8-78:氷炎の花 上
狭い通路での攻防は長らく続き――とは言っても実時間にすれば一分程度だろうが――戦局は停滞気味だった。むしろ、諸々加味すると不利と言っても差し支えないかもしれない。こちらは変身とADAMsの利用時間が伸びれば伸びるほど限界に近づいてくるし、何より敵側の物量が多い。少女たちが如何に強力な力を有していると言えども、一瞬の油断が命取りのこの戦局において、長く戦えば長く戦うほど彼女たちの集中力だって切れてくる。
そう思いながら不可視の敵と闘っている少女たちを見るが――今のところはそんな心配はむしろ杞憂だったかもしれない。ソフィアが妨害魔法で敵のシルエットを顕わにしてくれているおかげで、上手く三人とも対応してくれている。
というより、中々に三人の連携が取れているのだ。第八代勇者パーティー再結成と言っていたように、彼女たちはかつて一緒に戦った経験がある。スザク――その中に居るテレサがアウローラと炎を操る前衛で、アガタが中衛で二人の援護と取りこぼした敵の撃破をこなし、ソフィアが後衛で妨害と攻撃をしている。狭い通路と言えども、問題なく連携を取れている彼女たちは、大変心強い存在だ。
同時に、少々違和感もある。第五世代型アンドロイド達の攻め手がやや緩いようにも感じられるのだ。より正確に言えば――。
『おいべスター、気付いているか?』
『……何にだ?』
『敵のアンドロイドが、ソフィアを狙っていないんだ』
『オレはお前の視界が共有されているだけだからな……背後に目がある訳じゃないんだから分からん』
脳内の友は気付いていないらしいが――自分の違和感の理由として、第五世代型アンドロイド達は散弾などの遠距離武装を利用するのを避けているようにしているように見えた。
もちろん、飛び道具を使っていない訳ではないのだが、それはあくまでも直線的で且つ範囲の狭い光線などに限られる――そして、それはアガタやスザクを狙っているようで、ソフィアを狙っているように見えなかった。
敵として真っ先に落とすべきは間違いなくソフィア・オーウェルなはずだ。高威力の間接攻撃に加え、この中でもっとも思考も切れるのだから、放置しておけば向こうの被害は広がるばかりなはずだからだ。
とはいえ、敵がそのような動きをしている理由は考えても分からないだろう。それに、あまり余計なことを考えている余裕もない。ウリエルたちはソフィアに対しては忖度をしているようにも見えるが、それ以外の者たちに対しては容赦なく襲い掛かってきているのだから。
奥歯を噛み、超音速で襲い掛かってくるウリエルを迎撃する姿勢を取る――加速した世界の中に現れた熾天使が三挺目になる拳銃を腰から取り出してトリガーを引き、自分は撃ちだされた弾丸を切りつけながら、再び近接戦闘に入る。
だが、やはり機械の演算速度はなかなか凄まじいものがあり、こちらの爪はまた盾に弾かれてしまう。このままいけば不利と判断した理由はこれだ。高速戦闘に関しては練度の差からこちらに分があるが、向こうは妨害と防御に徹しており、なおかつこちらは向こうの装甲とバリアを貫けるだけの一撃を放つことが出来ないからだ。
『……くそっ、このままいけばジリ貧か!?』
そう思い前へと出るが、焦りが見透かされたかのようにウリエルのシールドチャージによって後方へと吹き飛ばされてしまう――超音速同士が確かな質量でぶつかり合ったのだからその衝撃は凄まじく、一度の着地では威力を相殺しきらない。そのため、数度のステップを踏みながら威力を相殺し、ついでにすり抜け様に何体かの第五世代型アンドロイドの動力を断ち切った。
最終的にはずり下がるように衝撃が減衰し、落ちついたタイミングで加速を切ると、ちょうど少女たちの後方まで押し出されてしまう形になった。すぐに視線を上げて状況を確認するが、ウリエルも一度加速を切って排熱をしているようだった。
『おい、べスター。変身はあとどれくらい持つ?』
『いくら排熱していると言えども、かなり高密度にADAMsを乱発しているからな……まだ加速二回分ほどは持つだろうが、それ以上は……』
後二回か――それは自分にとって厳しい現実だった。結局、近接戦闘だけでウリエルを突破できるイメージがわかない。バーニングブライトを撃てれば突破できるように思うが、それが撃てない今では限界が近いというのは芳しくないことだった。
『変身はピンチになってからが本番じゃなかったのか?』
『うるせぇ! 時と場合に寄るんだ!』
言葉というものは、いつかブーメランのように跳ね返ってくるものだ。ともかく、何とか熾天使を突破する方法を考えなくてはならない。一か八か、アイツを上へと誘い出してバーニングブライトを撃つか――ここ数回分の加速エネルギーは貯めているので、一度なら撃つことも可能だろう。
しかし、上手くエネルギーを逃がすことが出来なければ、少女たちを巻き込むという最悪の結果を招くことになる。それは万が一にも避けたい事態だ。
どうする、どうする――そう考えているうちにも、時間は確実に進んでいる。床につけていた掌で強く握り拳を作り、何か策は無いかと考えていると、自分の上から力強くレバーを操作する音が聞こえた。




