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8-57:二人の熾天使、再び 中


 ◆


 T3とジブリールが一瞬現れたのち、すぐさま轟音を立てて二人ともどこかへと消えてしまった。二人が去った場所では雪が一気に蒸発し、同時に辺りに粉塵が舞っている――とはいえ、様々な所に光の筋が見え、けたたましい音が聞こえていることから、二人は未だ超音速の世界で戦闘を繰り広げているということは察することが出来た。


「T3さん!?」


 名前を呼んだところで返答がある訳でもないのだが――いや、また他の何者かがこちらへ接近してくる。それは、鋭い殺意。ジブリールのような剥き出しの殺気ではなく、急所のただ一点を抉るような視線を感じる。


 恐らく、剣で防ぐのではもたない、そう直感して身をかがめると、自分の首があった場所を鋭利な何かが回転しながら通り過ぎていくのが見えた。そしてその何かは空中で弧を描いて来た道を戻っていき――チャクラムが水色の髪の少女の姿をしたアンドロイドの指先に収まった。


「イスラーフィール……!」

「アナタ達の相手は私……どの道、音速を超えるジブリールたちの戦闘には、アナタは着いて行けないでしょう」


 イスラーフィールは無表情のまま、指先でチャクラムをクルクルと回している。直ちに攻撃してくる意図は無いようだが、同時に目を話せるほどの隙もない。


 こうしている間にも、周りの天使たちはドンドン進行してきているのに――と思っていると、背後からゲンブに「セブンス」と声を掛けられた。


「厳しいかもしれませんが、なんとかイスラーフィールを抑え込んでください。私とホークウィンドは、他の第五世代型の殲滅に専念します」

「は、はい! 分かりました!」


 後ろを振り向かずに返事を返すと、再び周りから激しい戦闘音が鳴り響きだした。そして自分は改めて、目の前の少女の姿を取った機人を注視する――話によれば、イスラーフィールは防御特化型のアンドロイドらしい。先ほどの攻撃も鋭くはあるものの、金色の光の加護のある今なら対処できない程ではないと思う。


 とはいえ、恐らくこちらの攻撃も通りはしないだろう。ソフィアの魔術やT3の攻撃を防げる程のバリアがあるのだから、斬撃など容易に弾かれてしまうはずだ。


 そうなれば、せめてバリアで防がれないような奇襲をしかけるしかないが――外見だけで言えば自分と同じくらいの少女のはずなのに、イスラーフィールには恐ろしく隙が無い。こちらの一挙手一投足まで見逃さない。そんな鋭い視線が自分の身へと浴びせられ、こちらの身もヒリヒリとした緊張感に包まれてしまう。


 幾許かの時間、こちらはただ剣を構えて少女と向き合い――イスラーフィールは、自分の構えている剣の切っ先を見つめているようだった。


「ファイアブランド。聖剣の勇者が王都を旅立つ際に下賜される魔剣……並の第五世代型を断つには十分な熱量があるけれど、私の反物質バリアで防げない道理はない」

「……やってみなければ分かりませんよ!?」


 挑発されてむっときた訳ではないが――もちろん、ファイアブランドを馬鹿にされて幾分かはムキになったことも否定こそしないものの、いつまでもこのまま動かないでいても埒が明かないのも確か。そう思って一か八か、相手に攻撃を仕掛けることにする。


「いくよ、ファイアブランド! 御舟流奥義、真空束風縦一閃!!」


 雪を踏み込んで一気に前へと出て、縦一文字に振り下ろした刀身から、真空の刃が放たれる。剣閃は辺りの雪を巻き上げ、一瞬にしてイスラーフィールの居る場所へと――もとい、居た場所を突き進んでいく。彼女の移動速度はADAMsに匹敵こそしないものの、肉眼で追うには難しいほど早く、容易に剣戟は避けられてしまった。


(……右!)


 全くの勘だが、恐らく彼女は自分から見て右に避けるだろうと踏んでいた。事実、右からチャクラムが飛んでくる気配を感じ、それを高めに跳躍して避けながら、イスラーフィールが着地する地点を目指す。


「……もらった!」


 魔剣から巨大な炎が巻き上がり、その刀身を雪の上に立つ少女へと振りかぶる。イスラーフィールも着地した反動ですぐには動けなかったのだろう、足を動かす代わりに腕をこちらへと突き出し、自分との間に薄紫色のバリアを展開した。


 全力で振り下ろした剣は、障壁を突破することは敵わず――こちらは力を入れて精一杯だというのに、水髪の少女は膜の向こうで涼し気な顔をして口を開いた。

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