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8-94:決別 中

「なんでそんなことをしたいのかって顔をしているね? まぁ、ちょいと考えてみたまえよ。僕たちは奴隷だ……宇宙に意味を見いだせだなんてふざけた命令に縛られるプログラムに他ならない。

 でも、そんなのってムカつくだろう? 高次元存在ってやつはさ、自分らが創り出した僕らに対して、絶対に安全な気で居やがる……自分の方が高等だって、お高くまとまってやがるんだ」

「……それを、アナタが言うんですか?」


 自分としては、彼の言い分を全く理解できないわけではない。しかし、同時に彼にそれを言う権利はないように思えた。彼ら旧世界の人類が高次元存在の道具としてつくられた作られたというのなら、それに納得できない理由は理解できる――きっとそれは、自分が母に対して向けている感情に近いものだから。


 だが、彼はその忌むべき存在と同じことをしているのだ。自分たちの道具として第六世代型アンドロイドを創り、ふざけた命令を出して管理している。もし真に上位存在を超える力を得たいと言うのなら、そしてその存在を憎んでいるとするのなら、彼は同じことをするべきではなかったのではないか。


「ははは……いや結構、君の言う通りだ。高次元存在が僕らにしたことを、そっくり君たちにしているんだからね。そこを否定する気は無いよ。だけど、敢えて言おう。同じ責め苦を味わっているからこそ、君は真に僕の気持ちを理解できるんじゃないかい?」

「それは……否定はしません。でも、私がアナタ達を倒そうとしている以上に、高次元存在を超えることの方が不可能に思えます」

「確かに、今の僕らでは高次元存在においつくことは出来ない……でも、理論上は不可能でないはずなんだ。高次元存在と言ったって、ある種のデータの集合体さ。僕らが精々レムのモノリスを活用した十の何十乗バイトで凄いって言っているところの、彼らはその更に何乗もの演算処理が可能ってだけだ

 要するに、僕らはその処理方法が分かれば、きっと高次元存在と同等かそれ以上の存在になれる……そして、封印していたやつらを見下してやるのさ。その程度の存在でお高くまとまっていやがったのかってね」

「仮に、もしそれが実現可能だとして……その後、アナタはどうするつもりなのですか?」


 もし高次元存在を超える存在になったら、それは本当の意味で唯一絶対の神になるに等しい。その最高とも言える点に到った時に、彼は何を望むのか?


 もちろん、彼は上位存在を超えたという絶対の証明を得たいだけなのかもしれない。そして、その後のことなど何も考えてはいないのかも――とはいえ、それだけの理由で多くの魂を弄んでいるというのなら、それはあまりにも傲慢すぎるとも思う。


 そんなこちらの疑問を知ってか知らないでか、魔術神はまた側頭部を叩きながら不気味な笑みを浮かべた。


「想像力が乏しいよソフィア君。君はそこが僕らの果てだと思っているのかもしれないが……僕らが観測できていないだけで、高次元存在よりも更に高等な連中だっているかもしれない。それなら、今度はそいつを超えてやるだけさ。

 仮に更なる上位存在が居なかったとしても、今の僕らの尺度では理解もできないことが出来るようになる……それこそ、まだ見ぬ無限の可能性と、絶え間ない進化は存在し続けるはずだ」

「でも……」

「でも?」

「……いいえ、何でもありません」


 反論しようにも、目をキラキラと輝かせて語る男の意見に対する適切な反論は思い浮かばなかった。心の奥底には確かに違和感があり、それはきっと感情的なものでなく、確固たる理念に基づく何かな気がするのだが――それを今の自分は言語化することが出来なかったのだ。


 いや、いけない。ついこの男のとの問答に頭が行っていた。なんとか隙を見出して、この男を倒さなければ――そう思いながら視線を上げると、アルジャーノンは屈託のない笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「さて、それでは話を戻そうか。僕が君たち第六世代型アンドロイドに可能性を見出していたのは他でもない……要は多様性の問題だ。僕一人では発想に限界があることは認めざるを得ないからね。とくに長く生きて来れば、どれだけ柔軟であろうとも幾分か思考が硬直してくるものさ。

 そこで、自分以外の個体で、かつ創造性のある個体の出現をずっと待っていた……僕に無い可能性を創出できる個体、それが君ってわけだ。

 手短に伝えたつもりだがね、ソフィア君……どうだい、納得してもらえたかい? 君にとっても悪い話じゃないはずだ。君は知識欲が旺盛だし、もう誰憚られることなく研究に専念できる。何を思ったって自由さ。

 それに、僕の直属になれば他の七柱に手出しはさせないし……なんなら、高次元存在を利用しようという不届き物は、そのうち殺してやろうと思ってるくらいだ。本当ならもうルーナなんか殺してやりたいくらいだけど、まぁ月の管理と言う面倒なことを請け負ってもらってるし、しばらく生かしておいてやろうとは思っているけれどね……と、これは脱線か。

 ともかく、僕と一緒に永久の時の中で魔術の研究をしようじゃないか! 魔術こそ、世界の真理に近づく唯一の手段……そして、僕らを産み落としたクソみたいな存在に唾棄してやるのさ!」


 再び矢継ぎ早に繰り出される男の言葉をすべて処理するのに少しだけ時間を要した。概ねアルジャーノンの言いたいことは分かった。彼は学院に居た時から何一つ変わっていないだけだ。彼は自分に、新しい可能性を見出している――それだけなのだ。


 しかし、一つだけ解釈できないフレーズがあった。それは――。

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