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幕間:激戦の跡地にて 上

 第八階層の魔術を撃ち、アルジャーノンは空中に浮かぶ画面に映る鉄の船を見つめて口角を吊り上げた。空の色が変わり、機影の遥か彼方から混沌の光が襲い掛かった瞬間、魔術神は「何っ!?」と驚愕の声を上げた。


 本来なら全てを破壊する光線が鉄の船を跡形もなく消し飛ばすはずだったのに、鉄の船は幾重にも重なる結界に護られ――空中で衝撃に不安定そうに機体を揺らしているが、しかし魔術によるダメージは完全に抑え込んでいるようだった。


「花!? また花か……何が起きてるんだ、一体!?」


 確かに、あの幾重にも重なる結界は、まるで何枚もの花弁が折り重なる花弁のように見えなくもない。破壊の魔術にその花弁を一枚、また一枚と散らし――しかし中空に咲いた大輪は朽ちることなく――創世の光が過ぎ去って、空が青色を取り戻して後も、空を飛ぶ船は健在だった。


「そうか、上位存在の差し金だな? だが、ジェネシス・レインボウの威力を防ぎきるほどの結界を使っては、術者の精神は持ちはすまい……誰かは分からないが、文字通り、最後の花火と言ったところか」

「……追撃はしないのかい?」


 体の支配者が蒸気の吹き出る杖を一振りし、独り言のように呟いた裏側から、聞き覚えのある少年の声が聞こえた。アルジャーノンはその声に振り返り――視線の先には、勇者シンイチに似ている少年が、微笑を浮かべながらこちらを見つめていた。


「見てわかるだろう、弾切れさ……それに、杖も限界だね」


 アルジャーノンはそう言いながら少年の方に魔術杖をかざす。一気に六十三発の魔術弾を、しかも高速で消費したためか、確かに自分の魔術杖はボロボロになっており――次第に杖は先端から音を立てて崩れ去った。


「まぁ、今回の目的は半ば達した。戦果としては十分だろう」

「半ば、半ばね……チェン・ジュンダーの本体が見つからなかったってことか?」


 アルジャーノンの質問に対し、少年は頷き返す。


「基地内はくまなく探したと思うから、恐らくは本体もピークォド号に移していた、と考えるのが妥当かな」

「もしくは、この基地すらもブラフで、本体は全く別の所に隠しているか……」

「もしそうなら、本体探しはお手上げさ……執念深い彼のことだ、きっと最後の一人になっても、何かしら策を練って邪魔をしてくるだろうからね。出来ればここで決着をつけたかったんだけれど……」

「ま、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。それで、他は?」

「あとは目的通り、エリザベート・フォン・ハインラインと二対の神剣の回収はできたよ。その他、ソフィア・オーウェル、テレジア・エンデ・レムリア、シモン・ヒュペリオン、ダン・ヒュペリオンの四名の生体信号の停止は確認……合わせて、グロリア・アシモフは討伐出来たと言えるだろう」


 少年の言葉に、自分の心は幾分か沈んでしまう――もちろん、先ほどの光景を見てソフィアが生きているとは思えなかったが、同時に遺体を見ていない分、死んでしまったことが確定したわけではなかった。


 しかし、我々が持っている知識より遥か先に言っている彼らが――それだけの知識があるのに与えられていなかったということは、逆に我々は抑圧されていたと言うべきなのかもしれないが――言うのであれば、我が弟子の死が確定したことを受け入れざるを得ない。


 さらに、先ほど死者として名前が上がった者たちは、シモンという者を除いて皆自分の旧知でもある。仲間を殺めた者に加担した事に対する申し訳なさがふつふつと湧き上がってくるのだが。


 そんな自分の感情など、魔術神も少年も知りはしないだろう。ただ淡々と二人は会話を続けるだけだ。


「気になることもあってね……ダン・ヒュペリオンを除いて、遺体を確認できていないんだ。とくに、シモンの存在が気にかかる……彼はダンの近くで亡くなっているのが妥当なんだが、死骸がどこにも見当たらないからね。

 考えられる可能性としては、監視カメラの死角で亡くなっているか。ただ、ここに来る前に確認しに行ってみたが、やはり見当たらなかった。そうなると、第五世代の攻撃で跡形もなく消滅したというところになるんだけれど……」

「成程、何かしらの理由で、生体反応をカットさせて生き延びている可能性もあるということだな?」

「あぁ、その場合は、チェン・ジュンダーが何かしら手回ししたというのが妥当だろう。もしかすると、この基地はまだ全容が見えていないのかもしれないが……如何せん、調査をするにも手が足らないからね」

「まさか、全滅したのか?」

「あぁ、基地の外はホークウィンドとアルフレッド・セオメイルに、内部はグロリアにやられたよ。ただまぁ、目的は全て達したからね。戦果としては上々だろう」


 やられたという割には、少年はどこか余裕な感じで微笑みを浮かべている。それに対し、自分の体を操る魂により「しかし……」と口が動かされる。


「その戦果は僕たちが復活していることを相手に知られたことと、更に千五百体の第五世代型アンドロイドと熾天使二体の損失とを勘定してプラスなのかな?」

「そこに関しては、評価者によって変わるところだね……僕としては、虎の相手を出来る器を回収できれば差し引きゼロかってところかな。チェン・ジュンダーさえ倒せればお釣りが来たんだが……そういう君は?」

「僕としては、まぁ得るものが無かったわけじゃない程度だ。魔術発展の可能性は見えたからね。もちろん、ソフィア・オーウェルを回収できるのが一番だったからね。労力を考えれば、差し引きマイナスって所だ」

「それじゃあ、痛み分けって所かな……先輩さえ居なければ、全滅も狙えたと思うんだけれど」


 先輩とは、果たして誰のことを指すのか。アルジャーノンと懇意にしている少年が先輩と呼ぶ相手なら、神代に生きた何者かを指すのだろうか。しかし、その先輩とやらは古の神々に与しており、敵対していると考えると――自分がそんな風に予想していると、アルジャーノンが「君もクラークも……」と語り始める。

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