8-47:旧世界におけるアラン・スミスについて 上
「……そもそも、レムはどうしてアランを蘇らせたか、よね」
自分の疑問を、スザクが代弁してくれた。何度か自分も考えたことだが、敢えてDAPAと対立していた自分を蘇らせた意味、それは未だに不明だった。
単に前世的な知識を持った人間にこの世界を見て欲しいのなら、DAPA関係者でも蘇らせた方が早そうだ。もちろん、意見の偏りを抑えたという意味合いもあるのかもしれないが――そうでなくとも、敵対者を蘇らせる必要は無かったはずだ。
「アラン、その辺りは誰かに確認は取っているの?」
「そう言えば、まだ確認は取れてないな……」
アシモフや、場合によってはゲンブもその辺りの事情を共有されているかもしれないが――先日の会議では他の話題が充実しすぎていて、その辺りの確認をすることなど完全に失念していた。しかし、逆を言えば遠からぬ未来にレムが自分を選んだ理由は分かるだろう。
「ま、細かいことは本人から聞けばいいだけよね。ひとまずアランの人格について一個の仮説を出すなら、旧世界の知識とオリジナルの遺伝子情報を持つことにより、前世的な倫理観を持ちつつ、自然とオリジナルに近い人格形成に至った……と言ったところかしら」
「恐らく、そうだと思います。というより、人格形成に肉の器を構成する情報……遺伝子というものの影響が非常に強いのでしょうね。実際、ナナコには前世の知識すらありませんでしたが、オリジナルのユメノ・ナナセに近い性格になっているようですし……」
「成程、面白い話ね……環境要因も大きいけれど、その環境そのものすらもDNAによってある程度規程されているならば、あるいは……」
なんだか、女性陣が難しい調子で議論を進めている。どこか理知的な様子を見ると、ソフィアとスザク、もといグロリア・アシモフは似ているところがあるのかもしれない。先ほどまでの険悪さが嘘のように二人は各々の意見を出し合い、そして落ち着いたタイミングでソフィアが得心したように大きく頷いた。
「ともかくアランさんの性格は元からこういう感じって言うのは理解しました。それで、以前との差異はあるんでしょうか?」
「そうね、一番大きいのは、生身かそうでないか……私の知るアラン・スミスはサイボーグで、いつも仮面を付けていたから」
ずっと仮面をつけていた、どこかで聞き覚えのある言葉だ。どこでだったか――記憶の奥底を掘り返すと、レヴァルの星空が思い返された。そうだ、先輩はずっと仮面をつけていたと、あの時シンイチが言っていたのだ。
そうなれば、右京はかなり早いタイミングで――なんなら出会った当初からこちらの正体に気付いていたことになる。レム自身は自分を秘密裏に蘇らせたはずだが、それでも右京は気付いていた、ということになるのだろう。
右京はレムに対する権限を持っているというし、わざわざデータベースに確認を取ったのかもしれないが――直感だが、アイツはこちらを一目見て気付いた様に思う。仮面をしていて素顔は割れていなかったはずだが、声や所作で看破したに違いない。
しかし、サイボーグと言えども常に仮面をつける必要はないように思うが――そもそも何故仮面を付けていたのか、その辺りもスザクに確認を取ってみるか。
「なあ、なんでオリジナルはずっと仮面をつけていたのか知っているか?」
「単純一言、事故のせいで見れる顔じゃなくなっていたらしいから。実際、顔以外も事故により多くの機関を損傷していて、かなり多くの部分を機械で補っていたわ。第五世代型アンドロイドを生物的な感覚で見分けるため、人間的な部分も残されていたようだけれど……」
「T3もサイボーグだが、アイツよりも機械化してた感じか?」
「えぇ、そうね。あの男はADAMsを使えるように骨格を強化して、四肢を入れ替えている程度でしょう……アナタの場合、肺などの臓器も入れ替えていたと聞いているわ。知っている範囲では、強化骨格、DNAから培養した強化外殻……これは皮膚にあたるけれど、並の刀剣を受け付けない程度の硬さはあった。それに人工筋肉と人工臓器から形成され……事故前そのものとして残っていた物は、脳と神経、眼球くらいだって聞いていたけれど」
強いてを言えばレッドタイガーに変身している時の状況に近いわ、と付け足された。なるほど、T3は服さえ着ていれば割と人間然としているが、オリジナルの自分はどちらかと言えばもうほとんど機械であったと言っても差し支えなさそうだ。
しかし同時に、それだけ機械化していていたら、もはやほとんどアンドロイドと差は無さそうにも思う。そうなると、サイボーグ化した時に培った技が今の自分に継承されているのも違和感もあるが――本来生身の人間が出せる以上の力でオリジナルは戦っていたのであり、それを態組織そのものが異なる自分が違和感なく使えているというのは不可能のように思うからだ。
また、そこまで機械化して、人間的な部分で第五世代型アンドロイドの完全迷彩を見抜いたというのも不思議なものではあるが――いくつかの仮説は成り立つ。
まず、自分がオリジナルの技を使えることについては、この肉体が実はある程度レムによって強化されているということだ。というより、オリジナルのDNAならば――強化した人工筋肉自体を培養したのなら、骨格や皮膚がついてこなくても、ひとまずオリジナルと同様の規格で動けることは起こり得るかもしれない。
次に、完全迷彩を見抜けたことに関しては、改造前に残っていた脳や眼球などの機関が重要だったと考えることはできる。もしくは、強化外殻とやらも皮膚ではあったようだし、人間的な感覚はそこそこ問題なく残っていたのか。
ともかく、この辺りもレムに聞いてみたほうが早いか――そう思っていると、じっとスザクがこちらを覗き込んでいることに気づいた。




