8-62:暗中の火花 上
男性型のアンドロイドの放つある種特有の殺気に――生物的なものではないが、しかし機械的とも言い難い鋭い気配――備え、自分は少女たちの前に立ってバックルに手をかけ、いつでも変身を出来る準備を整えた。
少女たちも臨戦態勢を取り、背後で各々が武器を構える音が聞こえる。とくに長いソフィアの魔術杖が自分の横から伸び、その先端を瓦礫の上で佇む機人へと向いた。
「最後の熾天使ウリエル……確か、アルジャーノンの護衛だったはず。どうしてアナタがこんなところに……?」
「答える必要は……」
無い、と言いたいのだろうが、その言葉が音として聞こえることは無かった。ウリエルの脚部が僅かに動いたのに合わせ、こちらも奥歯を噛んで迎撃へと向かう――バックルが回転して自分の身体を黒い装甲が覆うのと同時に、ウリエルは背から盾を取り出し、その中央に収められていた片手剣を抜き出してこちらへと向かってきた。
相手はこちらの速度とほとんど変わり無い。つまり、ウリエルも超音速戦闘が出来るということになる。振り下ろされた長剣を右手のカランビットナイフでいなし――超音速なので恐ろしい衝撃だが、変身と補助魔法、それにアウローラの加護がある今なら耐えられる――更に一歩踏み込んで、左手の爪で切り上げるように斬撃を繰り出す。
しかし、こちらの一撃は相手の盾から発されるバリアによって弾かれてしまう。その斥力で後方へと吹き飛ばされてしまうが――どうやらウリエルが使うのは全身を覆うようなバリアでなく、盾の周辺のみに現れるバリアらしい。
それなら、更に速度を上げて相手の背後を取れば良い。そう思って前に出ようとした瞬間、ウリエルは後ろへ大きく跳躍し、元来た瓦礫の上へと姿を決して行った。一旦加速を解くと、先ほど互いの刃がぶつかり合った衝撃波と轟音とが遅れて辺りに響き渡った。
「お前、待ちやがれ!」
「待ってアランさん! これはアランさんをおびき出すための罠だよ!」
音が止んでからすぐに奥歯を噛みなおそうとした瞬間、既に遥か後方にいるソフィアの大声が背中に刺さった。言われてみれば、ウリエルは余りにも簡単に引き下がっていった。それを安易に追いかけるのも、確かに危険かもしれない。
ここは一旦追撃の手を止めてソフィアの意見を聞くべきだろう。自分があれこれ考えるよりもソフィアの推測の方がきっと正しい――彼女はいつだって正しかったのだから。
「ソフィア、罠ってどういうことだ?」
「単純に言えば、以前ゲンブさんがガングヘイムでアランさんにやったのと同じことをやろうとしてるんだと思う。今、基地内は停電中で、迎撃のシステムが使えない……そうなると、相手からしてみると一番厄介なのはアランさんになるから」
「なるほど、それで俺さえどこか遠くへ誘導すれば、敵としても動きやすくなるってことだな?」
「うん。この通路内なら、魔術で第五世代型はあぶり出せるけれど、それでも全部を看過するのは多分厳しいし……とくに停電による暗さに加えて、この辺りは瓦礫で散らかっちゃって、通路の水滴で判別は出来なくなってしまっているから。
そこで、アランさんがいなくなってから天使たちをここに一挙に押しかけさせれば……」
「確かに、敵の思うつぼだ」
「そうでなくとも、アランさんはいつも敵に突っ込んで行っちゃうんだから!」
日ごろの何かが溜まっていたのか、ソフィアは少々語気を強めてそう言って後、少しのあいだ頬を膨らませた。とはいえ、今はそんな余裕はないことを思い出したのか、すぐに咳ばらいを一つして真剣な面持ちになった。




