表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
429/992

8-93:決別 上

 さて、アルジャーノンはアレイスターに可能性を見出さなかったのに対し、自分には何か感ずるところがあったというのは間違いなさそうだ。その真意を手繰るべく、ひとつ質問をしてみることにする。


「……アナタは私に何を期待しているんですか?」


 自分が質問をすると、アルジャーノンは再び魔術杖を持って立ち上がり、こちらにゆっくりと近づき始めた。


「一言で言えば、魔術の発展に協力してほしいってことさ。いや、君は本当に素晴らしい。歴代最年少で第七階層魔術……しかもとっておきに威力のあるやつを編み出したし、思考領域を分割して二重演算をするだなんて発想にたどり着くのもなかなかの独創性だ。

 ま、僕は思考を二重どころか三重にしているし、全く新しい発想ってわけではないけれど……しかし、第六世代型アンドロイドの中で、ただ君のみしかたどり着かなかったのは間違いない。

 何より、あのガングヘイムで見せた魔術! アレだけは僕の理解の範疇を超えていたんだ! 一体全体、あれはどういうことだったんだい!?」


 男は段々と興奮した調子になっていき――自分の目の前に立ったアルジャーノンは、そう言いながら自分の肩に手を伸ばしてきた。その手に掴まれるのが恐ろしく、何かおぞましい感じがして思わず身を引くと、男はそれ以上はこちらへ近づいてくることなく、代わりに自身の側頭部を指で叩き出した。


「いやぁ、実はさっきもヒヤヒヤしていたんだ。アレを打たれたら、ただのディスペルでは解呪しきらないかもしれなかったからね。ただ、ウリエルに撃ったアレは僕の理解できる第七階層だった……だからきっと、ガングヘイムで撃ったアレは、特定の条件が必要なんだろうと判断してね。案の定そうで、解呪出来て助かったよ」

「……アレは、私にもどうやったのか分からないんです。強化弾のおかげかと思ってたんですが……」


 確かに、ナナコのミストルテインと打ちあった時の魔術は、本来以上の威力が出ているような印象はあった。魔術は編む速度や習得自体の難易度に差はあれど、同じ構成であるならば威力は一定である――あの時はその不変のルールを破っていたように思うのだ。


 ただ、その理由は未だに分かっていない。自分の返答に対し、男はまた手で目元を覆って、残念そうに口をへの字に曲げた。


「いいや、ただの強化弾だけじゃあの威力は計算上では出ないはずなんだ。だけどそうか、君自身もアレの理屈は分かっていないか……まぁ、薄々そんな気はしていたよ。

 だがまぁ、君が歴代最高の魔術師であることには違いないんだ。それ故、僕は君と友だちになりたいと思っているんだよ」

「……どうして。私よりも、アナタの方が魔術に関しては遥か高みにいる……それに、高次元存在を降ろすことが出来れば、魔術に頼らなくても……」

「そう! 重要なのはそこだ! 僕が惑星レムまで来て、七柱の創造神なんて面倒な肩書を背負っているのはそこに理由があるんだ!」


 男は声を荒げ、今度は振り返って背中をわなわなと振るわせだした。今なら攻撃する隙があるかもと一瞬思ったが――その異様な雰囲気に呑まれてしまい、つい固唾をのんで事の成り行きを見守ってしまう。


「君はこんなことを考えたことは無いかい? 自分が死んだあと、文明はもっと発達して、自分はそれを見られずに消えていく……まぁ、停滞したこの星じゃそんな発想もあまり出てこないかもしれないが、君のように知識欲が強い個体ならきっと理解してくれるんじゃないかと思う。

 ちなみに、僕はそうさ。いやそうだった……この宇宙の謎のすべてを、自分の手で解き明かしてやりたいと思っていた。知識に触れることだけが、真理を追究することだけが、孤独な僕を癒してくれる唯一の方法だったからね。

 ともかく、僕ぁね、高次元存在を管理できる場所に降ろして……永久にこの星の海に封印してやろうと思ってるんだよ。そして、いつか自分の力で、奴らと同じかそれ以上の高みに行ってやろうと思っているんだ」


 話が前後しすぎていて、この男が何を言いたいのか全く理解できなかった。ただ、ただ――魔術神と呼ばれる男の中に、万年を生きてきた超越者の中に、確かに存在する劣等感や渇望が垣間見えた――そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ