1-33:女神との再会 上
気が付くと、ほの暗い場所にいた。辺りをボンヤリと見回すと、キラキラと輝く星のようなものが見える――。
「……最初はトラック、次は龍、この後は一体何に轢かれるんでしょう?」
その声に振り向くと、黒髪の女神、レムがいた。
「いや、もう轢かれたくはないな……俺、死んだのか?」
「そうですねぇ……死んだような、死んでないような……?」
相手の答えも適当だが、こちらも頭がぼぅ、としており、思考が回らない。レムは何と言っていたか、次は何に轢かれる――そうだ、俺は龍にやられて――!
「レム! 俺は死んでる場合じゃないんだ! すぐに戻してくれ!!」
「……仮に戻ったところで、アナタに何が出来るんですか?」
こちらの熱量に対して、レムは落ち着き払った様子で、そして冷たく言い放った。
「た、確かに、戻ったところで何が出来るわけでもないかもしれないが……」
言いながら、何故こんなに自分が必死なのか、自分の心に問いかけてみる。少し考えても、答えは出ない。ただ、漠然とした焦りが、胸のあたりにもやもやと巣くっている。
「私は言ったはずです。別にアナタに戦って欲しいわけではないと。もちろん、アナタが冒険者になることは織り込み済みでした……しかし、あのような化け物と、戦う義理なんか無いのです。それこそ、相応の力を持つものに任せれば良い」
「だ、だが、しかし……」
そうだ、あんな化け物と戦う必要なんかない。それこそ、勇者の役目だろう――そう思って、理屈では分かっても、どうしても胸のつっかえは取れない。
ふと、ソフィアの顔が思い浮かんだ。自分が貫かれた時の、唖然とした、しかしすぐに泣きそうになっていたあの表情。それだけじゃない、まだエルに、この世界に来てからの借りは返せていない。クラウは――うん、まぁ、なんか良い奴な気がするし。
そこまで思って、戻りたい理由が固まった。改めて女神と向き合うと、彼女はこちらの答えを待っているようだった。
「俺だって、別に化け物と戦いたい訳じゃない……ただ、あの子たちが心配なんだ。それは、戻る理由にならないか?」
なんとか必死に紡ぎだした答え、それを聞いて、女神は微笑んだ。
「ふふ、ごめんなさい、意地悪しましたね……アナタは、そういう人です。そういう人だから、私はアナタを選んだのですから」
「そ、それなら……!」
「落ち着いてください……まず、龍はソフィアの魔術で撃破されました。それに、そもそもアナタは元から死んでますからね。言ったでしょう? アナタは不死身に近いと。体は……クラウディアが治してくれたので、大体復帰できますよ。ただ、血を多く失っているので、起きたらまず、肉でも食べて血を作ることをおすすめします」
「え、えーっと、つまり?」
「もうじき、アナタは目が覚めるってことです」
「そうか、それなら良かった……」
戻れると聞いて胸を撫でおろすと、諸々の疑問が浮かんできた。そういえば、レムに対しては色々と確認したいことがあったのだ。
「そうだ、レム。俺の経歴とか、スキルのことなんだが……」
「ふふふ、色々悩んでましたね……自分が暗殺者だったとか、実は転生も妄想なんじゃないかとか?」
そういえば、コイツはこちらの思考を読むんだった。というか、常時監視しているのか――。
「暇だな、とは失礼ですね。疑問にお答えしませんよ?」
「はい、失礼なことを思ってすいませんでした……それで、教えてくれないか?」
「……その前に、私からの質問にお答えください。この世界の所感、ひとまずお答えいただければと思うんですが」
唐突すぎる質問で、正直何も思い浮かばない。なんとか頭を捻って、思い付きを述べることにする。




