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1-36:運命の少女たち 中

「私は三か月ほどですが、シンイチさんと一緒に旅をしました。だから、アガタさんともご一緒しています」


 その名を聞いて、クラウの肩がびく、と上がり、表情が険しくなる。


「……やはり、お知合いですか?」

「まぁ、教会では同期ですから……アガタさんは優秀な方でしたし、そりゃ、私も知っていますよ」


 その口調は、半分はクラウらしい、半分は彼女らしくなかった。知っているのをすっとぼけているのはそれらしいが、口調はどこが憎々し気で、それが普段は飄々としている彼女には似合っていない。


「……アガタさんが言ってたんです。教会から勇者様のお供を誰にするかで、自分か、あと一人か、ひと悶着あったって……そのあと一人が、クラウディアさん、アナタなんじゃないですか?」

「うーん……私も先ほどのを見せた手前、とぼけるわけにもいきませんかね……その推察は、大正解です。まぁ、私は勇者様のお供に絶対になりたかった訳でもないですから、そこはあんまり気にしていないんですけれどね」


 一瞬、たはーと笑って見せるが、すぐにクラウの表情は暗くなってしまう。


「ただ、私はアガタさんのことは、ちょっと恨んでます」


 憎々し気だった正体はこれなのだろう。アガタとやらのことを嫌っているから、思い出したくなかった、そんなところか。しかしクラウもエル同様に観念したのか、小さくため息をついてから、ぽつりぽつりと語りだした。


「どこから話しましょうか……ちょっと生い立ちから話すと、私、戦災孤児なんです。四歳の時に住んでいた村が魔族に襲われて、その後は孤児院で生活していました。

 七歳の時に神聖魔法の才があるということで、教会に移って生活していた……のが、二年前までですね。その後、私が悪魔憑きだということで、教会を追われてしまいました」


 エルにも並んで、下手すればそれ以上か、重い過去をあっけらかんとクラウは告げた。


「あはは、アラン君、そんな顔しないでください。別に、なるようになっただけ、今の生活のほうがしっくり来てるくらいなんですから……それで、憑いている悪魔というのは、ティアのことです……さっき、アラン君を助けてくれたのはティアなんですよ?」

「あ、あぁ……とりあえず、ありがとう?」


 ティアというのが何者か分からないが、ひとまず礼をすることにした。その礼にクラウは微笑んで、再びソフィアのほうに向きなおった。


「ティアは、いつのころか……幼少のころ、村で生活していたころから私の中にいました。私の、友達として……ティアはなんでも出来ます。魔法も、勉強も……私は、ティアから色々と教わって、成長してきました。

 それで、村にいた時の記憶は、あまりありません。ただ、貧しい生活だったので、あまり好きでなかったのを覚えています」


 私の中に居た、その文言から推察に、おそらく解離性人格障害、いわゆる多重人格とうやつだろうか。もしかすると、貧しい村――戦時で食糧も無い状態だと、かなり厳しい生活だったと思われる。そのストレスが原因で、多重人格になったのかもしれない。


「その後、孤児院での生活は、私の中で一番楽しい時でした。院長先生や周りの大人の人は優しく、そんな中にいるからでしょう、そこで育つ子供たちも、やんちゃですけど良い子たちです。

 孤児院では、ティアも最初は驚かれましたが、院長先生が理解してくれて……私たちは、充実した時を過ごすことが出来ました」


 そこでクラウは一旦話を切って、こちらを向いた。


「アラン君は知らないと思いますが、神聖魔法の才能がある人は、貴族や上級な市民を除いて、強制で教会に入れられます。だから、教会に入るのを、私は拒否できませんでした。

 孤児院を出立する前、あまり一つの体に二つの魂があることはばらさないほうが良いと、本当に信用できる人に以外には告げないほうが良いと院長先生に言われました。それで、ティアはあまり表に出たがらないので、私がフロント担当をしてた訳です」


 一息入れてから、クラウは少し伸びするような姿勢を取り、今度は夜空を見上げる。


「ただ、ティアがずっと遠慮しているのも、寂しいじゃないですか……だから、教会内で唯一、信頼できる友達に告げたんです。それが、アガタさんでした。

 私は女神ルーナ、彼女は女神レムに仕え、教会での日々を過ごしました。時に友として、時にライバルとして、修行に励んで……互いに、枢機卿級クラスの魔法までを修めました。

 二人の時には、ティアも彼女とお話ししてました。ティアも、アガタさんのことは、気の置けない友人と思っていた……のですが……」


 クラウは今度は俯いて、しばらく押し黙った。思い出したくないことを、言いたくないことを言おうとしているのかもしれない。しかし。少しして上げた顔には柔らかい表情があった。


「勇者様は、教会に降臨なさいます。なので、最初のお供は教会代表になるのですが……私か、アガタさんか、どちらが付くかで審議が行われました。

 そこで、アガタさんが、ティアのことを告げ口したのです。彼女はペトラルカ家……今回を除いた七回の魔王征伐の内、三回を輩出している聖職者の名門です。元々、その血筋には誇りを持っていたようですので……手段を、選ばなかったんだと思います」


 勇者のお供になれれば、一層家名に箔がつく、そんなところだろうか。しかし、信頼できると思ってアガタとやらに打ち明けていたのに、それを裏切られたとなれば、先ほど恨んでいる、と言ったのも納得はいく。


「審議の結果、私は悪魔憑きと認定されて、教会を追われることになりました。同時に、ルーナ神の加護を失ったのです。私が今使っている神聖魔法は、レム神の助力で成り立っています。それでも分霊の加護なので、あまり高位な魔法は使えなくなってしまったのです」


 クラウの言葉を中断して、ソフィアが手を挙げた。


「質問です。先ほど、ティアさんが使ったのは枢機卿級だったと思います。ティアさんは、また別の神の加護があるということですか?」

「その通りです。彼女には、アルファルド神の加護があります……多分」

「アルファルド神……六柱の創造神にして、その名を呼ばれることを嫌う神、ですね……人間に干渉する気がないとのことで、神聖魔法の契約は無いと聞いていましたが。しかし、多分というのは……?」

「はい、ティアもいつの間にか使えた、とのことで……彼女自身も、正確にはどの神の祝福で魔法が使えるのか分からないようです。ともかく名前を呼ばれるのを嫌がるので、アルファルド神と予測しているだけ……。

 ですがそれが、更なる疑惑になってしまったのでしょうね。アルファルド神ではなく、邪神が手を貸しているのではないかと。そのため、本来なら、追放ではなく異端審問に掛けられる寸前だったのですが……外ならぬアガタさんの進言で、追放のみ、という恩赦が下ったのです」


 ここまでややあっけらかんとした調子だったが、クラウはそこで言葉を止めて――ただ、炎を見て呟いた。


「……私は、私の大切な友達を悪魔扱いした人たちを、そしてその原因を作ったアガタさんを、許すことはできません」


 そこまで言って、やっといつもの調子に――クラウは呆けたような、飄々としたような顔になる。


「その後は、どうしようかなーと悩みました。別に、強制で教会に入れられただけだから、勇者様のお供になりたいと思ってたわけでもありません。かと言って、私には帰るべき故郷もありませんから。

 それなら、せめて培った技を使って、お金でも稼いでやろうかなと。身寄りのない私にとっては、腕っぷしで稼げる冒険者はうってつけでしたしね」


 クラウにとって、冒険者家業は、行く当てのない彼女なりの生きる手段だったという事か。そう考えると自分と近いようで、不謹慎ながらに少し親近感が沸く。


 そんな風に考えていると、一つ疑問が思い浮かんだ。寝たきりのまま手を挙げて、クラウに質問することにする。


「……なぁ、一点いいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「クラウとティアだからクラウディアなのか?」


 こちらの質問に、クラウは盛大に噴き出して後、声を上げて笑い出した。


「あはは、いやいや、順序が逆ですって……クラウディアという名前自体は、きちんと両親がつけてくれた名前です。ただ、それを二人で分け合ったのは本当です。なので、これからも私のことはクラウって呼んでくれるとしっくりきます……ソフィア様も、ですよ」


 言いながらクラウがソフィアの方を向くと、少女は笑顔で応えた。


「それなら、皆さんも私のことは敬称はつけないで呼んでください」

「えぇ……でも、ソフィア様は軍の偉い方なので……」

「うーん、それなんですが……実は、エルさんとクラウさんに色々質問したのは、訳があります。これから、私と一緒に行動して欲しいのです」


 エルとクラウを見据えるときの少女の表情は、笑顔ではなく真剣なものへと変わっていた。

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