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8-43:テレサとグロリアの軌跡 下

「私は……私の中のテレジア・エンデ・レムリアは、やはり彼のことを疑いきれていません。好きだったという感情がもやとなり、事実を見通すだけの視野を奪っているだけかもしれませんけれど……」

「どうしてそう思うんだ?」

「私は、あの人と二年間、一緒に旅をしてきました。ずっと心の壁は感じていましたし、本心を見せてくれることはほとんどなかったように思いますけれど……でも、あの人なりに勇者としての使命を果たそうとしていたように思うのです」


 テレサは――スザクはそこで一度言葉を切り、「馬鹿な話よ。それは、右京のマッチポンプに過ぎないのに」と冷たく言い放った。そしてすぐに「でも……」と続ける。


「それでも……七柱の創造神としての彼はそうかもしれないですけれど、勇者シンイチ・コマツとしては……一生懸命に戦っていたように見えたのです。

 なんでも器用にこなす方でしたし、非常に聡明な方でもありましたけれど……どこか、人々を守るという事に関しては、不器用な調子で……でもひたむきに戦っていたように思うのです。まるで、見えない何かを追いかけているように……」

「……なんとなくだが、俺もそんな風に思う」


 仮に彼の中に悪意しかなかったとするのなら、自分はもう少しアイツのことを警戒していたのではないか――そんな風に思うのだ。


 もちろん、一万年も生きている奴であり、あのゲンブをして侮れないほどの相手なのだから、自分のような単純な思考では彼の演技を見抜けなかっただけかもしれないが――それでも何か輝くものがあるからこそ、自分はシンイチのことを認めていたのではないか。


 しかし、今ならもう一人の生き証人がいる――とくに、自分とテレサが知らないあの男の姿を知る者が。


「なぁ……グロリアから見たら、右京はどんな奴だったんだ?」


 透明のガラスのエレベーターが昇る景色を背景に、スザクは再び目を瞑り――表情はそのまま、しかし雰囲気はどこか刺々しいものに変わっていく。


「そうね。意外とテレサの言うシンイチとやらと一致するところはあるわ。何でも器用にこなすけれど、人に対しては一定の距離を置いて、どこか正義感があるように見えた。だから、アナタも彼のことを信用していた……」


 スザクはそこで目を開き、真っすぐにこちらを見据えてきた。


「でも、アイツは裏切った。それが全部よ」


 その瞳には、燃え上がるような憎悪がある――グロリアと言う人格にとっては、右京と言う人物は絶対に許しがたい男なのだ。しかし、この少女に似つかわしくないほどの怒気――やはり彼女も古の世代において、復讐に身を焦がした戦士ということか。


 その気迫に吞まれそうになっていると、スザクは表情が歪み――両手で頭を抑えて首を振り出した。


「それが事実であったとしても、私は彼の本心を聞いてみたい……いいえ、知ることなんかないわ、私はアイツを絶対に許さないんだから……!!」


 やはり予想した通り、シンイチと言う存在が彼女の中での大きな矛盾点となっており、それが人格の不和に一役買っていそうだ。本当はグロリアからもう少し右京のことを聞いてみたいのが本音だが、スザクとしての彼女には負担が掛かりそうだ――この話はこの辺りで切り上げたほうが良いだろう。


「……話を変えよう」

「えぇ、そうね……その方が建設的だわ」


 エレベーターが止まって扉が開き、互いに踏み出したタイミングで、スザクは下から覗き込むようにこちらを見てきた。


「それで? 何の話をするの?」

「そうだなぁ、楽しい話が良いかな?」

「ふぅ……そういうところは相変わらずなのね」


 スザクは一度大きくため息を吐き、肩をすくめて皮肉気に――いや、どこか嬉しそうに笑っている。


「そういうところって、どういうところが?」

「能天気な所……うぅん、違うわね。話をはぐらかすのが苦手なのよ、アナタは。話題を変えようとするとき、ワザとつまらないジョークを挟んで見せるの。それで、空気を変えようとしているのね」


 その指摘は中々に鋭い気がしてぎくりとする。今まで意識したことは無いが、言われてみればその通りな気もした。しかし、今まで一度もこんな指摘は受けたことが無いし、自分とスザクは――なんならテレサとは――そこまで多く話したこともない。


 そうなると、やはり彼女の中にいるグロリアと言う人格は、確かにアラン・スミスとの記憶を持っており、同時に自分のオリジナルと接点が――それもこちらの人物評を的確に出来るほど程度長く――あったと言えるのだろう。


「……とはいえ、暗い話をするより良いでしょうね……それで? どうやって楽しませてくれるのかしら?」

「あのなぁ、つまらないジョークとか言われて傷ついてるんだぞ、こっちは……それで楽しませろだなんて、ハードルも高いだろうがよ」

「あら、殊勝なことね……でも、アナタのつまらないジョーク、嫌いじゃないから。気にせず話してくれていいのよ?」


 スザクはそう言いながら、どこか挑発的に笑って見せた。それなら、自分のオリジナルの話でも聞いてみるか――いや、覚えていない過去の自分のことをほじくり返すのは、下手をすれば黒歴史を掘り返しかねないので自爆の危険性はあるのだが、少なくともグロリアもテレサも自分のことを悪く思っているわけではないだろうし、無難な話題にもなるだろう。


 それに、オリジナルのことを聞けば、自然と旧世界のことや、グロリアのことも分かるだろう――そう思って質問する前に、歩くスザクの体の前にこちらの腕をそっと出した。


「……何?」

「衝突事故を避けるためさ」


 スザクはこちらを訝しむ様に見つめてくるが――次第に廊下の曲がり角から徐々に足音が近づいてくる。自分たちが歩くのを止めてそちらを注視していると、曲がり角から金の髪に白いローブの少女が現れ、こちらを見て満面の笑みを浮かべたと思ったら、すぐに何か警戒するように表情を引き締めたのだった。

次回投稿は6/11(日)を予定しています!

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