8-68:創造された魂たちの激闘 中
「アンドロイドたち、標的をダン・ヒュペリオンに」
後ろから、イスラーフィールの指令が聞こえてくる。とはいえ、ダンに向かって攻撃が開始される形跡は見えない。むしろ、ダンの方がバイクのグリップから右手を放し、辺りにかざしているようにも見える――アレで彼自身が何かをしているのだろう。
「畏敬……やはり、通常の第五世代では七柱を攻撃できませんか。それなら、ジブリール……!」
イスラーフィールが僚機の名を呼んだ瞬間、自分の前の雪が滅茶苦茶に舞い――晴れた雪煙の中に二つ分のシルエットが浮かんで見える。
「くっ……!」
「貴様の相手は私だ……!」
ジブリールの呻く声と、T3の声が聞こえて後、またすぐにソニックブームの激しい音が聞こえて、一層に辺りの雪を舞い散らして消えていった。自分が走ってくるバイクの元へたどり着く時には、老ドワーフは吹き飛ばされた雪に覆われてしまっているようだった。
「ダンさん!」
「ひぃ、ふぅ……クソ、老骨に鞭打ってきたらこのざまだ! 畜生め!」
ダンはバイクを止め、ゴーグルを外して雪を払いながら悪態をついている。なんだかこの調子も久しぶりで懐かしい気持ちになりつつ――しかしすぐに自分の視線はサイドカーで雪に覆われている何かに釘づけにされた。
「あの、ダンさん……それは……?」
「あぁ、お前さんにお届け物だ。ついでにエネルギーも充電済みだぜ! 手元にモノリスが無かったから、以前ほどの出力は出せねぇだろうが……ファイアブランドよりは頑丈なはずだ」
そう言いながら、ダンは身を乗り出してサイドカーに乗っている何かに積もっている雪を払い始める。雪が払われて下から現れた物は、布に覆われた長物――といっても、サイドカーのシート一杯に横たわる肉厚さもあるのだが――であった。
「ダン・ヒュペリオン……いいえ、フレデリック・キーツ。裏切るというのですか?」
背後から聞こえるイスラーフィールの声に対し、ダンはバイクの上で腕を組んでそちらを見つめる。
「はっ、そいつはお門違いだぜイスラーフィール。オレは最初から、ルーナやアルファルドのために辺境の星まで来たわけじゃねぇんだ! さぁセブンス! 剣を……神殺しのミストルテインを取れ!」
ダンの声に、自分はサイドカーの元へと移動し、搭載されている物体の柄を握って一気に抜き出した。その勢いで長物を包んでいた布は剥がれ、風に運ばれて飛んでいき――後には肉厚の、刃の無い機械の塊が現れた。
「初めて握ったはずなのに、分かる……アナタも、私に力を貸してくれるのね?」
そう、この子も自分のことを知っている――自分の質問に頷くかのように、剣の柄から何か暖かさが伝わってくるような気がした。
「ダンさん! この子を運んでいただきありがとうございます!」
「いや、オレはあるべきものを、あるべき場所に返しただけ……それを作ったのはオレじゃねぇが、嬢ちゃんは道具を大切に想っている……その期待に、きっとそいつは応えてくれるぜ。
ともかく、オレは基地内部へ行く……ドラ息子とファラが待っているだろうからな!」
ダンは自分に対して不敵に微笑みかけ、再度ゴーグルをかけてバイクのエンジンをかけた。しかし、それを安易に見過ごすイスラーフィールではない。ダンに向けてチャクラムを投げ出すが、それは人形が貼った結界によって阻まれた。
「邪魔をしますか、チェン・ジュンダー!」
イスラーフィールは標的をドワーフから人形に変え、結界を張って中空で制止していたゲンブに対して巨大な鎌で斬りかかった。その威力が強かったせいか――事前のチャクラムで幾分か結界が削れていたせいもあるのだろう、結界は破られ、そのまま人形はこちらの方へと吹き飛ばされてしまった。
そして、落下の衝撃が強かったせいだろう、身体を起こすのと同時に人形の首がぽろ、と雪上へと落下した。
「あいたた……」
「ゲンブさん!? 大丈夫ですか!?」
「ははは、実の所は人形なので痛覚は無いのですが……後は任せて大丈夫ですか?」
「はい! お任せください!」
首が取れても声に余裕はあるので、ゲンブは大丈夫だろう――そう思いながら剣の切っ先をイスラーフィールに向ける。対する水色の髪の熾天使はチャクラムを回していたチャクラムをしまい、自分の持つ剣を凝視していた。




