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8-79:氷炎の花 中

「第七魔術弾装填……アランさん!」


 通路に凛と響く声に、その主の方を見上げると、そこには凛とした佇まいの少女の顔があった。ソフィア・オーウェルはこちらを見て頷き、魔術杖の先端である一点を指し示した。そこは、積み重なった機械人達の墓標であり――恐らく、そこを着弾点にするという彼女からのアイコンタクトだったに違いない。


 なるほど、確かにソフィアの魔術なら、シールドを打ち破って熾天使を倒すことも可能かもしれない。試す価値は十二分にある、そう思って頷き返すと、ソフィアは口元に一瞬だけ微笑を浮かべて詠唱を続けた。


 肝心なのはタイミングだ。彼女の魔術が発動した瞬間に、ウリエルを着弾点に落とし、自分はそこから離脱するという精密さが求められる。だが、それも面白い――きっとソフィアは自分ならそれが出来ると信じてくれているのだ。それなら、その期待に応えなければならない。


(……後二回だ!)


 少女が魔術を紡いでいる間に、一度ADAMsを起動する。案の定、第七階層を妨害するためか、ウリエルが再びこちらへ突貫してきた。


『今度は立場逆転だな!?』


 相手の攻撃は予想通り、ソフィアの魔術を妨害するために前に出てきた。先ほどまでは向こうが時間を稼いでいた訳だが、今度はこちらが時間を稼ぐ番だ。ウリエルは判断こそ早いが、高速戦闘においては動き自体は単調で読みやすい――超音速戦闘の腕前は、T3やエルと比べたら赤子の手を捻るようなものだ。


 剣による突進を二本の爪でいなすと、熾天使は銃を取り出しながら距離を取ろうとするが――それも想定済みだ。相手の後退に合わせてこちらも前進し、抜き出した銃身を爪で両断する。


 これで相手の間接攻撃を封じた。ウリエルは体制を立て直すために銃のグリップから手を離し、再び盾を突き出してこちらを吹き飛ばそうとする。しかし、その動きは読んでいる――うまくいったことを最適行動としてしまうAIの性なのだろう――繰り出されるシールドチャージを躱し、突き出された左腕に爪を突き立てた。


 切断こそ敵わなかったものの、振動剣は熾天使の装甲を抉り、深々と突き刺さる――ウリエルが腕を引っ込められたせいで爪を持っていかれてしまうが、同時に形勢不利と判断したのか、熾天使は後方へと下がっていった。


 それも予想済みだ。恐らくこの通路から離脱し、形成を立て直そうとするだろうが、こいつはここで必ず倒す――自分も限界まで加速を続けてウリエルを低姿勢で追いかけ、瓦礫の上にある穴から逃れて跳躍しようとする相手の足を残った爪で切り付けた。


 虎の爪が傷をつけたことで、電脳からの指令を上手く足に伝達できなかったのだろう、ウリエルは跳躍することに敵わずにその場にしゃがみ込んだ。こちらは還す刃で逆手に持った左の爪を相手の頭上に向けて振り下ろすように見せかけ――相手の反撃は読んでいる――身を引いてシールドチャージを躱した。


 少し距離を取って一旦加速を切ると、通路の奥から六つの魔法陣がこちらへ飛んできた。見ると、ソフィアが通路の真ん中で――少女を護るように、アガタとスザクがその脇を固め――正面にある巨大な魔法陣に向かってまさに杖を突き出そうとして居る所だった。


「シルヴァリオン……」


 少女の魔術が放たれる直前に再び奥歯のスイッチを入れ――同じく高速で開けてきた天井の穴の向こうへ離脱しようとするウリエルを追いかける。本来なら五分の速度だが、ウリエル側が足を損傷しているのだから追いつくのは容易だ。


『……返してもらうぜ。代わりに、コイツをくれてやる!』


 追いついたウリエルの腕に刺さっているタイガークローを引き抜き、盾を構えられるよりも早く魔術の着弾箇所に向けてウリエルを蹴り飛ばす。そして加速をしたまま敵陣を駆け抜け、魔術杖が陣に接触する瞬間、自分は少女達より背後へと移動して加速を切った。


「ゼロ!」


 ソフィアの術式が完成した瞬間、ウリエルの身体が吹き飛ぶ音が聞こえ――熾天使の体は指定された箇所に轟音を立てて叩きつけられた。それと同時に、少女の放った絶対零度の青白い光線が螺旋を描いて辺りの機械人たちを巻き込んでいく。


 魔法陣が反射し合い、ウリエルが落ちた瓦礫に七本の光線が降り注ぐ。すぐに瓦礫は巨大な氷塊と化し――それは彼ら第五世代型達の墓標のように見えた。後にはソフィアが魔術杖を一回転させる音だけが響き渡り、蒸気が噴出した瞬間に機械たちの墓標は塵となって崩れ出した。

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