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8-26:極地の独房にて 上

 長い会議が終わって後、自分はエルが居る部屋へと向かった。会議の内容自体も濃密で、考えるべきことはたくさんあるが――ひとまず、会議に参加していなかった彼女のことが気になるし、思考をまとめるよりも早く彼女に会いに行くことにしたのだ。


(……どうせ、俺のことで気に病んでいるだろうからな)


 エルの奴、暴走して自分を傷つけてしまったことを過剰に気にしてふさぎ込んでいるに違いない――それで引きこもっているのだろう。


 性格は細やかで繊細そのものの彼女らしいと思えばそれまでだが――エルに刺されることは自分で選択したことなのだから、エルが気にすることなんて無い、それを伝えなければならない。


「……こちらです!」


 案内を買って出てくれたナナコが振り向きながら指し示した扉は、施設の最下層にある――恐らくだが数十メートルは下った――更に奥まった通路の一番奥にあった。一言で言えば、ここはチェン・ジュンダーが有事の際に設計した砦の最奥中の最奥といった場所であり、これは確かに案内が無ければたどり着きにくい場所だった。


「案内ありがとう、ソフィア、ナナコ」

「うぅん、気にしないで……それじゃあ、私たちは行こうか、ナナコ」


 ソフィアはどことなく寂しげな微笑をこちらに見せて後、隣に立つ銀髪の少女の方へと向き直った。一方のナナコは驚いた表情でソフィアの方を見ている。


「え、でも……」

「エルさんも、多分アランさんと二人きりの方が話しやすいと思う……色々あった後だからね」

「うぅん、それは確かにそうかも……」


 ナナコは側頭部に両の人差し指を押し当て、少しの間考え込んでいる。自分としてはソフィアとナナコが居ても問題ないのだが――当のナナコは「そうだね」とごちてこちらへ向き直り、大きなポニーテールを振りながら大きく頭を下げてきた。


「あの、アランさん。エルさんのことをよろしくお願いしますね」

「うん? どういうことだ?」

「エルさん、すっごい悩んでて……きっとアランさんと話せば、気分も晴れると思うので」

「あぁ、アイツは結構細かいことを気にするからな。俺は気にしてないんだが」

「アランさん。人の感情はそう簡単じゃないよ」


 最後の声は、正面ではなく横から聞こえてきた。見れば、ソフィアが神妙な面持ちでこちらを見ている。


「クラウさんの言葉を借りれば、まったくアランさんなんだから……なんだけど。でも、エルさんは間違いなくアランさんを待ってるから、行ってあげて?」

「……あぁ、分かった」


 ソフィアの心理は推し量れないが、ともかく今はエルに会いに来たのだから、ひとまずそれを果たすべきだろう。ナナコが扉横の装置を――パスコードを打ち込んでいるらしい――操作すると扉が開いた。


 中は暗いようだが、確かにエルの気配がする。振り返ればソフィアとナナコは既に引き返しており――自分は暗い部屋の中へと入ることにした。


 ◆


「……ソフィア、いいの?」


 廊下を先に歩く少女に追いつき、隣に並んでそう問うた。元々、アランの案内に買って出た理由は色々ある。ここに来るのに場所を知らなければ大変だろうということ、単純に自分がエルのことを心配だということ――そして同時に、エルとアランを二人で会わすのをソフィアが嫌がるかな、と思ったためだ。


 下世話な勘ぐりにはなるが、意中の人を他の異性と二人っきりにさせるのを独占欲の強いソフィアは嫌がるだろうし、同時にアランはソフィアが同席するのを気にしないだろうから、それなら自分が緩衝材として一緒に行くのが良いかと思ったのだが――それ故、まさかソフィアから二人っきりにさせてあげようと打診が出るとは思っていなかったのが正直なところだ。


 もちろん、エルの心中を考えれば、アランと二人の方が込み入った話もできて良いだろう。きっと自分たちが居ればエルがこちらに気を使ってしまうから――エルのことをおもんばかったソフィアの意見も尊重したい。


 そんな諸々の事情をもって心中を聞こうと思って良いのか尋ねた訳だが――ソフィアは寂しげに俯きながら口を開いた。


「うん、いいの。自分がエルさんの立場なら……きっと同じ道を選ぶと思う。そして、その覚悟を決めるためにアランさんと二人で話をしたいって思うから」

「……私は、エルさんにその選択肢を選んで欲しくないと思うよ」

「私だってそうだよ。エルさんはここまで一緒に旅してきた仲間だから。でも、同時に……エルさんが下す決断なら、私は賛成することにする」


 ソフィアは寂しげにそう呟いた。自分はエルがその決断をすることに反対なので、ソフィアの言う事に手放しで頷くこともできないのだが。同時に自分よりエルとの付き合いの長いソフィアにしか分からない感情もあるだろうから――そこからはしばらく互いに何も言わずに廊下を歩き続けた。

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