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8-70:雪上の決着 上

 ジブリールとの超音速戦闘だが、しばらく戦っていて分かったことがある。ADAMsを想定した戦闘プログラムを組んでいるのだろうが、熾天使の機体にも限界がある――重力と大気の存在する場所では、速度を出せばそれだけ空気との摩擦で熱が発生する。自分の義体は音速戦闘に特化した規格だが、第五世代型アンドロイドの場合は様々な状況に適応するように作られているせいか、常に音速を超え続けられるわけではないらしい。


 もちろん、明確に有利というわけではないが、完全な機械であるジブリールが常時加速できないというだけでも僥倖であり、間違いなく自分にとっては追い風であった。こちらも視神経の限界でADAMsを解く瞬間が必要ではあるが、それも相手が加速を切るタイミングを合わせることで自分の隙も消すことが出来るからだ。


 同時に、奴の機体は限界に近いように見える――熱の壁を超え続けた結果、彼女のボディは赤く発光しており、今にも燃えて溶けだしてしまいそうに見えた。


 確かに通常時なら厳しい戦いであったかもしれないが、今はトリニティバーストによる強化がある。金色の粒子が自分の限界を引き上げてくれているおかげで、熾天使との勝負は自分に有利に進んでいた。


「ちっ……煩わしいハエめ!」

「同じ言葉をそっくり返すぞ!」


 ヴァルカンの乱入後、セブンスを狙わせないためにジブリールを追跡し、射撃による牽制で相手の行動の自由を奪う。牽制は成功し、相手が距離を取った瞬間にこちらも加速し、すぐに精霊弓のバッテリーを入れ替える――使い終わったバッテリーが地面より落ちるよりも早く移動を始め、セブンスたちにこの熾天使を近づけないように攻撃を続ける。


 熾天使たちが現れてから、まだ実時間の経過は数分に満たないだろうが、自分とジブリールだけは既に体感としてはその何倍もの時間を過ごしている――そろそろ決着をつけたいところであるものの、戦闘時間に比例してこちらの行動パターンを学習されているせいで、決定打を撃ちあぐねているのも確かだった。


 ふと、遠方にいるセブンスを見ると、機構剣ミストルテインからエネルギーを解放しながらイスラーフィールに斬りかかっているタイミングだった。アレが放たれれば、力の余波で誰もが満足に動けないだろう――ゲンブやホークウィンドもしっかりと退避している。そして、ジブリールも衝撃に備えて居るようだった。


 自分も壊滅的なエネルギーを産む力場から適度な距離を保ち、最強の剣と最強の盾がぶつかり合う様を見守ることにする。凄まじい力の奔流に吹き飛ばされそうになるが――実際、セブンスの周囲に居た第五世代型アンドロイドは機構剣から発せられる力の余波にそのままやられている――しかし、双方の力は拮抗しており、一進一退の攻防が続いていた。


 しかし、剣を振り下ろすセブンスの瞳には一点の曇りもない。ただ、仲間を護ろうという意志で輝き、前へ進もうと必死に歯を食いしばっている――その美しさは、かつての日に見た夢野七瀬に瓜二つだった。


「……行け、セブンス!」


 気が付けば、無意識に彼女の名を呼んでいた。そして、少しでも彼女の背を押せるようにと手を伸ばし――見れば、ホークウィンドとゲンブも同様の仕草を取っているようだった。


 直後、辺りを激しい閃光が包み、その光が晴れた瞬間、セブンスが剣を振り抜き、イスラーフィールがその両腕を破壊されるという結果が残った。しかし、まだ勝った訳ではない――自分は超音速で二人の少女へと肉薄する敵を迎撃するため、雪が蒸発した所かクレーターとなった場所へと奥歯を噛んで駆けだした。


 二人の少女の手前までたどり着き、外套から二本のヒートホークを取り出して、ジブリールが振り下ろした凶刃を受け止めた。そして、互いに加速を切り――結果として、セブンスの目の前でジブリールの突撃を止めることに成功した。


「……イスラーフィール!」


 中空で制止しているジブリールは、目を見開きながら自分の背後にいる僚機の名を叫ぶ。


「ジブリール、逃げて……アナタだけなら離脱できるはず」

「でも!」

「音速戦闘を続けたせいで、アナタのフレームはボロボロ……でも、離脱に専念すれば脱出できる。それに、手が無くなった私は戦闘行動を取れず、アナタの離脱の邪魔になるだけ……避けるべきは、私たちの両方がやられること……分かって」

「う、うぅ……!」


 ジブリールは僚機の説得に納得がいかないのか、刃を押し込む力が強くなる――恐らく、イスラーフィールを助け出そうとしているのだろう。しかし、周囲をゲンブとホークウィンドに囲まれると、流石の形勢不利を認めたのか、刃を引いて後方へと退避を始めた。


 奥歯を噛み、すぐに弓を取り出して揺れる薔薇色の髪の背中を狙撃するが、紙一重で躱され――後先考えない全速力なのだろう、こちらの加速でも追いきれないほどの速度でジブリールは離れていき、同時に空気との摩擦で周囲の空気が燃え上がっていた。


「……追えますか?」


 加速を切った瞬間にゲンブから質問が飛んでくる。それに対して首を振って応え、膝をついてイスラーフィールの方へと向き直った。

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