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8-83:運命の分かれ道 下

 ◆


『グロリアさん……お義姉さまを救ってくれてありがとうございます』


 アランが昇降機に乗って去っていった後、脳裏にそんな声が聞こえた気がした。既にテレサとグロリアの思考の融合は進行しており、実際にはこんな風に声が聞こえているわけではない。これは融合しきる前の二つの異なる人格が、それらしくコミュニケーションを取るためのある種の幻聴に近い。


 とはいえ、生まれも育ちも違う者同士が突如として結合した分、何かが起こった時にはグロリアとテレサの分の二つの反応が生まれる。その反応が――その時の感情がより大きい方の擬似的な人格が正面に出ているように周りからは見えているのだろう。


『……ただのついでよ。さっきも言ったけれど、アランが気にかけてなかったらこんなことはしないわ』


 本当は相手がいないことを考えれば返答すること自体がナンセンスだ。とはいえ、グロリアの人格に生じた感情――お人よしであるテレサの人格に対する面映おもはゆい想いを和らげるために、つい返事をしてしまったというのが正しかった。


『グロリアさんは、アランさんのことがお好きなのですね』

『……えぇ、彼は私のすべてだったから』

『お義姉さまが聞いたら、きっと困惑されますね。またライバルが増えたのかって』


 正味な所で言えば、だからこそ助けるのがイヤと言う部分はあった。ただ、それは敢えて返答はしない――融合した人格に対しては隠し事が出来る訳でないので無意味なのだが、敢えて返答しないことで自分の浅ましさを少しでも緩和したかったのかもしれない。


 アラン・スミスは年下の女性を見ると、その相手を妹かのように接する。とくに自分に対しては顕著であったし、この世界で出会った少女の中ではソフィアが顕著なように思う。


 それは、単純に歳が離れているせいもあるだろう。ソフィアと彼とでは――クローンに年齢と言うのもおかしいのかもしれないが、彼のオリジナルとの比較で見れば――十近い歳の差がある。逆説的に、エルは彼ともっとも年齢も近く、傍から見ている感じだと、アランは最も彼女に気心を許しているようでもあった。


 だからと言って、罪もないエリザベート・フォン・ハインラインという女性が危険な目に会うのは違うというくらいの分別はあるつもりだ。だから、彼女を助けるのにだって協力したのだ。


 何より、グロリア・アシモフという人格は、すでに真っ当な人間ではない。だから、彼に対して変に期待を抱いているわけではない。ただ、数奇な因果に導かれて、クローンと言えども同じような優しさと強さを持っている彼の役に少しでも立てたらと思っているだけ。


 しかし、やはり感情は別だ。エルを助けるということの諸々の複雑さを加味すれば、胸が晴れないことぐらいは許してほしい――そう思っていると、コンソールのモニターが急に動き出し、今度は人形姿のチェン・ジュンダーがそこに映し出された。


「スザク、聞こえていますか!? 今、ハインラインの器を移動させるのは危険です……動作を中止してください!」

「えっ? でも、さっきアナタが、格納庫は安全だって……」

「いいえ、私は通信をしていません……しまった、まさか!?」


 チェンの焦りの原因はこちらには全く分からない。窮地にあってすら冷静、というよりひょうきんな態度を崩さない男だったはずであり、彼がこんなに取り乱すのは珍しい。


「ともかく、そちらから昇降機を戻せませんか!? 私の方も手一杯ですので!」

「えぇ……分かった」


 ひとまず言われた通りにコンソールを動かすが、先ほどまでいうことを聞いていたプログラムが反応しなくなっていることに気付く。


「コントロールが効かない……!? ハッキングは解除したんじゃなかったの!?」

「要するに、こういうことのようです。敵は二重のハッキングを試みていた……我々が片方を解除した気になって油断したところを、本命で乗っ取る算段だった」

「で、でも……すでに襲撃者は倒したんでしょう? それに、そんな芸当が出来るヤツがいる訳が……」


 いや、一人だけいる――報告では身動きが取れないと言われていたから完全に油断していたが、ある意味ではそれこそが奴の狙いだったのだろう。


『グロリアさん……奴とは?』

『……アナタの想い人よ、テレサ』


 要するに、奴は自分の死すら偽装していたのか――もしくは、こちらの想定よりも早く復帰したのか。どちらにしても、もしヤツが基地の襲撃に関与しているのなら大変なことになる。そう思ってすぐにコンソールから離れて、通路で第五世代達と戦っている少女たちに合流することにした。

次回投稿は7/29(土)を予定しています!

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