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8-73:親子の協力戦 中

 背中を追って行こうとすると、ダンは扉の前で立ち止まっている。そして、老ドワーフはそのまま上半身だけ回して背後に座る老エルフの方を見た。


「ファラ……コイツが終わったら一杯やろう。チェンたちに挟まれてちゃ、針の筵だっただろう? 愚痴を聞いてやるぜ」

「……えぇ、久しぶりにね」


 ダンはまた気障な仕草を取り、威勢よく廊下へと出ていった。自分もそれを追いかけて行くのだが、後方の扉が閉まった瞬間にダンは急に立ち止まって、鼻の頭を掻きながら振り返った。


「……おい、シモン。どっちに行けばいいんだ?」

「あー……僕が前に出るよ」

「いや、オレの側から離れるな。あんまり先行して、ハチの巣にされてもしらねぇぞ?」


 親父の側から離れないなど気持ちが悪いことこの上ないのだが、第五世代型アンドロイドに殺されるよりはマシか――そう思いながら老ドワーフの横に並んで移動することにする。


 ピークォド号から降り、戦闘を続けるアズラエルを横目に、動力室へと進んでいく。主電源が落ちているため辺りは暗く、非常灯の薄青い仄かな灯りだけが移動の頼りだ。自分には第五世代型アンドロイドは見えないし、気配も感じないのだが――辺りの暗さも手伝ってか、なんだか禍々しい雰囲気だけは続いており、きっとダンから離れた瞬間に自分など一瞬で穴だらけにされてしまうのだろう。


 ともかく、いつ何かおかしなことが起こって自分が狙われることに怯えながらも、少し歩いてとある部屋へと辿り着く――自分も基地内の構造をすべて把握しているわけではないが、ここからでも問題は無いはずだ。


「おい、ここが動力室か? ずいぶんと簡素に見えるが……」

「いいや。でも、直結はしている……メインシステムはかなり下層にあるし、エレベーターが使えない今じゃ移動にかなり時間が掛るからな。死ぬほど階段を降りる覚悟があるっていうなら別だけど」

「成程、機転を利かせたってわけだな……上出来だ、ここから何とかできないかやってみよう」


 そう言いながら、ダンは鞄から自前のコンソールを取り出し、機材の蓋を開けて配線を繋げた。そしてその場に屈んだ瞬間、腰を抑えて呻き声を上げ――やはりこちらへ連れてきたのは正解だっただろう、この老体では二十階相当の階段を降りることは出来なかっただろうから。


「おい、シモン。テメェも手伝いやがれ」


 ダンは顎で室内のコンソールを指し、自分も頷き返してそちらへ移動する。親父の言うことを聞くことは癪だが、流石にここまで来て仕事をしない訳にもいかない。動力を復活させるのが自分のみの安全にもつながるし、自分だってここに集ったメンバーに愛着が無い訳ではないのだから。


 作業を続けているうちに、ふと先ほどの父の態度が気にかかり――それは、幼少の頃に一度抱いた疑問に通ずるところがある――手を止めないながらも質問してみることにした。


「なぁ、親父……アンタ、アシモフとはどういう関係なんだ?」

「どうもこうも……オレとファラは、ただの腐れ縁だ。それも、一万年クラスのな」

「本当かい? なんだか、そんな風には見えないんだよな」


 まだ自分が幼かった時に、一度だけ家族で世界樹へと訪問したことがあった。その時、父とアシモフが楽しそうに話しているのは自分も見ていたが――あの時は自分自身がそう言うことに対する知識がなく、古い付き合いで本当に仲が良いくらいに思っていたものだ。


 しかし、今は亡き母が、二度と世界樹に行きたがらなかったことを――ガングヘイムに帰ってからしばらくの内は、母はナイーブになっていたのを思い出す。今にして思えば、母は二人の間に特殊な感情があることを見抜いていたのではないだろうか。


 そう、我々ドワーフが長命と言っても、それはレムリアの民と比べて長いだけで、あくまでも数百年規模の寿命でしかない。それは、一万年規模の絆に比べればあまりにも短い。


 一瞬だけ作業を止め、背後でうずくまって作業を続ける父の横顔を覗き見る――ダンは手は止めないものの、なんだか自嘲的な笑みを浮かべていた。


「そんなんじゃねぇって。お前も聞いているかもしれないが、アイツにはグロリアって娘が居るんだ……既婚者だよ。未亡人ではあるがな。それも、二人も旦那を失っているんだ」

「別に……それは社会的な規範の話で合って、人の感情ってやつはそうじゃないだろう?」

「けっ、妻を娶ってもいねぇヤツが偉そうな口をききやがる」


 ダンはそれだけ言って、しばらく無言でキーボードを打ち始めた。実際のところ、二人の関係性は気になるが、確かに今は緊急事態であり、変に追及する時でもないか――自分も父に続いてシステムの回復に努めることにする。


 しかし、自分も一緒に作業をしているから分かるが、ダンのおかげでシステムの修復が進んでいた。ガングヘイムでの主な父の仕事は物づくりであり、コーディングに関しては出来ることは知っていたが、まさかここまでとは知らなかった。

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