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9-8:機人のコーヒーとクロスカウンター 中

「あ、アランさん、ティアさん! おかえりなさい!」

「あぁ、ただいまナナコ……」


 セブンスが身を上半身を扉の方へと向けて手を上げるが――振り向かずとも気配で分かる、アラン・スミスはイスラーフィールの方を見てあからさまな殺気を向けている。セブンスもその異様な気配を感じ取ったのだろう、机に視線を落としながら肩をすぼめて縮こまってしまった。


「あの、イスラーフィールのことは私がお願いしたことで……この子は悪い子じゃないんです」

「あぁ、そうだろうな。悪いのは命令した奴だ」

「そ、それじゃあ!」


 相手が理解してくれたと思ったのだろう、セブンスは再び元気よく扉の方へと向き直った。しかし殺気が収まっていないことに気付いて、また椅子にかけて小さくなってしまった。


 イスラーフィールはそんなセブンスを見かねてか、カップを運んできた盆を抱きながら、室内に向けて怒気を放っている男の方を向いた。


「原初の虎。別に私はアナタに許してもらおうなどと思っていません……ジブリールを助けられたら、私のことなど好きにすればいい」

「ふざけるんじゃねぇぞ! テメェを壊せば、エルとクラウは戻ってくるのか!? ソフィアは生き返るのか!? そんな風な自己犠牲に酔いしれていい気分かもしれねぇが……お前らのせいで戻ってこないものが多すぎるんだよ!!」


 男の怒声が艦内に響き渡る――イスラーフィールも気圧されているのか、一歩引いてどことなくたじろいだ表情を見せている。セブンスなど完全に委縮してしまい、目を閉じながら小さくなっており――振り返って後ろを見ると、アラン・スミスの背後にいるティアですら、青年の鬼気迫る様子に困惑の表情を浮かべていた。


 さて、アラン・スミスの言っていることはもっともだろう。癪ではあるが、この中でただ一人、自分だけがこの男の感情を理解できる。大切なものを奪われた喪失感に、奪った者に対する怒り、そう言った感情がまぜこぜになって、感情の処理の仕方も分からなくなっているのだ。


 それに、イスラーフィールの言い分も良くなかった。先ほど幾分か感情があると感じたが、やはり真に人間の思考を慮ることなどできはしないのだろう――奪った側の者が裁かれる覚悟はあるなどと言ったところで、奪ったという事実は変わらないのだ。むしろその冷静な態度が火に油を注ぐことなど、機械である彼女には分からなかったのだろうが。


 そういう意味では、自分としてはアラン・スミスを糾弾する理由など何一つない。この男は奪われたものが見せる正常な反応をしているだけなのだから。


 しかし――。


「……見るに堪えんな」


 気が付けば、自分は男に対する皮肉を口にしていた。男のヒステリーなど見たくもないというのは事実だが――それ以上に気に食わない点はある。


「今まで正義漢のような面をしていたのに、奪われた側になってヒステリーを見せるとはな……みっともないことこの上ない。人が人を裁くべきでないと言っていたのは貴様だぞ?」

「……なんだと?」


 自分の皮肉が効いたのか、アラン・スミスがイスラーフィールに向けていた殺気が丸々こちらへとぶつけられる。とはいえ、そんなことはどうでも良い――言ってやらねば気もすまないのだから、遠慮などせずに言うだけだ。


「大方、貴様は自分の実力を過信して、自分が奪われる側に回るなどと思っていなかったのだろうな。それ故に普段は綺麗ごとを口にして、周りに正論を振りまいていたのだ。

 それがどうだ? いざ自分が仲間を失えば、綺麗ごとや正論などかなぐり捨てて、感情のままに殺気をむき出しにしている……ハッキリ言って失笑ものだ」

「テメェ!!」


 アラン・スミスはやおらこちらへと近づいてきて、左手でこちらの外套を掴んで引っ張り上げる。自然とこちらも立ち上がる形になり――怒りで頬を痙攣させていている男の顔が近づいた。


「テメェにだけは言われたくねえぜ、T3。復讐のために全てを捧げたって面してた癖に、最近は随分落ち着いちまったんじゃねぇか? 何せ……」


 そこでアランは一度言葉を切って、セブンスの方を見た。この男が言わんとすることを察した瞬間、思わずこちらも頭の中が真っ白になり、気が付けば右の拳を男の顎を目掛けて突き出していた。


 そして、相手も同様だったのだろう。互いの腕が交差し ――そして拳が互いの顎を打ち抜いた。脳が振動した影響だろう、視界がぐるりと回り、数歩下がったタイミングで互いに体制を立て直し、再び間合いを詰めようとした瞬間、自分とアラン・スミスの間に二人の少女が割って入ってきた。

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