセではないと断言したが、むしろ自分が混乱してしまっているのだ。それ故に、ゆっくりと手を引き、そのままグラスを手に取って、気分を落ち着かせるために残っている水を一気に喉へと流し込んだ。


「……勝手にするがいい」

「はい、勝手にしますね!」


 邪険に扱ったというのに、セブンスは不機嫌な様子はどこにもなく、元気に敬礼をして笑った。そしてその手を下げることをしないで、今度はまた不思議そうに視線を泳がせながら首を傾げだした。


「……あれ? そう言えば、重要な所を聞けてないかも?」

「そうか? 粗方は話したと思うが……」

「いいえ、T3さんから見た夢野七瀬のことをあんまり聞けてないかなと思います! 変な奴って聞いたくらいで、あとは出来事を聞いただけですので」

「それこそ、説明する必要もあるまい。貴様は、ナナセではないのだからな」

「えぇ、でも気になります!? 本当は着いて行ったらダメな場所まで着いて行ったんですよね!? それこそ、大切に想ってたんじゃ……」

「話は終わった。私は自室に戻るぞ」


 そう言いながら立ち上がり、自分はセブンスを残して休憩室を後にした。そして、廊下を歩く傍らで、混乱する思考を落ち着かせようと努める。しかし、少女に握られた義手を見つめると、どうしても胸に温かいものが――復讐の刃が抱いてはならないはずの感情が――湧いてきてしまのだった。

次回投稿から、また投稿の曜日を変えてみたいと思います!

これからは火金の2回の予定ですので、次回投稿は9/15(金)を予定しています!

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