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9-17:ナナコの決意 上

 話が進むにつれ、セブンスの表情が段々と暗いモノになってきた。魔族のみすぼらしい集落を見て、レムリアの民と魔族とが手を取る道を模索できないかナナセが真剣に考えていたことなどを話したタイミングであったので、何か思うところがあったのかもしれない。


 セブンスが話の内容を咀嚼している間、自分は手持無沙汰の解消のために既に空になっているカップを手に取る。底の端に僅かに残った黒い液体を飲み干してから再度少女の方を覗き見るが、まだ神妙な表情を崩していないようだった。


「聞き役にってするのも疲れるだろう……ここまでにするか?」

「あ、いえ、続けて欲しいです……T3さんの方が、きっと話し続けてお疲れですよね? 何か飲み物を取ってきます!」

「水で良いぞ」

「え、でも、せっかくなので何か淹れてきますよ?」

「言い換えよう、水が良いんだ……喉が渇いているんだ、味付けなどいらん」

「は、はぁ……分かりました」


 セブンスは二つのカップを持って立ち上がって休憩室を後にした。事実として話し続けて喉も乾いていたので、飲み物を持ってきてもらえるのはちょうど良い。アレだけ念を押せば、妙なアレンジを加えてくることもないだろう。


 厨房へとセブンスが移動している空きに時計を見ると、どうやら一時間ほど話をしていたようだった。自分はあまり口が上手い方ではなく、盛り上げるのも得意ではないので、ただ事実を淡々と伝えるだけではあったが――逆にそれ故に話も進んだが、気が付けば大分話し込んでいたようだった。


 それから時計をぼぅっと眺めていると、秒針がちょうど二周した程度の時間で休憩室の扉が再度あけ放たれた。そして目の前にガラスのカップが置かれるのと同時に、「少し、歩きながら考えてたんですけれど……」とセブンスが口を開いた。


「私はきっと、悲しいんだと思います」

「何故?」

「その、T3さんは、私と夢野七瀬は別の存在だって言ってくれましたけれど……でも、なんだか大切な思い出が、自分から抜け落ちてしまっていたようで……」


 銀髪の少女はそう言いながら、胸に手を当てながらゆっくりと移動し、再び自分の正面の席に腰を降ろした。


「なんとなく、本当に何となくなんですけれど、T3さんのお話を聞くと、なんだかどこか懐かしいような気持ちになってくるんです。

 もちろん、私が夢野七瀬のクローンだから、そう錯覚しているだけかもしれません。でも……私が皆のことを忘れてしまっているかのような気がして、申し訳なくって」

「……ナナセのことは、私が覚えている。私の命の限り、彼女の記憶は失われることは無い」


 ほとんど無意識のうちに、自分の口からそんな言葉が飛びだした。我ながら訳が分からないことを口走った――自らの失敗に目を手で覆って後悔していると、正面からくすくすという笑い声が聞こえ始める。


「……何がおかしい?」

「ふふ、すいません。なんだか、全然フォローになってないなって思って、それがおかしくって……! でも、なんだかうれしいです。正確には私のことではないですけど……きっとずっと覚えてくれている人がいるって、ナナセも喜んでいると思います」


 目元から手を話すと、セブンスは柔らかい笑みでこちらを見つめていた。あぁ、やはりそっくりだ――その事実を受け入れ始めてしまっている自分が居る。


 ともかく、聞き手がしょぼくれているよりは良いだろう。そう思い直して話を続けることにする。

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