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8-12:十二人の集結 上

 自分が眠っていた時間は、べスターが言っていた通りに丸三日ということだった。そして自分が目を覚ましたことをナナコが他の人たちに知らせに行ってくれ――とは言っても、起きた時にはソフィアとテレサには囲まれていたのだが――そしてすぐに戻って来た。


「アランさんとソフィアは、ブリーフィングルームに来てください、とのことで……それで、えぇっと……テレサさん? グロリアさん……は、ちょっとまたこちらで待機していて欲しいんですが……」

「……スザク」

「えっ?」


 小さな声だから聞き取れなかったのか、それとも単純に意味が分からなかったのか、テレサの口から出た呟きに対してナナコは小首を傾げている。


「だから、スザクと呼んで。人格と記憶が混じり合って、今の私はテレサでありグロリアであり、そのどちらでもない……いっそ、別の呼び名の方が混同しないで済むから」

「はぁ……それならスザクさんは、こちらで待っていただいて……」

「イヤよ。アランが行くなら私も行くわ」

「えぇ、でも……うぅん……」


 ナナコは人が良いから、あまり強くは言えないのだろう。困ったように両の人差し指で側頭部を抑えながらどう返そうかと悩んでいるようだ。


「……なんでスザクを連れて行ったらまずいんだ?」

「アランさんは親子喧嘩が見たいんですか? それも下手すれば死人が出るレベルのやつになりますが」


 今の言葉は、ナナコと一緒に部屋に入ってきたアガタから出た言葉だ。確かに、言われてみればアシモフ親子の仲は最悪か――べスターの話だけ聞けばファラは娘をどうとも思っていないし、対してグロリアはDAPA憎し親憎し、それも本来は肉親には向けえない殺意があってもおかしくはないので、両者が一堂に会さない方が無難なことは間違いなさそうだ。


 とはいえ、これから重大な話が行われようとしているのにスザクだけをのけ者にするのも可哀そうなようにも思う。どうにか打開してやれないものか――そう思い、両者の関係性をソフィアに耳打ちして聞いてみることにする。


「なぁ、ソフィア。アシモフ親子は、どっちもお互いに憎しみあってるのか?」

「私から見た感じだと、グロリアさんが一方的に恨んでるように見えたね」

「そうか……ありがとう」


 ファラは一万年の時の中で考えを改めたのか、それとも娘を恨むだけの価値すらないと思っているのか、どちらなのかまでは分からないが――少なくとも、娘の方が我慢をしてくれれば話し合いの場に参加するのは問題なさそうだ。


「スザク」

「何?」

「今回は俺に免じて、大人しくしててくれないか? そもそも、お前を誘拐したのは俺だし……お前とファラ・アシモフの確執の中に、幾分か俺の責任もある訳だろう?」

「アナタに責任があるのは事実だとして、それで私が我慢する理由にはならないと思うけれど?」

「ぬぐっ……」


 なるほど、勝気な性格と言うのは嘘ではないらしい。全くの正論をぶつけられて、反論の余地も無くなってしまうが――こちらの反応が面白かったのか、スザクと名乗る少女は口元に微笑を浮かべてウィンクした。


「……まぁ、良いわ。今の面白いアナタの顔に免じて、少しばかり我慢してあげる」

「お、おぉ……ありがとう?」

「どういたしまして……さ、行きましょうか」


 そう言いながらスザクは立ち上がり、長い亜麻色の髪を撫でながら扉の方へと歩いて行った。


「……あれ? スザクさん、顔赤くないですか?」


 自身の方へ向かってくる女性の顔を見ながら、ナナコは不思議そうな様子で呟いた。それに対して、スザクは「そんなことないわ」とだけ返して部屋を出ていった。


 自分もベッドから起き上がり、他の者たちに続いて部屋を出た。しかし、廊下は異様に冷える――つい先日まで暑い地域にいたので、寒暖差で風邪をひいてしまいそうだ。


「ここは極地らしいよ、アラン君」


 自分が身を温めるために腕で身体を抱いていると、歩調を緩めてティアが側へと近づいてきた。


「道理で……いや、なんで唐突にそんな所にいるんだ?」

「ゲンブが潜伏するために作った基地がここだったってだけさ……なんでこんなところに作ったのかまではボクには分からないから、知りたかったら本人に聞いてくれ」

「まぁ、七柱に見つからない可能性をあげるならここだったってことなんだろうな……それでティア、クラウはどうだ?」

「芳しくはない、と言ったところかな。とりあえず、人格が崩壊はしていたりはしないけれど、表に出て来れる状態じゃないね……今は眠っているよ」

「そうか……まぁ、それが良いだろうな。恐らく、ルーナの悪行があれやこれやと出てくるだろうから、クラウは聞かないほうが良いだろう」

「そうだね……それにきっと、アラン君の顔を見ても気まずいだろうしね」

「……うん? どういうことだ?」

「クラウは、アラン君を裏切ってしまったことはおぼろげながら覚えているようだから……合わせる顔が無いと思ってるんだ」

「そんな。俺は気にしてないぞ?」

「はは、まぁ、アラン君はそうだろうけどさ……ただ、逆の立場だったとして、相手が気にしてないからって平気でいられるかい?」

「そりゃあ、まぁ……気まずいわな」

「そういうことさ。だからまぁ、クラウが目覚めている時には、慎重に接してくれ……ただ、しばらくボクが前面に出ているから、クラウと会話は出来ないと思うけど」

「あぁ、分かった……しかし、クラウと話せないと寂しいな」

「……そう言ってくれるだけでも、幾分かボクの気持ちは楽になるよ」


 ティアはそう言いながら寂しそうに微笑んだ。

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