表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
413/992

8-77:星屑と呼ばれた男 下

「親父!? 撃たれたのか!?」

「あぁ……どうやら、オレも焼きが周ったらしいな……すまねぇ、今退く」


 ダンは苦し気に呻き声を上げながら上半身を起こし、ゆっくりと自分から離れ――予想の通り、彼の腹部が真っ赤な鮮血に染め上げられており、自分の手も彼の流した赤で染まっていた。


「はぁ……はぁ……皮肉だぜ。まさか、安全と思ってた相手にやられちまうとはな」


 苦し気に声をあげる父の肩を支えながら壁へと移動して、ゆっくりと降ろす。改めてみると、撃たれている箇所は一か所ではない。その傷の深さを示すように、ダンは口から大量に吐血してしまった。


 自分はどうすればいい? つい先日まで、自分は父に対して複雑な感情を持っていた。それは恐怖と尊敬とがまぜこぜになったものであり、それ故に父から逃れたかったというのが本音だ。


 だが、父を恨んで居た訳じゃない。きっと、継承の儀式をするのだって、自分が若返りたいという欲求のために自分の体を奪うような人でないことだって分かっていた。それに、先ほどの昔話を聞いて、少し父と打ち解けて、なんだかこの人も人間らしい所があるのだという親近感を感じたばかりの所に現れた目の前の事象は、父の言うようにあまりにも皮肉がききすぎているように思う。


 父にどうにか助かって欲しいが、しかしどうすることもできないこの現実――半ばパニックになっている自分をよそに、ダン・ヒュペリオンは呼吸を整え、吐血のせいで赤くなってしまった口髭を拭いながら強い視線でこちらを見てきた。


「おい、シモン……今から重大なことを伝える……レッドタイガーの……リミッターに関することだ……」

「喋るんじゃない! 喋れば、傷が広がる……おい、ゲンブさん、なんとならないのか!?」

「残念ながら……そこに迅速に増援を送ることは不可能です。それに、ダン・ヒュペリオンの老体にその重症では、今から増援を送ったとて……」

「そ、そんな……」


 ゲンブから突きつけられた非情な現実に再び脳がパニックを起こしかけていると、目下の老ドワーフは穏かに微笑を浮かべながら口を開く。


「良いんだ、シモン。こいつぁ天罰だよ……長く生きて、悪いことしてきたことに対する……それに、この身体が滅んでも、まだオレの本体は残っている……」

「そ、そうだ! まだ親父が完全に消えちまう訳じゃ……」

「だが、継承の儀式はやらねぇ……そういう意味じゃ、人の身としては、もう終わりだ……」


 そこで一度、再び大きく血を吐いてダンはぐったりとして――その間も、外では扉をこじあげようと、第五世代達が必死の攻撃をしている雑音が耳をつんざく――そして父はもう一度力をふり絞るように顔を上げ、こちらの顔をじっと見つめてきた。


「……もう、あんまり長くなさそうだ。良いかシモン……レッドタイガーのリミッターの解除コードは……星になった息子たち……」

「僕に託して満足するんじゃない……自分で解除すればいいだろ?」


 父の命が消えかかっているのは分かる――本体のフレデリック・キーツは残るとしても、それは旧世界からの来訪者を指すのであり、正確には自分の父ではない。自分の父は、自分を育てたダン・ヒュペリオンと言う人物は彼だけなのだから。


 だからこそ、無理と分かっていても生きていてほしかった。やっと少し彼のことが分かって、尊敬と共感が出来るようになって――もちろん、頑固で偏屈なこの人のことだ、今から親子で仲良くとはいかないだろうが、それでも――共に彼の大好きな酒を呑むことくらいは出来ただろう。


「……僕は、良い息子じゃなかった」

「へっ……オレも良い親父じゃなかった……だから、お互い様だ。ともかく、あとは頼んだぜ、シモン」


 せめて、自分の至らなさを責めてもらおうと思ったのに、ダン・ヒュペリオンはそれすら許してくれなかった。目の前が霞んで良く見えないが――きっと、彼は自分に対して優しく微笑みかけているのだろう。


「……チェン、元々敵だったお前にこんなこと、任すのも違うのかもしれないが……オレの息子を、頼む……」


 ダン・ヒュペリオンはそう言いながら、弱弱しく手を天井へ――いや、天へと伸ばした。そして、全てを言い切った瞬間、何かがこと切れたかのように腕が下がり――首からも力が抜けてしまった。


 父の肩を掴んで姿勢をまっすぐに正して肩を揺らすが、やはり父の体に力はなく、その抜け殻はこちらの腕の動きになされるがままになっていた。


「おい、嘘だろ親父……? 親父ぃぃいいいい!!」


 いくら呼んでも、もう父は何も答えてくれない――自分の声が室内に反響して静かになった瞬間、扉の方から一層大きな音が聞こえた。


 振り返って見ると、扉には赤い斜めの線が一本走り――直後、扉が吹き飛ばされて、廊下の様子が丸見えになる。そこには、銃口をこちらに向けている全く表情のない銀色の機械人達の赤く光る眼が蠢いていた。

次回投稿は7/22(土)を予定しています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ