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8-56:二人の熾天使、再び 上

「……どうやら、地下通路を経由して、基地の中にも敵が侵入しだしたようです」

「内部の様子は?」

「アラン・スミスは既にハインラインの器の元へ到着していますが、まだ接敵はしていないようですね。まだ基地内の防衛システムで敵の進行を抑えられています」

「だが、気は抜けない状況だろう」

「えぇ……私は内部の援護にも周る必要があるので、少しこちらへの集中が落ちると思います」

「トリニティバーストが切れねば問題ない」

「そこは遵守致いたしますよ」


 精霊弓の予備弾倉を持って立ち上がり――次に装填するときは、ゲンブに余裕が無いかもしれないが、ADAMsを起動しながらのリロードならある程度は安全だろう――再びセブンスとホークウィンドと並んで戦線に加わる。


 実際、ゲンブの精神力は恐ろしいの一言だ。この人形ですら、内臓チップを通した遠隔操作な訳で――逆を言えば、それ故に本体が複数の作業を同時並行しているとのことらしいが、一つ一つの作業の難易度を考えれば、恐ろしい集中力と精神力でもって事にあたっているのは想像に難くない。


 彼にして曰く、普段の本体はほとんど休眠状態であり、僅かな脳波で人形をコントロールしているとのこと。そうでなくては、三百年――それどころか、七柱を追ってきた一万年の間――生き延びることは出来なかったはずだ。有事の際には本体も目覚め、人形を操る傍らで他の作業も並行しているらしい。


 ゲンブの本体、チェン・ジュンダーが何処に居るかは自分も聞かされていない。以前に本体の居場所を尋ねたことはあったが、知る者が少ない程リスクは低いということで、結局知る機会は無かった。


 とはいえ、この惑星レムのどこかに本体が居るのも間違いないだろう。ピークォド号には本体は無かったし、余りに遠い宇宙から操作するのでは動きにラグが出る――同様に、レムを取り巻く惑星系からでは電波を傍受される可能性があることを考慮すれば、恐らく高い確率でこの惑星のどこかに、そしておそらくこの基地に本体も居るはずなのだ。


 要するに、この基地の迷宮的な作りは、有事の際の迎撃に備えるだけでなく、チェン・ジュンダーを護る盾でもあるはず。そうなれば、此度の襲撃における敵側の狙いは三つだ――モノリスの回収、ハインラインの器の回収、そしてチェン・ジュンダーの本体の破壊。ちょうど自分たちが、レアやヴァルカンにしようとしたことの意趣返しと言える。


 このことに気づいているのは、自分とホークウィンドだけだろう。もしかすると、アシモフには共有されているかもしれないが――用心深い軍師のことだ、まだ疑念のあるアシモフに対して事実を伝えているとは思い難い。


 自分はゲンブのことを全面的に信用しているわけではないが、この戦いに勝つにはこの男の頭脳は必要不可欠だ。そうなれば、基地を守ることは自分の勝利においても重要な事項だ。


 チェンから状況の共有が行われて、今度こそ打って出るために奥歯を噛んで音速の世界へと入る――その瞬間、静謐な銀世界の中、自分と同じだけの速度でこちらへ急接近してくる何者かがいるのが視界に入った。


 奴の相手が出来るのは自分だけ――そう思い、急接近する敵に向けて弓をつがえて光の矢を放つ。しかし、飛来してくる燃え上がる薔薇色の流線は放たれた矢を事もなく躱し――続く何社かの内で偏差射撃も試みるが、相手はこちらの動きを読んでいるのか、撃ちだした全てに対応されてしまう。


 とはいえ、向こうも大気圏内では音速を超え続けるのが厳しいのだろう、一度加速を解くことには成功する――燃え上がる炎の中から現れたのは、薔薇色の髪の熾天使であった。


「意外と早い再会だったわねぇ、ゴミムシどもが!」


 雪上を凄まじい速度で接近してきた物体、その正体はジブリールだった。前回の戦闘でホークウィンドに破壊されたせいか、今は翼をつけていない。その代わりなのか、今の彼女が出している速度はADAMsに匹敵する。


 異常事態を感知したのか、セブンスもホークウィンドも警戒態勢に入り、ジブリールの放つ無邪気な殺気を読んで銃口の筋から逃れようとしている――しかし、加速した時の中から繰り返される攻撃にさらされ続ければ、いくら優れた戦士である二人でも避け続けることは困難だ。


 ともなれば、自分がジブリールの迎撃をしなければなるまい。構えていた精霊弓を突貫してくるジブリールに向けて、拡散するように矢を放つ。相手もすぐに対応してきて、身をよじりながら攻撃を躱し――僅かな隙間を縫ってくるのは流石と言うべきか――こちらへと接近してくる。


 こちらと同様、向こうも二丁の銃でこちらへと向けて光線を撃ってくるが、それは銃口から射線を読むことで対処して躱していく。以前のように立体的な攻撃をしてくるわけではないので、避けること自体は容易だ。


『ゲンブ、聞こえているか?』

『はい……どうやら、ジブリールは虎と戦えるように換装してきたようですね』

『あぁ……それで、私より早く動く可能性はないか?』

『その可能性は低いと思いますよ。大気中でマッハ3を超える時点でかなり無茶をしているのですから……』

『それだけ分かれば十分だ!』


 精霊弓を背に戻して外套から斧を出し、こちらも接近してきているジブリールの方へと向かっていく。相手の射撃を一発、二発、三発と躱しながら相手に肉薄し、間合いに入った瞬間にヒートホークを振り下ろす。


 対するジブリールは片方の銃を上へと放り投げ、空いてた手で灼熱の刃を掴み――互いに加速が切れた瞬間、相手の表情が怒りに満ちたモノに変わる。恐らく、加速の速度に表情を変える機構が着いてきていなかったのだろう――しかしこちらの刃はピクリとも動かず、すぐに相手の尋常でない握力によって斧は砕かれてしまった。


「邪魔よ! 私はホークウィンドと決着をつけに来たのよぉ!」

「そう言うな……奴は女子供の相手は苦手らしいからな」


 それだけ言い残して刃の亡くなった斧の柄を放り投げ、再び奥歯を噛み締める。一旦距離を取って再び弓を背から取り出して目いっぱい弦を引き、至近距離から強力な一撃を放つ。相手もすでに加速しており、弓による一撃自体は外してしまったものの、意識をこちらへ向けさせることには成功したようだ。


 そうだ、それで良い。トリニティバーストの掛かっている今なら、熾天使と言えども自分に勝機はある。何より、セブンスにコイツの相手をさせるわけにはいかない――そう思いながら味方と少し距離を取り、ジブリールとの戦いに臨むことにした。

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