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8-54:雪上の激突 中

「それではセブンス、調停者の宝珠は持ってきましたか?」

「あ、はい……これですよね!」


 セブンスはポケットから宝珠を取り出し、それを指先につまんで人形の方へと向けて見せる。


「はい、それで大丈夫です。それを我々三人の間に立って掲げてください」

「……こうですか?」


 少女は言われるまま、自分とゲンブ、ホークウィンドの立つ場所の中央に立つ。互いが視認できる距離に居れば宝珠の力を引き出すことは出来るはずだが――今更ながらに一つの疑問が生じた。


「先ほどは気にしなかったが、人形のその身でトリニティバーストを使えるのか?」


 調停者の宝珠、トリニティバースト――それらを自分は三百年前には何の疑問も抱かずに使っていたが、原理としては次のような物らしい。その性質は魔術に近く、人の意識の力を媒介として、高次元存在の持つ無限のエネルギーの一部をその身に宿す――宝珠を持つものを中心とし、共通の指向性を持った三つの意志から四人に強大な力を降ろすという装置であり、秘術である。


 その原理で言えば、人形の身であるゲンブがトリニティバーストを利用できるのかと疑問に思ったのだが――人形はこちらへと首を向け、音を立てながら頷いて見せた。


「はい、問題ありません。上手くこちらで力を制御して見せます。それより、アナタの方こそきちんと協力をお願いしますよ? 何せ、セブンスに対しては素直でありませんからね」

「……その言い方は引っかかるが、敵を殲滅するのに雑念を入れるつもりはない」

「どうですかねぇ……アナタは割と雑念だらけに見えますが。おっと、無駄話をしている暇はありませんね」


 ゲンブの言う通り、もはや無駄口を叩いている暇などない。早急にトリニティバーストを発動させ、天使どもの迎撃を開始しなければならない。しかし、三つの意志を何に向けて統一すべきか――そう思っていると「偽りの神々を滅ぼし、真実の世界を取り戻すために」と言う声が人形の方からあがった。


 そうだ、元々我ら四人は、そのために集まった者たちだ。瞳を閉じて、ただ倒すべき偽神達の名を思い起こし――自分がこの場にいる意味を思い出す。毛が逆立ち、機械の四肢に繋がる神経を通じ、全身に力がみなぎる感じがする。


 そして目を開けると、自身の周りに金色の粒子が上っているのが見えた。自分だけでなく、ゲンブとホークウィンドからも同様の光が立ち昇り――それらの光が中央に居る少女の掲げる宝珠へと集まりだした。


「この光、なんだか懐かしい……何となく、分かる……この宝石の使い方。この身に集まる光の意味! トリニティバースト、発動!」


 セブンスの咆哮と共に、氷原に天を衝くほど巨大な四本の光の柱が立ち昇る。そして、少女が再び鞘から剣を振り抜き正眼に構えると、剣も持ち主に応えるように、先ほどよりも巨大な炎を立ちあげた。


「行きましょう、皆さん! 私に力を貸してください!」

「応!!」


 少女の掛け声に男三人の返事が重なり、各々武器を取り出し接近してくる無数の気配に向けてそれらを構えた。それと同時に、上の方から「さて、皆さん」という声が降りてきた。


「三面を山に囲まれたこの場所では、当面の間は敵は一方向から来るでしょう。しかし、人と違って疲れ知らずの第五世代型達は山々を迂回し、次第に我々の背後を取って包囲殲滅してくることが予想されます。

 とはいえ、寡兵である我々が散開すれば不利になりますし、距離が離れすぎればトリニティバーストの効果を維持できません。それに、この場を余り離れては基地へ多くの敵が侵入するのを許すことになる……そのため、あまり先行しすぎず、なるべく固まって行動しましょう」

「分かりました!!」


 セブンスは力強く返事をした後、雪原の向こうへと一気に駆け出した。彼女の進む先では、新雪が巻き上がり、青と白の稜線の間に霧のようなものを創り出している――天使の姿が見えぬものには、ただ強烈な一陣の風が雪を巻き上げているように見えるだろう。しかし実態としては、数えるのも面倒な程の第五世代型アンドロイドたちが列を成して突撃してきているのだ。


 向こうもこちらを捉えたのだろう、雪と見紛う銀の髪に向けて、無数の銃口が差し向けられる――しかし、今の彼女なら援護はいらないだろう。無数の光線が少女に向けて発射されるが、セブンスはその僅かな隙間を縫うように移動し、相手の攻撃が止んだタイミングで炎の魔剣を左肩に掛けた。


「お返ししますよ……三舟流奥義、無限流星横一文字!!」


 大きく横薙ぎにされた剣から、使い手の士気に呼応するように巨大な火柱が放出されて雪原を薙ぎ払った。互いに密集していた天使たちは炎から逃れることもできず、その多くは一刀のもとに伏せられる――自分はセブンスが剣を振り切る瞬間に奥歯を噛み、彼女の剣を躱した者たちに向けて矢を放ち――加速を解くと同時に、空中から幾筋の光刃が放たれ、直後に機械部品の雨が雪の上に振り始めた。


「……まだまだ!」


 半壊した先遣隊を追撃するため、セブンスは更に踏み込んで残骸の転がる雪上へと駆けていく。援護するためだろう、その背中を追うように雪上では目立つ黒装束が駆け抜けていき、そしてすぐに宙に浮かぶアンティーク人形が自分の横に並んで、雪の上で剣の舞踏に興じる少女を指さした。

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