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8-64:暗中の火花 下

「そうだ。貴様は少女たちを守りながら戦わなければならない……そこにハンディキャップがある」

「そうかい? 音を超えた世界での戦いには、お前の方が不慣れに見えたがな」


 実際、機能としてはADAMsに並ぶ加速が可能でも、それを実戦で使うことはウリエルには無かったはずだ。こちらの速度に最低限の対応はして来ていたが――それはデータに残る自分やべスターのT2の動きを研究し、アルゴリズム的に対応したに過ぎないのだろう。彼ら第五世代型が電子の海の中でなく、大気中で音速の壁を超えたのは、恐らく今日が初めてなのだ。


『ちなみに、旧世界では第五世代型は加速装置を使っていたのか?』

『いや、それならばハインラインが虎の檻を……へカトグラムを用意する必要は無かったはずだ。DAPAの技術的には第五世代に超音速機能を実装すること自体は不可能ではなかったのだろうが、今ウリエルが見せたように素材的な問題の他、複数のアンドロイドが一斉に音速で動くことによる隊列の乱れを懸念したのだろう』

『はっ、確かに……音速同士でぶつかったら、いくら頑丈な第五世代型と言えどもぺちゃんこにならぁな!』


 べスターに返答をしてから奥歯を噛み、今度は暗闇の中にいるウリエルに向かって肉薄する。闇の中で互いの刃が音速でぶつかり合い、火花だけが見える――しかし相手が防御に専念しているためか、戦闘は膠着状態に陥ってしまった。


 ウリエルは音速戦闘に不慣れではあるが、防御に徹されればこちらも決め手に欠ける。対するこちらは少女たちに攻撃が飛ばないように意識せねばならないため、離脱を繰り返すウリエルを追うことが出来ないのだから。


『……ソフィアの言うことも一理あるのだろうが、奴の狙いはお前を誘導することではなさそうだな』

『あん? どういうことだ?』

『ウリエルはお前の無力化に切り替えたってことだ。元々はお前をどこかに隔離することだったのだろうが、そうでなくとも時間的な限界はある』

『なるほど……俺の変身の限界まで粘ろうって算段か』

『それだけではない……お前、ここでバーニングブライトを使えるか?』


 言われてみれば、あの技は威力があり過ぎる。広い空間ならエネルギーを逃がせるが、ここでバーニングブライトを放ってしまえば味方を巻き込みかねない。アガタの第六天結界に、アウローラの加護があればもつかもしれないが――しかし、エルが眠っているシリンダーを破壊してしまう可能性はある。


 取れる手段としては二つ。一つはバーニングブライトを使わないでウリエルを倒すことだが、それは少々厳しいだろう。威力的な面と言うより、ADAMsで溜まったエネルギーを解放しなければ自分の体がもたない。現に、既に腕は赤くなりつつある。このままいけば、ウリエルを倒しきる前に変身時間に限界が来るだろう。


 残りの内の一つは、ソフィアたちにエルの所まで下がってもらい、アガタの結界で全員を護ってもらう間に必殺の一撃を熾天使に叩き込むという手段。とりあえず三人の少女たちを生き残らせるなら現実的だが、バーニングブライトを放てば冷凍保存に連結する装置や運搬用エレベーターを破壊しかねない。そうなればエルの生命や移送に問題が出てくる。


 どちらも良い手段とは言えないが、ひとまず後者は最後の手段だ。変身の限界まで粘ることは出来るし、それまでの間に何か勝算が立つかもしれない――とはいえ、このまま戦い続ければ蓄えられたエネルギーが行き場を失い、自分の体を焼き焦がしてしまいそうだ。


 そう言えば、シモンがベルトの解析をしたときに排熱する手段があると言っていた――ウリエルが離脱している今がそのチャンスだろう。一度少女たちの方へと戻りながら、シモンに言われたようにボタンを長押しすると、ベルト中央の機構が周りだして熱が抜けていくのを感じた。実際、魔術による光の下で自分の体を見ると、赤くなっていた皮膚は黒に戻り始めている。


 排熱に合わせて一度加速を切るが、相手がいつ動き始めるかも分からず、変身まで解くことは出来ない。虎の爪を構えて待っていると、また大勢の第五世代達が押しかけてきている気配を感じ――今度はウリエルが空けた穴から、第五世代たちが下ってきているようだった。


「アランさん、ウリエルは!?」

「上に控えている。どうやら、徹底的に俺の変身時間が切れるまで時間稼ぎをする算段みたいだ。変わりに、今第五世代どもが押し寄せて……」


 言いかけている途中で、自分を挟むように炎と稲妻が駆け抜けていき――暗い通路が少女たちの放った一撃に一瞬明るく照らされると同時に、通路を進んで来ていた先遣隊が破壊され、ソフィアとスザクが自分よりも一歩前に出た。


「それなら、アナタはウリエルに備えて温存しておきなさい」

「うん! 露払いは私たちに任せて!」


 少女たちの凛とした声が通路に響くと同時に、もう一度炎と稲妻が自分を挟むように通路を駆け抜けていった。

次回投稿は7/4(火)を予定しています!

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