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8-63:暗中の火花 中

「ともかく、ウリエルは一度音速戦闘が出来ることを見せつけることで、アランさんに『自分しか相手に出来ない』と思わせて、追いかけさせようとしたんだよ。

 でも、それに乗っちゃダメ。もちろん、ウリエルを相手にするのはアランさんに任せることになっちゃうけど、エルさんを護るなら、一人でもここから離れるべきじゃない……それに、今の襲撃のタイミングも余りに狙いすませていたようだった。だって、停電と同時に襲い掛かってきたんだから」

「あぁ、ソフィアの言う通りだ」


 自分の目的は第五世代型の殲滅ではなく、エルの安全の確保――それに、今自分と一緒にいる三人の少女たちを無事にピークォド号まで連れていくことだ。


 超音速戦闘を少女たちの近くで行うのにリスクはあるだろうが、それ以上に敵の策にはまらないようにしなければならない。自分が安易な行動を取れば、全滅だってありうる――もうこれ以上、誰かを失うことが無いよう、慎重に対処をするべきだ。


 そうなれば、変身の時間だって可能な限り残しておくべきか――つまり、変身を解除すべきか。しかし、それはどうやら得策では無さそうだ。何故なら、天上の穴から再び天使が――とはいっても神々しさのかけらもない筋骨隆々な男性の姿だが――降りてきたからだ。


「へっ、格好悪いなウリエルとやら! 俺が追いかけてこないんで、のこのこと舞い戻ってきやがったか!」


 こちらが指をさして挑発すると、ウリエルは無表情の中に幾分か不快の色を浮かべる。アズラエルやイスラーフィールの時も思ったが、熾天使は外見を人に似せているせいか、幾分か感情だとか情動みたいなものがあるのかもしれない。


「否定はしない。だが、それならそれでやりようはある」


 相手が腰を落としたのに合わせて、こちらも再び音速を超えて相手に接近し始める。こちらの爪が敵に届くよりも遠くから、ウリエルは剣を盾に納めて腰から大口径の拳銃を取り出してトリガーを引く――そこから出てくるものを避けること自体は容易だが、後方に居る少女たちを護るのならば弾丸そのものを迎撃をする必要がある。


 諸々強化されている今なら行けるはずだ。転がっていた大きめの瓦礫を下から蹴り上げて弾避けにする――衝撃で瓦礫にはヒビが入るが、銃弾を数発受け止める壁くらいにはなるだろう。


 そして、自分は蹴り上げた瓦礫が巻き上がるよりも早く動ける。蹴り上げた足をすぐに降ろし、そのまま飛び上がり始めている障害物の上を抜けて、天上スレスレでウリエルに接近する――スローモーションで打ち出された六発の弾丸が通路を進んでいるのを下に見ながら。


 さらに天井を蹴って一気に降下する時には、ウリエルは銃から手を離して――これもまたスローモーションで落ちている――左手の盾をかざしてこちらの攻撃に備えているようだ。こちらの爪の軌跡がその盾に吸い込まれ、弾かれ、弾丸を背後に数歩分距離を取った。


『こいつ、結構色々なことが出来るな……』

『恐らく、ウリエルとやらはバランスに優れた熾天使なのだろう。アルジャーノン……ダニエル・ゴードンを護るためのシリーズということは、後方に最強の砲台が控えているのに等しいからな』

『つまり、その砲台を護るだけのバランス感覚が重要ってことか』


 確か、王都を襲撃したゲンブたちが連れてきた魔獣たちを一気に薙ぎ払ったのはアルジャーノンだ。そうなれば、確かにソフィアに並ぶか――いや、魔術神は万年生きているのだ、我らが准将殿以上の魔術師であることは想像に難くない。


 ともかく、ウリエル本来の戦闘スタイルは、レヴァルの冒険者たちと同じ構造と言うわけだ。魔術師を護るために前衛が前に出て戦う――ウリエルはそれを一人でこなすために設計された機体であろうから、距離を選ばない攻撃に優れた防御力まで兼ね揃えているバランス型ということなのだろう。


 幾許か互いの攻撃をいなし合った後、再びウリエルの方が大きく距離を取ると、暗い通路の奥へ消えていった。ソフィアの魔術による光の下で視認できた時には、ウリエルの身体の表面は赤くなっていた――自分が視神経に限界が来るのに対し、第五世代型の加速は機体に限界が来ると言ったとことか。


 とはいえ、こちらもこれ以上の迎撃は厳しい。加速を解くと、背後で巻き上がった瓦礫に銃弾が突き刺さる音が通路に鳴り響いた。ついで、アガタが「なんですの!?」と叫んでいたが、彼女からしたら突然に瓦礫が宙を舞って前が見えず、轟音を立てていればそう言いたくなる気持ちも理解できる。


 ともかく、音が鳴りやんだタイミングで、こちらは再び迎撃の構えを取り――相手に遠距離攻撃があることを想定すれば、飛び込んで背後の少女たちがやられるのは防がなければならない。そしてこちらの思考を読んだように、ウリエルが暗闇の向こうからこちらを指さす気配を感じた。

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