表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
407/992

8-71:雪上の決着 下

「さぁ、後は好きにするが良いですよ……まさか敗北するなどとは計算違いですが、果たすべき使命は達しましたので」

「覚悟は出来ているということだな」


 ならば遠慮することなど何もない。無論、命乞いされたところで取るべき行動は変わらないが――ジブリールを撃つために取り出した弓をそのまま構え、エネルギーの矢を番えてうなだれている水色髪に狙いを定めた。


 だが、射線の間に何者かが入ってきた。いや、何となくだがこうなることは予測はしていたが――セブンスが自分とイスラーフィールの間に立ち、剣を地面に刺して両腕を広げて必死な目でこちらを見ていた。


「T3さん、待ってください!」

「セブンス、どけ」

「その、どけません! この子、なんだか根は悪い子じゃないように思うんです!」

「……そいつのせいで、貴様の仲間は散々な目にあったのだぞ?」

「それは、そうですが……」


 恐らく、人型の彼女の弱い部分を見たせいで情にほだされたのだろうが、イスラーフィールがアラン・スミスのお供の少女たちにやった仕打ちが覆る訳ではない。セブンスもそれを思い出したのだろう、返す言葉を失い、背後のイスラーフィール同様に視線を落とすが――小さく首を横に振って、弱弱しくもまだ納得していないという抗議の目でこちらを見てきた。


「……でも、この子が望んでやったことではないような気がするんです。イスラーフィールに悪いことをするように命令した人が居るだけで、彼女は率先して邪悪なことをする子じゃないんだと思います」


 セブンスの言うことも全く理が無い訳ではないだろう。道具には悪意はなく、罪を犯すのは常に道具を操る者の意志であるとすれば、罪はルーナに在り、イスラーフィールは好きで我々を攻撃しているわけでないとも言うことは出来る。


 しかし、その悪意ある者が遠隔で道具を作動させることを想定すれば、イスラーフィールを野放しにしておくのは危険だ――そう思っていると、セブンスの力ない反論を弁護するためなのか、ホークウィンドが腕を組んだままこちらを見た。


「ナナコの言うことは一理ある。もしアシモフがイスラーフィールのAIを書き換えられるなら……」


 ホークウィンドはそこまで言いかけて一度言葉をつぐんだ。恐らく、セブンスが哀し気に首を振っているのを見たいせいであろう。AIを書き換えるというのは人の記憶を改竄するのと同義であり、それにセブンスは反対しているに違いない。それを察してか、ホークウィンドは一度咳ばらいをしてから再度話し始めた。


「……ルーナへの服従プログラムさえ削除できれば、強力な味方になるかもしれぬ」


 ホークウィンドの選び抜かれた言葉に、セブンスはパッと表情を明るくしてうんうんと頷きだした。このまま行くと、善良な精神をもつ少女と巨漢の忍に言いくるめられそうだ――自分は弓をつがえたまま、首を人形の胴体にくっつけようとしている軍師の方を見た。


「私としては、制御できない因子はなるべく排除しておきたいのですが……T3、あの駄々っ子をどかせられますか?」

「……難しいと思っているから、貴様にふったのだ」

「ははは、頼りにしていただいて恐悦至極……しかし、私にはセブンスを説得している時間はありません。基地内部のハッキングに対処しなければならないので」

「……そうだ! 基地の内部も大変ですよね!?」


 セブンスはハッとしたような表情になり、今度は剣とイスラーフィールとを忙し気に交互に見ている。恐らく、基地に戻ってアラン・スミス達の助力に向かうか、イスラーフィールのために交渉を続けようか悩んだのだろうが、前者が僅かに勝ったらしく、剣の柄を握って浮いているゲンブを仰ぎ見た。


「あのっあの! 私、基地の内部に戻っても大丈夫ですか!?」

「少しお待ちを……そうですね、外に残存する第五世代型アンドロイドの対処は、ホークウィンドとT3で足りるでしょう。それより、想定外の攻撃に対処するため、内部に人員を割きたい……ある意味、外に配置を予定していた人員を内部に割いたのは僥倖だったかもしれません」

「それじゃあ、私は戻ります!」


 セブンスはミストルテインを持ち上げて基地の入口の方へと走り出した。しかし途中で一度振り返り、「T3さん! 私が見てないうちに、イスラーフィールに酷いことしないでくださいよ! 酷いことしたら口ききませんからね!」と付け加えられた。


「……おや、セブンスと口がきけなくなるのは堪えますか?」


 自分が弓を降ろしたのを見て、ゲンブは人を小馬鹿にしたような声を上げる。


「馬鹿を言うな……コイツの設計的に、両腕さえ吹き飛んでいれば危害が無いと判断しただけだ。それにアシモフに解析させれば、ルーナたちの動向も幾分か把握できるだろう?」

「物は言いようですねぇ」

五月蠅うるさい。貴様は内部のハッキング対処に専念しろ」

「おぉ、怖い怖い。ですが、アナタの言う通り……イスラーフィールにも使いようはあるでしょう。ですが、その前に……」


 ゲンブはイスラーフィールの背後まで中を飛んでいき、少女の後頭部に「当て身」と言いながら手刀を当てた。特殊合金のボディに人形の手刀など効果は無いだろうに――しかし、イスラーフィールは糸が切れた人形のようにその場に臥した。


「おい、何をしたんだ?」

「アシモフから聞いた手段で、彼女たちの電脳をハッキングしたのです。直接触れられなければ難しかったですがね。細かいメモリーの書き換えは複雑なプロテクトがかかっているので今は出来ませんが、とりあえず彼女の自爆を封じた形です」

「……まさか、そいつ自爆をしようとしていたのか?」

「えぇ……ですが、ギリギリまで悩んでいたようですね。普通の第五世代型なら戦闘不能になった時点で迷うことなく自爆を選んでいてもおかしくないですし、やはりセラフシリーズは少々特殊なようです」


 確かに、自爆をするのに悩んでいたというのは、自死をすることにためらいがあったということに他ならない。それは芽生えた自我の萌芽なのか――。


 ともかく、恐らく外に居る残りは有象無象だ。第五世代の中でも最強の一体は撤退、一体は倒すことが出来たことを想定すれば、残る大物の熾天使はウリエルとかいう奴くらい――もし控えているのなら、イスラーフィールが負ける前に支援に入っていただろうから、少なくとも外には居ないのだろう。


 もしかすると、ウリエルとやらは基地内に居るのだろうか? それならそいつが一番不幸だ。何せ原初の虎という、第五世代型アンドロイドを狩ることに特化した存在を相手にしなければならないのだから――そう思いながら、自分は弓を構えて残りの第五世代型アンドロイドを殲滅するために奥歯を噛んだ。

次回投稿は7/15(土)を予定しています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ