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8-55:雪上の激突 下

「まさか、ユメノ・ナナセはあそこまでの鉄砲玉だったので?」

「あぁ、そうだな。ナナセは普段こそ温厚なものの、一度戦いだせば猪突猛進なタイプだった」

「はぁ……これなら、サークレットをかけなおしておくべきでしたか」

「いや、アレで良い……この方が、私も慣れている!」


 三百年前もこうだった。敵陣に切り込むナナセを、自分が弓と魔法で援護する――この戦い方は馴染みがある。


 もっとも、ゲンブの言いたいことも分からないではない。彼女のように本能で戦うタイプは制御がしにくい――盤面のコントロールを望む軍師からすると、今のセブンスは味方としては厄介なタイプに属するだろう。


 しかし、セブンスの記憶や情動をもう縛ってやりたくはない。何より、サークレットで記憶や感情をコントロールしていた時より、今のセブンスの方がおそらく強い。というより、セブンスはどこか――正確にはナナセは――どこかアラン・スミスと近い部分があるように思う。


 両者に備わっているそれは恐らく、直感で「善」を引き当てる天性の嗅覚だろう。善とは、道徳的な正しさという意味だけではなく、この場で何をすべきなのか、どうするのが正解なのか――それを本能で引き当てる能力があるのだ。


 どうして二人にはそのような能力があるのかは不明だが、彼女らが持つ直観は、思考を縛っていては解放されない力のように思う。そうなれば、正念場の今でこそ彼女が存分に力を振るえるように、自由にしておくのが正解だろう。


 とはいえ、セブンスが先行しすぎていることには変わりない。余りに離れすぎていてはゲンブの援護を受けられない――彼女を下げさせるべきだろう。そう思い、ADAMsを起動して一気に雪の上を駆け抜け、彼女の背後を取っている数体の第五世代をヒートホークで切り付け、会話をするために加速を切る。


「……ゲンブが言っていたように、あまり突っ込みすぎるな」

「はぇ……? はっ、あんなに基地が遠くに!?」


 いつの間にか自分が現れたことに呆気を取られて後、セブンスは背後を見て素っ頓狂な声をあげた。


「あのあの、すっごい力が沸いてくるので、気が付いたら想像以上に進んでしまっていたと言いま……」


 少女の言葉尻は、巨大な手裏剣が雪の大地に何かが突き刺さった轟音でかき消えた。直後、手裏剣に追いついてきた忍び装束が一瞬だけこちらを振り返り、遠くで浮遊している人形の方へと顎を突き出した。


「言い訳をしている暇があったら集中しろ……ホークウィンドに殿しんがりを任せて少しずつ後退するぞ」

「は、はい! すいませんでした!」

「謝らなくていい……さっきの一撃は良かった」

「T3さん……はい!!」


 少女の浮かべる満面の笑顔に、自分の胸に何か暖かい物が去来する。つい先日まで避けていた思考であり、本来なら抱くべきでない感情だ。しかし、今は細かいことを気にしている場合ではない。この感覚が自分に力をくれるというのなら、それを有効に活用すべき時だ――そう思い、後退するセブンスを援護しながら、自分も後方へと下がることにした。


 その後は基地の入口からせいぜい二百メートルの範囲内で接近する第五世代型アンドロイドと交戦し続ける。すでに十分以上は戦い続けているものの、疲労は感じない――トリニティバーストの強化によるおかげだろう、他の三人も同様に、最初と変わり無く戦い続けているようだ。


 とはいえ、エルヴンボウのエネルギーは消耗する。普段はある程度のエネルギーは内燃機関により自動生成しているが、音速を超えて連射している今では生成される分よりも遥かに消費量の方が多い――とはいえ、そういったことを見越して弾倉の予備はある。


「……奴ら、これだけの戦力を一気に投入してくるとはな」


 弾倉を入れ替えているがてら、敵の攻撃から護ってくれているゲンブ向けて声を掛ける。アンティーク人形は機械人形達を見えない糸で操りながら、こちらを見ずに話し始める。


「七柱からしたら、大した数ではないということなのでしょう。アシモフが認識しているだけでも、世界には十万程度は天使が眠っているようですから。

 とはいえ、それをこの地に輸送してくるとなれば、その数は大分限られるはず……このまま戦い続けていれば、ピークォド号が飛び立てる程度には敵を殲滅できることでしょう」

「それも、熾天使やアシモフも認識していない隠し玉でも無い限りには、だがな」


 予備弾倉の底を叩いて弓に押し込み、立ち上がって再度打って出ようとした瞬間、先ほどまで戦闘に従事していたゲンブがこちらを振り返った。

次回投稿は6/24(土)を予定しています!

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