8-34:ティアの修行 下
次回投稿は5/31(水)を予定しています!
「ティア、お疲れさん」
「ふぅ……アラン君じゃないか。ベルトの解析とやらは終わったのかい?」
「あぁ、今まで通りに使っても問題ないそうだ……それで、ティアは何をしてたんだ?」
「見ての通り、ホークウィンドに稽古をつけてもらってたのさ。ボクの体術の源流はニンジャの使う技だからね。教えてもらおうと思って」
「いや、アイツのは忍術と言うより……」
「はは、分かってるよ。でも、クラウが望んだ技は、ホークウィンドの技がより近いからさ……それにしばらく神聖魔法は使えないから、それまでは体術一つで戦っていかないとならないから」
ティアはそう言いながら、その赤い瞳で握った拳をじっと見つめている。しかし、ティアの言うことには少々違和感がある。神聖魔法が使えるはずの彼女が、なぜ体術一つで戦っていかないとならないのか。
そう思っていると、後ろから肩を叩かれる――振り返るとアガタが真後ろでこちらを見上げていた。
「私からお答えしましょう……ティアが使っていた神聖魔法は、アルファルドの加護によるものだったのですよ……魔族の扱うものと同様にね」
「どういうことだ?」
「アランさんも予想していたと思いますが……邪神ティグリスなどという神は存在しません。邪神の名はレムリアの民や魔族の精神的なコントロールのために作られた寓話に過ぎない……そして、邪神への信仰を代行していたのがアルファルドなのです。
正確には、第六世代型アンドロイド達に魔法を授けるレム、ルーナ、レアの三柱以外への祈りを受理し、魔法を授けていたのがアルファルド、というのが正解ですね。
レムが言うには、アルファルド……右京は自身が倒れた時のことを予兆して、自動で魔法を健在させるシステムを組んでいたのだとか」
それが魔族とティアが同時期に違和感を持った理由か。元々は第六世代型アンドロイド達の祈りをアルファルドが受理していたのに対し、今は機械的に処理されているから違和感があるのだと――そういうことなのだろう。
「しかし、それならアシモフかレムがティアに力を貸してやればいいんじゃないか?」
「それは難しいみたいだよ」
また背後から声が聞こえ、自分はティアの方へと向きを変えた。
「アシモフの精霊魔法はエルフでないと扱えないようにされているらしい。そして、レムとは現在通信できないから、新たに契約し直すこともできないし……同時に、ルーナは倒すべき敵だからね」
「なるほど……それで、少しでも力を付けるためにホークウィンドに教えを請うてた訳か」
こちらの言葉にティアは頷いた。しかし、師事してくれと言って実際に教えてくれるのだから、ホークウィンドも人が好い。件のニンジャの方を見ると、男は顎に手を当てながらティアの方を見て何かを考えているようだった。
「神聖魔法の補助が無いと言えども、そなたの技のキレは以前より落ちているように見えるが……心に迷いがあるのか?」
「いや、迷いはないよ……だけど、キレが落ちているのは、ボクの原動力が弱まっているせいかもしれない……以前アラン君には話したけれど、ボクの技はクラウが理想と思う物だからさ」
ティアはそう言いながら俯いてしまう――以前、ティアが扱えるのはクラウの理想とする限界値までだと言っていた。逆説的に、技のキレが落ちているというのはクラウが強さを求めていないから、ということになるのだろうか。
その辺りを詳細に知りたい。昨日、ティアからクラウの状況を軽くは報告を受けているものの、まだ詳しくは聞けていないのだから――そう考えていると、ティアは師匠よろしくに、巨漢に対して大きくお辞儀の姿勢を取った。
「ホークウィンド、訓練ありがとう……これからアラン君に、少しクラウの状況を伝えたいので……」
「うむ、今日はここまでにするか……明日は分身の術を教えよう」
「はは、それはボクにはちょっと難しそうだけど……明日も付き合ってくれるのは素直にありがたい。お願いするよ」
ティアは顔を上げて顎を掻きながら笑い、改めてこちらに向き直り「アラン君、アガタ、行こうか」と言って先陣を切って歩き出した。




