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8-5:母子の邂逅、再び 下

「ファラ・アシモフ……!」

「ふぅ……だから早めに移動したかったのですが。グロリア、話を聞いてください? アナタの気持ちは仲間だった私には分かりますが、今のファラ・アシモフは大事な客人です。ですので、拳を収めて……」

「あぁああああああああ!!」

「あらら……誰か彼女を止めてくれませんか? か弱い私は、彼女を止めるので手一杯で……」


 テレサの背から生える片翼の炎翼がブースターの役割をしているのか、彼女の背後であるこちらまで大きく伸びてくる――危険な事態を先読みしたのか、自分とソフィアの前にはアガタが立って結界を張ってくれたおかげで事なきを得たが、ハッチの中は先ほどの寒さが嘘のように一気に高温になってきていた。


「やっぱり、あの炎の翼は……」


 隣にいるソフィアが、小さな声で呟く。何か思うところがあるのだろうか、気になって質問しようした瞬間、炎の翼がまた一気に巨大化して熱が増し、質問どころではなくなってしまった。


「グロリア……ごめんなさい……」


 エルフの老婆が目を臥せながら呟くと、対照的にテレサの目は大きく見開かれ、怒りの怒りの形相をアシモフへとむけた。


「私は!! お前の謝罪を聞きたいわけじゃない! お前の罪を死をもって償わせてやろうとしているんだ!!」


 すべてを言い切る前に、結界の前でテレサの体が崩れ落ちた。いつの間にかT3がテレサの背後に移動していたらしく、手斧の柄で彼女の首筋を叩いたようだ。


「直情的で、まるで周囲が見えていない……本当にコイツが役に立つのか?」

「ははは、それをアナタが言いますか?」

「……どういう意味だ?」

「どうもこうも、言葉通りの意味ですが」


 顔は全く笑っていない人形を前に、T3はバツの悪そうな表情を浮かべながら手斧を外套の内側へと仕舞った。


「恐らく、テレジア・エンデ・レムリアの直情的な部分が悪い影響を及ぼしているのでしょう。元々はもう少し、聡明で冷静な子なはずでしたので……もちろん、静かなる殺意を秘めている子でもありましたが。

 ともかく、彼女の浮遊能力とパイロキネシス自体は強力です。彼女の処遇をどうするかは、おいおい考えましょう」

「ふん……まぁ、好きにするがいい……だが、足手まといと判断した瞬間、私はコイツのフォローはしないぞ」


 それだけ言い残し、T3は格納庫から基地に繋がっているであろう扉を開けて、廊下の奥へと消えていった。


「まぁあんな風に言ってますが、彼は意外と面倒見が良いですからねぇ」

「そうなんですか? 私は、もう少し言い方が優しくても良いと思いますけど!」


 ゲンブの言うことに脊髄反射で返答してしまった。以前のエルの件だって、今回の件だって――暴れてたのはグロリアかもしれないけれど、それにしてもやり方だって乱暴だし、足手まといならフォローしないとか、もっと別に言い方があっても良いように思う。


 しかし自分の反論が面白かったのか、ゲンブ人形はまた口をカタカタと開いて笑い声を響かせた。


「ははは。何を言ってるのですか。アナタが赤ちゃんの頃から世話をしていたのは彼ですよ? それこそ、おしめだって取り替えて……」

「え、えぇぇええええええええ!? そんなの、もうお父さんじゃないですか!?」

「そうですねぇ、私はこんななりですから、アナタのお世話は出来ませんでしたし……ホークウィンドはずっと通信は取っていたものの、ピークォド号で待機していましたから、アナタの世話は彼に一任しており……そう言う意味では父親と言っても過言でもないかも。

 どうです、今度から彼のことをパパと呼んでみては?」

「絶対に嫌です!」

「そんな……喜ぶかもしれないのに」


 ゲンブはさも本気で残念そう、という声を出しているが、実際の所はきっとそんなに気にしていないだろう。というより、恐らく自分がT3のことをパパと呼ぶところを想像してほくそ笑んでいるに違いなかった。


「ともかく、そろそろ移動しましょうか。先ほど言ったように、アシモフとソフィア・オーウェルは私と一緒に施術室へ。ホークウィンドはアラン・スミスとテレジアを医務室に運んだら、皆を案内してあげてください」

「了解だ」


 ホークウィンドは頷くと、左腕だけで器用にテレサの身体を拾い上げて肩に載せ、T3の後を追って扉を開いた。その後を他の者たちも追っていく傍らで、自分はソフィアの件が気になったので、アシモフの背中を追うことにする。


「あの、私もソフィアに着いて行っていいですか?」

「それは、構わないけれど……心配なの?」

「心配、というのもそうなのですけど……あ、別にアシモフさんがソフィアに変なことをするとか疑ってるわけじゃないんですよ!? ただ、この世界で起こっていたこと、そしてこれから起こるかもしれないことを……キチンと知っておきたいんです」

「そう……」


 アシモフは優しい表情で微笑み――こう温かな面を見ると、グロリアが殺意を向けているのが不思議なくらいだが――空中に浮かんでいる人形の方へと振り返った。


「ゲンブ、構いませんか?」

「えぇ、構いませんよ。ただ、暴れたりしないでくださいよ?」

「むっ、ゲンブさん、私のことを何だと思ってるんですか?」

「いやぁ、小さい頃のアナタは飛んだ暴れん坊でして……」

「えぇぇええ!? そ、そうなんですか!?」

「それはもう、私の四代前のボディの髪なんか、アナタにしゃぶりつくされてべとべとで……」

「ひぃ! 止めてください、自分の知らない自分の恥ずかしい話を盛り返さないで!?」


 ソフィアが「あの人のいう事なんて嘘かもしれないよ?」などと冷静なフォローを入れてくれたものの、なんだか妙な説得力もあって、どうしても他人事とも思えない――しばらく人形による暴露大会が続くと、いつの間にか目的地である施術室とやらに到着したようだった。

次回投稿は4/30(日)になります!

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