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8-25:如何にしてこの世界は中世風の社会を形成したのか 下

 右京の計画について質問した後、他に質問者はおらず、会議は解散となった。ただ一点、この場で済ませておきたいことがある。一緒に戻ろうと提案してきたスザクとソフィアを先に戻っておくよう言いつけ、人々がはけけていく会議室の中で一人机の前でうなだれている老婆の方へと向かう。


「……ファラ・アシモフ」


 自分が声を掛けると、エルフの老婆は気だるげに顔をあげて、なんだか疲れた表情でこちらを見つめてきた。


「原初の虎……まさかアナタと手を組むことになるとは夢にも思いませんでしたが……私に何か用ですか?」

「あぁ……一応、謝っておこうと思ってな。許されるもんでもないかもしれないが……グロリアを連れ出したことに、多少は心労もあったんじゃないかと思って」

「謝られる筋合いはありませんよ……私は良い親ではありませんでしたから」

「あぁ、べスターから聞いたよ。でも、アンタは自分がやってきたことを後悔してるんだろう? グロリアのことも、レムリアの民たちのことも……それなら後にできるのは行動だけだと思うぜ」


 自分の言葉に、老婆は一瞬きょとんとして――しかしすぐに口元に皺を寄せて苦笑いを浮かべた。


「ふぅ……あっけらかんと言ってくれますね。しかし、だからこそあの子は……DAPAにいるよりもアナタといる方が幸せだったでしょう」


 話すにつれて、アシモフの声色は段々と柔らかくなる――行動だけと言った自分に対しては釈然としない想いを抱いたのだろうが、恐らくだがこちらの言葉を次第に呑み込んで、共感してくれたのだろう。


 しかしそう思っていたのも束の間、アシモフは真面目な顔つきになり――どこか感情の読めない瞳でこちらを見つめてくる。


「一つだけ言っておきます。アナタは私にとって、大分因縁のある相手です……グロリアをさらったのもありますが、多くの我が子である第五世代型を葬ってきたこと。それに……私の夫を殺したのはアナタです」

「……なんだと?」


 一瞬、相手の言っていることを理解するのに時間を要し――そしてすぐにやらかした、と思った。もちろん、過去の記憶など無い自分には実感はないが、しかし彼女の言うことが本当なら、彼女からしてみたら仇が償いをしろと言ってきたことになる。それには納得しがたいものがあるだろう。


 同時に、アシモフの夫を自分のオリジナルが殺害していたとなるならば、グロリアの父を殺めてしまったということにもなるのではないか。


 改めて、自分が暗殺者であったという事実を反芻する――エルに疑惑をかけられた他、べスターからは言われていたし、そういうものなんだろういう認識自体はあったが、本当に殺めていたという自覚は足りていなかったのかもしれない。


 自分が何と答えるか迷っているうちに、アシモフはふと微笑を――皮肉や苦笑ではない、こちらを安心させようという感じの笑みを浮かべた。


「安心して、とは言わないけれど……人体実験に利用した私たち両親のことを、グロリアは恨んでいたわ……それでも、夫を殺したという事実は消えない。アナタはそれをどう償うというの?」

「それは……」

「ふふ……意地悪な質問をしてごめんなさい。別に、クローンであるアナタに償ってほしいと思っているわけではないわ……お互い、過去のことは水に流しましょう。私は私にできることをします。アナタも、アナタにできることを……頼りにしていますよ、アラン・スミス」


 そう言ってアシモフは立ち上がり、扉の方へと歩いていく。自動ドアが開いた時に僅かに振り返り、今度こそは皮肉気な笑みを浮かべてこちらを見た。


「……私は殺された夫ではないから気にしないで、とは言えないけれど。原初の虎がそんな調子では頼りないわよ?」


 アシモフはそう言いながら廊下へと消えていった。恐らく、彼女なりに気にするなと言いたかったのだろうし――それこそ、暗い調子で言われるより皮肉めいて言われる方が幾分か気も紛れる。


 それに、先ほど考えたように、自分たちは負けられないのだ――そうなればアシモフの言う通り、迷っている暇などない。そう思いながら拳を握って、自分もブリーフィングルームを後にした。

次回投稿は5/21(日)を予定しています!

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