1-34:女神との再会 下
「うーん、そうだなぁ……なんとなくだが。世界は確かに、中世ファンタジーっぽい。だが、技術や知識がちぐはぐというか……特に軍に関しては、結構近代っぽい感じがしたな」
「はい、そうですね。最初に言った通り、この世界は有史以来、アナタの世界とは違う独自の進化を遂げてきましたから。前世のソレが丸々当てはまるわけではありませんね。他には?」
「ほ、他ぁ? うーん……」
とは言っても、他に思い返すことと言えば、三人の少女との冒険のことくらいしかない。
「そうですよね、あの三人と一緒の時間が多かったと思いますから……しかし、運命とは皮肉ですね。どれだけ我々が緻密に糸を織り込んできたつもりでも、やはりすり抜けるモノは出てくるということですか」
「うん、どういうことだ?」
「よりにもよって、凄い子たちを集めましたね、ってことです……さて、そろそろ時間ですよ」
何のことだ、そう思っているうちに、女神は最初の時と同じように一歩横に退いた。その先には、あの世界に降り立ったのと同様に、光の扉がある。
「いや、まだ俺の質問に答えてもらってないぞ?」
「ですが、もう時間なのですよ……アナタの体が目覚めてしまうのですから。私でもどうしようもないです」
笑顔で言われた瞬間、光の扉の方に体が――魂がという方が正確なのかもしれないが――強制的に吸い寄せられる。図られた、この女神、こちらの質問に答える気など無かったのだ。
「失敬な。ただ、あまりアレコレ教えてしまうと、ちょっと問題があるのです。時がくれば、順々に明かしていきますよ……一個だけ、この場が妄想という疑念だけ晴らしてあげます。起きたら、手のひらを見てみてください。私が実在するという証拠に、メッセージを残しておきますから」
「お、おいレム! そんなんで俺は……!」
納得しないぞ、そう言い切る前に光の扉に完全に吸い寄せられてしまう。そして、世界が白く反転した。
今度は、視界に黒が広がる。黒いカンバスに浮かぶのは、文字通りの星々に、青白い満月、そして――。
「……アランさん! 良かったぁ……!」
目に涙を一杯に溜めて微笑む、ソフィア・オーウェルの美しい碧眼があった。
「……なかなか、しぶといわね。実はアナタ、ゾンビかなんかなんじゃない?」
声のした方を見ると、木を背に腕を組んで笑っているエルがいる。「そう言えば、アラン・スミスって名前がもうアレよね……」とか続けているのに対し、なんとか返答したいのだが、いかんせん体に全く力が入らない。
「……うん? アラン君どうしました、口をパクパクさせて……魚みたいですよ?」
そう言ってクラウが近づいて来てくれ、こちらの口元に耳を近づけてくれたので、なんとか「ニク」と伝えた。
「あー……魚というより、ホントにゾンビみたいですね、アラン君」
クラウはそのまま、あきれ顔で荷物の方へと歩いて行った。
そういえば、手のひらに妄想ではないという証拠をメッセージとして残す、とかレムが言っていたのを思い出し、少女たちが荷物のほうへ移動している隙に、なんとか握っていた右の手のひらを開いてみる。すると、そこは前世の言葉で縦二行に分かれて、次の文字が痣のような形で刻まれていた。
『バカがみる』
視認した瞬間、その文字は小さく煙を立てて消え去ってしまった。異様に達筆なのがまた、怒ればいいのか呆れればいいのか――ともかく、この世界に存在しない文字でメッセージが送られて、そしてそれを自分は解読できたのだから、転生した、レムが存在する、このあたりは嘘ではなかったという確証ができた。
勝利の余韻に安堵が加わり、気分だけはすこぶる良い。夜風が頬を撫で――本来は寒いくらいなのだが、熱くなっていた心を落ち着けるのには丁度良いくらいだった。
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