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9-5:絶望からきたる病 中

「私の方へ声は聞こえませんが、レムはまだ健在です。そもそも、右京が倒れていたというのが……見せかけではありましたが……予定外のことだったのです。レムは元々、右京のコントロールからしばらく逃れる準備をしていたと聞いています。

 また、私を護るレムの加護は健在……まだ、彼女は落ちていないと断言できますよ」

「とはいえ、あまり悠長にしていられないのも確かです」


 アガタの言葉尻にゲンブの声が重なった。


「高次元存在を降ろすのに、レムの力は必須……計画を進めているということは、右京の方ではレムのコントロールを奪う算段はついているということでしょう」

「では、これからどうする? レムを護るために海と月の塔に乗り込むか?」

「いいえ、それは得策ではないでしょう。もちろん、海と月の塔を奪取できればレムの援護にはなるでしょうが……右京なら遠隔からでもレムのプロテクトを破ることが出来るはずです。

 そうなれば、海と月の塔を抑えるより、黄金症の進行を遅らせるべきかと考えます」

「抑えることは可能なのか?」


 こちらの質問に対し、人形の首が音を立てながら縦に振れた。


「黄金症とは、ある意味では心の病です。高次元存在と魂が同化し始めた反動で、肉の檻が結晶化する……そしてその原因は、世界に対する深い絶望です。

 絶望しきってしまった魂は、もはや世界に抗う術をもたない弱い存在。そういった魂から原初へと還っていく、そういった症状だと考えられています」

「……話の腰を折ることになるが、クラウディア・アリギエーリは世界に対して絶望しきってしまったのか?」

「いいえ、あの子は世界に対して絶望などしていませんでした!」


 アガタの叫び声がデッキ内に響き、自分もゲンブも口をつぐむ。確かに絶望していたというのなら自分たちを護って魂を消失させることもなかったというのは理解できるが、それだけでは理屈に通らないから質問をしただけなのだが。


 アガタが俯いてしまい、場を何だが神妙な雰囲気が包む。隣を見ると、セブンスが「もうちょっと言葉を選べないんですか?」と唇を尖らせており――そこでアシモフが咳ばらいを一つしてくれたおかげで、一同の視線は自分の方から老婆の方へと移った。


「アガタの報告によれば、クラウディア・アリギエーリの本来の人格は、その魂を高次元存在に捧げることで強力な結界を健在させた。つまり、彼女の場合は魂の同化が先に起こり、結果として黄金症を患った……このように推察されます」

「それだけでは、身体の一部分だけに発症した理由にならないと思うが……」

「そこに関しては、ティアという人格が残っているおかげでしょう。これも予想にしかすぎませんが、彼女の人格の半分が高次元存在へと還り、半分が残っていることにより、全身に発症することを免れているのだと思います」


 成程、アシモフの考察が正しいとするならば、それらしい筋道は立つだろう。そう自分が納得していると、アシモフの隣で人形がカタカタと口を鳴らし始めた。


「話を戻しますよ、T3。ひとまず我々がすべきことは、第六世代型アンドロイド達の黄金症の蔓延を止めること……そのため、空中要塞ヘイムダルを制覇することを次の目的とします」


 空中要塞ヘイムダル、それの存在は以前から認知自体はしていた。赤道に存在する起動エレベーターの中継地点であると同時に、巨大な電波の基地局であり、各地の教会や軍事拠点に通信を飛ばすことを目的として作られている施設とのこと。


 月や人工衛星、その他に海底からでも電波を飛ばすこと自体は可能らしいのだが、幾分か発生するタイムラグが発生するほか、第五並びに第六世代型アンドロイドたちを統制するのには巨大な通信装置が必要になるため、建設されたのだろう。


 元々空中要塞の存在を認知していたのに無視していたのは、そこに七柱の本体が存在しなかったからだ。今となってそこの制覇を目的とするということは――。


「……成程、いい加減な情報を流す基地局を破壊しようという算段だな」

「正確には少し違いますね。破壊でなく制圧です。我々にはレア神がついていますので、DAPA急進派の陰謀を彼女からレムリアの民たちに伝えてもらうのです」

「それで、黄金症の拡散を止められるか?」

「肝心なのは情報ですよ。最も恐ろしいことは、分からないこと……情報が統制され、恐怖を煽るだけ煽り、右京達はレムリアの民に肝要なことは何も伝えていない……それがもっとも人を絶望に貶める手段だと知っているからです。

 もちろん、我々が情報をレムリアの民に伝えたところで状況は劇的に好転するわけではありませんが、状況を正しく認識することが出来れば、人はその対処法を考え行動に移すことが出来ます」

「一理あるか。レムリアの民たちは今は何をすればいいのかも分からないから、ただ恐怖と絶望の坩堝に陥っているのだろうからな。

 しかし、アラン・スミスは黄金症の原因を知っているのか?」


 大局としては電波ジャックが有効そうというのは理解したものの、根本的な要因としては、第六世代達の心が絶望に染まらないことが重要になる――そうなると、アラン・スミスはそうするべく、各地の第五世代型と戦っているのではないかという予想が自分の頭をよぎったのだ。


「成程、確かに今の彼はレムリアの民の絶望を少しでも取り除こうと動いているようではありますね。とはいえ、私は伝えていませんが……」


 ゲンブがアシモフの方へと視線を向けるが、老婆は静かに首を振るだけだった。


「可能性として考えられるのは二つ。一つは知らず知らずのうちに行動しているのか。もしくは彼の中にいるエディ・べスターが情報を与えているかです。恐らくは後者でしょう」


 アラン・スミスの中には、パワードスーツT2の本来の持ち主である霊が宿っているとは聞いていた。そして、その声を聞くにはアドレナリンの分泌が必要とも――その者は旧世界の顛末をある程度は知っているのだから、確かにその者から情報を共有されていてもおかしくはないか。


 もしかすると、その者と会話をするため、アラン・スミスは戦いを求めているのかもしれない――自分がそんな風に考えている傍で会議が続くのだった。

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