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8-15:真一と右京の関係性について 中

 ティアは自分が寝ている間にある程度の真実を認識したのか、アガタの肩を優しく叩いているようだった。それに気分も落ち着いたのか、アガタは息をゆっくりと吸い、改めて話を続ける。


「アランさんも見たのではないですか? ブラッドベリは最後、シンイチを前に動けなくなっていました。アレは、彼の畏敬で、被造物たるこの星の民の三原則に働きかけて、動きを封じていたのです」

「なるほど。それがアイツに七柱が宿っていたという物的な証拠ってわけか……」


 アガタの言うことには覚えがある。あの時、ブラッドベリは自分に蹴り飛ばされて深刻なダメージを負っていたのは間違いないが、恐ろしいほどの再生能力を持つ魔王が――それだけでなく、自らの種族の未来を憂う王の中の王が――シンイチに睨まれて麻痺したように動けなくなっていたのは違和感があった。


 そういう意味では、シンイチに右京とやらが宿っていたということ事態はそれなりに説得力を帯びているように思われるが――まだ何点か解消されていない問題もある。


「……べスターの話じゃ、右京とやらは恐ろしく頭のきれるやつだったらしいな? それなのに、なんでシンイチはT3にやられちまったんだ?」


 そう聞きながらも、実は既にある程度の解答はあった。T3が迫ってくる瞬間、シンイチは何か策があるように見えたが――そのせいで、自分はアイツの元に駆けつけるのが遅れたのだ。


 逆に、斬られること自体がシンイチの狙いだったとするのなら? わざとT3に斬られることによるメリットがあるとするのなら――だが、その狙いまでは分からない。そう思っていると、アシモフは伏し目がちにこちらを見て、呟くように話し始める。


「これは私見になりますが、恐らく右京はわざとT3に斬られたのですよ……そうでなくては、原初の虎とチェン・ジュンダーはもっと早いタイミングで手を組んでいたでしょう。

 それに、彼は上手くチェンやアナタを利用し、高次元存在の降臨を早めようとしていたのです」

「さっきから、ちょいちょい分からん話題が混じるな……」

「えぇ、高次元存在のことなどは、また時期を見て話します。ひとまず、勇者シンイチには星右京が宿っており、チェンやブラッドベリを対処しながら、アナタの行動もコントロールして……それだけではありません……右京は、ソフィア・オーウェルの記憶を一度改竄しています」

「……なんだって?」

「ソフィアが他の七柱から介入を受けないようにするため、生体チップにプロテクトをかけたのですが……その時に、アルファルドによる記憶改竄の履歴がありました。勇者シンイチを肯定的に捉えるように暗示をかけ、パーティーから追放したようですね。その後の記憶を見ると、レムが暗示部分を解いたようですが」


 アシモフが話を追えるのと同時に、自分はソフィアの方へと振り返った。ソフィアはすでに事情を認識しているのか、落ち着いた様子で頷いた。


「アランさん、覚えているかな? 私が一度、解脱症になりかけたの」

「あぁ……レヴァルでだろ? あの時は確か……シンイチたちがやられたって誤報があった時だな」

「うん。あの時は確か、私はシンイチさんの救援に向かわずに、レヴァルの防衛を固めるべきだと考えたんだ。でも、それが暗示に……シンイチさんを肯定的に捉えるという命令に反していたから……」


 ソフィアがそこまで話した後、再びアシモフが口を開く。


「解脱症は、我々七柱の創造神……DAPA幹部がレムリアの民の記憶や感情を矯正した歪みとして発症します。私たちがかけた暗示と、レムリアの民自身の思考が矛盾を起こし、思考領域にエラーを起こしている状態です。

 比較的立場のある者が解脱症に掛かりやすいのは、知識がある故に我々に対して疑念を抱きやすく、記憶を改善される可能性が高いことに起因します。そして、一度記憶を改竄されれば、多くの場合はいずれどこかのタイミングで解脱症を引き起こす……七柱の創造神に対して疑念を抱いた原因は、その者の生活の中のどこかには潜んでいますから」

「余りにも勝手な話だ」

「えぇ……そうですね」


 自分が発した言葉に、アシモフは自嘲気味に笑って視線を落とした。直後、「レア様をフォローするわけではありませんが」とアガタが切り出した。


「記憶の改竄はそんなに頻繁に行われるわけではありません。知識があれば演繹的に世の中のことを考えますし、それ故に体制に対する違和感を持つのは自然なこと……そのため、逐一危険思想を持ったからといって、記憶をいじられるわけではないのです。

 現に、異端と判定されたクラウも、体制に疑念のあるアレイスターも、記憶改竄の対象になりませんでした。

 実際に記憶の改竄をするのに明確な規程やラインがある訳ではありませんが、その多くの場合は七柱の創造神達のやっていることの真相に辿り着きそうな場合か、七柱の各々の裁量で行われてきたことです」

「その裁量ってやつを使えば、気分で人の尊厳を踏みにじれるってことだろう?」

「そうですね……それは否定しません。ですから、レムはアナタにこの世界を見て欲しいと望んだ。

 そしてアナタは現に、この世界の在り方を歪んでいると判断した……だから、レムはレア様を誘って、アルファルドたちと戦おうと決めたのです。チェン・ジュンダーと言う外的要因が居る、今が最大のチャンスと踏んで」


 なるほど、話が色々とつながってきた。なぜレムが自分を蘇らせたのか、また何故今というタイミングだったのか。七柱内で自浄作用が働くのに三千年も掛ったのは残念なこととも思うし、七柱達がやってきたことは許されないことだとしても、ひとまず彼らの中からそれを正そうという意志が出てきたのは好ましいように思う。


「なるほどな……しかし話を戻せば、なんでシンイチは、ソフィアに暗示を掛けていたんだ?」


 質問して周りを見ると、対面の人形がカタカタと口を鳴らし始める。

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