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8-75:星屑と呼ばれた男 上

「出会ったころのファラは、それは冷たい奴でよ……美人だったがな。まぁ、そんなことはどうでもいいや……ともかく、オレの熱意で押し切って、なんとか宇宙船開発のグループに大抜擢されたわけだ」

「へぇ、凄いじゃないか」


 素直な賞賛のつもりで言葉を返すと、ダンは少し照れくさそうに鼻の下を指先で擦った。


「ま、有人で宇宙を長距離の移動をするための技術は長らく停滞していたからな……学歴はそこまでで止まってたオレだが、逆に有人の宇宙飛行に関して滅茶苦茶詳しいということで、副社長からの推薦をいただいたって形よ。

 数回話しているうちに、アイツはオレに言ったよ。お前は星屑だって……文字通りの星屑じゃねぇ、宇宙狂いって意味だ。それは、オレにとっちゃ誉め言葉だったがな。

 ともかく、同じく何かを追究しようって根っこの部分の波長があったんだろう、アイツもアンドロイドの心理研究に没頭していたからな……アイツはオレに期待して、月の探査部隊に推薦してくれたんだ」


 そこから、月へのロケットはすぐに完成したことと、ダンのオリジナルであるフレデリック・キーツが月面探査にも同行した旨を伝えられた。レムにも月はあるが、母なる大地の月はどんなものだったのだろうか――なんだかそんなことをボンヤリと思い浮かべながら、父の話に耳を傾け続ける。


「月のモノリスを母なる大地に持ち帰ってから三年、ダニエル・ゴードンを……アルジャーノンを中心とした解析班による調査が進んだ。その後、とんとん拍子で母なる大地のモノリスを掘り当て、解析を進めているその期間も、DAPAは宇宙開発を進めていたんだ。

 何せ、すげぇもんがまだ宇宙の遥かに眠っているかもしれないからな。そして、その予測は当たった。最後のモノリスが、母なる大地から九億キロメートルの距離にある惑星の軌道衛星にあるということが分かったんだ。

 月のモノリス発掘で評価されていたオレは、もちろんその惑星への探査部隊にも加わることになった。そのころには、オレも宇宙開発部門の顧問として、ファラとも随分と親しくなっていた……ついでにその間、社長であるファラの最初の旦那が亡くなっていたし、まぁちょっと良い雰囲気になることもあったが、オレの方が何せ往復一年以上の船旅に出ることになったからな。結局、良い雰囲気で終わって、オレはファラを残して意気揚々と宇宙の旅に出た訳だが……戻ってきたときには、アイツは次期社長と再婚して、グロリアを産んでいたよ」


 再び父の方を見る。正直、悲しそうな顔をしているのかと思ったのだ。しかし、彼の横顔には微笑が浮かんでいた。何故笑っていられるのだろうか。きっと父は、ファラ・アシモフのことが好きだったはずなのに――そう思っていると、ダンはこちらに振り向き、口角を大きく釣り上げて笑った。


「おいシモン、手が止まっているぜ?」

「あ、あぁ……すまない」

「ま、テメェの言いたいことは分からんでもない。だが、船乗りってのはそういうもんだ。宇宙という大海に出るとなればなおさら、いつ帰れるかもわからねぇからな。

 それに、当時のオレが悩まなかったと言えば嘘になるが、そんなのも風化して削れ切っちまうくらいに時間が経ってるんだ……今となっちゃ、それこそ笑い話よ」


 確かに一万年も前のことなら、今更アンニュイになることもないのかもしれない。それに、二人の間には今も絆がある訳だし――というか、それこそ今となっては誰憚られることもない訳だし、一緒になる道だってあるように思うのだが。


 自分のそんな疑問をよそに、ダンはそこで言葉を切って再びキーボードに視線を落とした。


「ファラの二人目の旦那は、原初の虎に暗殺された。そこから、ファラはもう結婚しないと決めたらしい」

「どうして?」

「旦那を二人とも失ってるんだ……どちらも好きで結婚したわけじゃなかったが、ジンクス的にな。死神になりたくねぇとよ……まぁ、もうそのころにはオレもファラもいい歳だったし、何より旧政府軍との戦いに専念しないといけなかったからな。アイツとはそれきりよ」

「……そうだったんだね」


 それきり、というのもまた少し違うのだろうが――現に二人とも、本当に直近までは仕事の仲間だった訳だし、それに今も――父はファラ・アシモフを追いかけてここに来たように思うからだ。


 しかし、二人とも安易に一緒になる道は選ばなかった。二人とも不器用で、今更一緒になるという道は選べなかったのかもしれない。そして二人は同じ姓を名乗ることよりも、互いに使命を全うする道を選んだ。ドワーフとエルフと言う、同じ第六世代型アンドロイドであっても、全く別の種族に身をやつし――永久に交わることのない、近すぎず遠すぎずの距離を保ち続けてきたのだろう。


 それはもしかすると――個人的な邪推にはなるが――下手に一緒になっているよりは、互いを尊重し続けることの出来る距離を保ち続けたとも言えるのかもしれない。


 当の本人たるフレデリック・キーツは、話し終わってからキーボードを打つ手を一瞬休め、なんだか気恥ずかしそうに鼻の頭をかきだした。

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