8-69:創造された魂たちの激闘 下
「神殺しのミストルテイン……アルジャーノンを護る時計塔の結界を破った一撃は、確かに計算上では私の反物質バリアすら貫通する……でも、モノリスを経由していないで充填されたエネルギーは万全ではないはず。それならば、私のイージスが破られるいわれはない」
「計算とかは良く分かりませんが……この子はいけるって言っています! だからいこう、ミストルテイン!! ゴッドイーター起動。セーフティロック、解除!!」
柄のグリップを回して機構を作動させ、剣に貯められたエネルギーを放出する。本来なら、この剣から放出される超エネルギーに吹き飛ばされないようにアンカーを撃ちだし、剣閃にずれが無いことを確認する作業が入るはずだ。
しかし、今はそれをする必要はない。こちらが足を止めればそれが隙になるし、何より――。
「……極限のエネルギー、全部そのまま叩き込む!!」
そう、零距離で畳みこめば、ソードラインの誤差修正などする必要もない。相手の円月輪を跳躍して躱し――太陽を背に、紫紺のオーラをまとう剣を大上段に構えて落下を始める。イスラーフィールがもう数発チャクラムを打ち出してくるが、それもこれも全部、一緒に叩き落とすだけ――!
「御舟流奥義! 下り彗星縦一文字!!」
咆哮と共に一気に剣を振り下ろし――円月輪を弾きながら、巨大な剣閃と共に、イスラーフィールを目掛けて一気に落下していく。犇めく紫の剣線の僅かに覗く隙間を見ると、イスラーフィールも両腕をかざして迎撃の体制を取ったようだ。
予想通りの手ごたえ――先ほど一度、ファイアブランドで突貫したことには意味があった。どの程度の反発があるのか、そして直感にはなるが、この膜を突破するのにどれくらいの威力が必要になるかが分かるからだ。
確かにイスラーフィールが予見したように、ミストルテインに貯められていたエネルギーだけではバリアを突破するには足らないように思うが――しかし、ここまで繋げてくれたファイアブランドと、自分に応えようと頑張ってくれているミストルテインの想いを無駄にするわけにはいかない。
「うぁあああああああああああ!!」
「くっ……凄い力。でも……計算上では……!」
イスラーフィールを護るバリアを突破しようと、より一層剣に気迫を乗せる。こちらの押し切ろうという力と、相手の弾き返そうとする力が拮抗し、一進一退のせめぎ合いが続く――凄まじい力の奔流の中で、自分はただ吹き飛ばされないように、歯を食いしばって腕を押し込み続ける。
そして力の拮抗は、ふとした瞬間に破られることになった。イスラーフィールのローブから――正確に言えば右腕に電流が流れ、小さな爆発を起こしたのだ。
「何っ……まさか、先ほどの一撃で……!?」
イスラーフィールは視線を降ろし、自らの腕を見つめながら呟く――そう、もしかしたら、彼女の言うようにミストルテインで突貫するだけでは威力は足らなかったかもしれない。しかし、ファイアブランドが頑張ってくれた分の負担が、イスラーフィールのバリア発生装置にも蓄積されていたはずなのだ。
両腕のバリアで防いでいた一撃を、片腕で押し返せる道理はない。こちらを弾こうとする力は確かに弱まり――幕間は確かに近づいてきている。
しかし、水色髪の熾天使も諦めてはいないようだ。歯を食いしばるような仕草を取って、左腕を大きく突き出した。
「だけど、私だって……負けるわけにはいかないの!」
確かに、こちらもエネルギーの限界が来ている。要するに、後は意地の勝負。そして意地の張り合いなら――。
「私だって負けられないんだぁあああああああああ!!」
互いの「負けない」がぶつかり合い――ちょうどその時、自分が纏っている金色の粒子が一層光を増した。激しい閃光、直後に破けた膜をすり抜けて剣を振り抜き――。
「……この勝負、私の勝ちですね」
剣の冷却装置が働いたのか、刀身が開いてそこから一気に蒸気が吹き出す。そして後はバリアで浮いていた身体を落下に任せる。そのまま着地こそ成功するものの、最後の眩い光に若干目がやられたせいか、すぐには状況が把握できなかった。
次第に視界を取り戻し、辺りの様子がボンヤリと見えるようになると――イスラーフィールのローブの袖は破けており――そこから覗く二の腕の先から配線を飛びださせて膝から崩れ落ちて俯いていた。
「あっ……その、ごめんなさい……」
なんだか彼女の姿が痛々しく、無意識のうちに謝罪の言葉が飛び出てしまった。他のアンドロイドとは戦えるのに急に申し訳ない気持ちになってしまったのは、きっと彼女の姿が人に近いから――戦っている時には勝とうと必死で、自分はその事実を失念していたのだろう。
「何ですか、それ……謝るくらいなら、こんなことしなければいいのに……」
「そ、それはその通りなんですけど……!」
イスラーフィールの悪態に納得しかけてしまうが――そうだ、自分は仲間を護るために苛烈な決断をしたのだ。毒食らわば皿まで、彼女を倒したことを後悔してはいけない――互いに生存をかけるというのは、こういうことなのだから。
「うん、私にも護らなきゃいけないものがあるから、後悔はしていません」
「……そうですか。まぁ、謝られるよりはマシですね」
そう言いながらイスラーフィールは顔を上げて、こちらを見据える――相変わらずの無表情だが、そこにはどことなく憑き物が落ちたようなすがすがしい雰囲気があるように感じられるのだった。
次回投稿は7/11(火)を予定しています!




