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7-79:激戦の決着 下

「アズラエル!」


 手裏剣を投げた後、ホークウィンドはレアの従者の名を呼びながら、男性型アンドロイドの方へと跳んだ。そして、アズラエルもホークウィンドの意図を察したのか、拳を引き――そして突き出した瞬間、丁度黒装束の足裏がアズラエルの拳に当たり、そのまま黒装束は弾丸を超える速度で上空へと打ち出された。


 ジブリールの不運は二つ。一つはあまりに上空に移動していたせいで、男二人が滅茶苦茶なことをしていることに気が付かなった点。そしてもう一つは、我々を――ホークウィンドという男を侮っていた点だろう。


「なっ……!?」


 ホークウィンドと共有されている視界の中で、ジブリールの目が驚愕に見開かれているのが確認できた。素晴らしい反応速度で大八方を避けたまでは良かったが、まさか巨大手裏剣の影から巨漢が迫ってきているなど、合理的な判断をする第五世代型アンドロイドは夢にも思わなかったのだろう。


「鷹風流、裏奥義……絶影!」


 少女とすれ違うさま、男は手刀に気を込めて腕を振り抜く――ホークウィンドはある種の思い込みで錬気を行い、爆発的な身体能力を発揮しているが、肝心なのは実現できると信じる心らしい。要するに絶影とは、ホークウィンドという達人が放つ全身全霊の一撃であり、巨大手裏剣の投擲の何倍もの破壊力を秘めた攻撃になる。


 下から見れば、月を背後に二つのシルエットがすれ違い――ジブリール側も流石の反応速度と言うべきか、どうやら紙一重で躱したらしい。男の手刀は本体を捉えることは出来なかったが――それでも羽の一枚を破壊することには成功したようだ。


「……ちぃ!!」


 ジブリールは慌てたように舌打ちをし、残り五枚の翼を捨てて落下してきた。元々六枚の羽根で月からのエネルギーを受ける繊細な機構なのだから、それが一枚欠けただけでも危険はずだ――案の定、パージした五枚の翼は空中で爆発を起こしていた。


 ジブリールとホークウィンドが背中合わせに着地したのはほとんど同時だった。だが、膝を着いたのはホークウィンドの方だった。上空でのすれ違いざま、ジブリール側もホークウィンドに対してビームダガーによる攻撃を仕掛けており、それが男の脇腹を焼いたのだ。


 二人のダメージ量を比較すれば、ホークウィンドの敗北と言う形になるのかもしれない。しかし、ジブリールは天使としての翼をもがれ、セレスティアルバスターを封じられたのだ。後はT3達が合流すれば――上での戦闘は落ち着いたようで、こちらへ向かってきているのは確認できている――押し切ることも可能だろう。しかし、熾天使はその事実を認められないのか、美しい顔に確かな怒気を浮かべて背後へと振り向いた。


「……クソが!!」

「いけない……!」


 ジブリールが振り向いた瞬間、自分の前に居たイスラーフィールが高速で移動し、ホークウィンドとの間に立った。


「ジブリール、ここは退こう」

「何を言っているの!? このクソ雑魚ナメクジどもを皆殺しにしてやらなきゃ気が済まないのにぃ!!」

「セレスティアルバスターの使用不可に、付近から集結させた天使たちは全滅……それに、クラウディア・アリギエーリもハインラインも止められた。ここで他の者たちに合流されたら、流石に不利だよ」

「でも……!!」

「レムとレアの裏切りを確認するという、私たちのすべき最低限のことはもう済んでいるから……殲滅までは必須じゃない。それなら、私たちは自分たちの身を守らなければならない……分かって……!」


 感情的なジブリールと比べると第五世代型らしいイスラーフィールだったが、僚機を説得しようとする声にはどこか熱が籠っているように聞こえる。それに押されたのか、ジブリールは振り上げていた拳を降ろして、憎々し気に巨漢の背中を見つめた。


「勝負は預けるわ、ホークウィンド……次こそは絶対に壊してあげるから」


 そう言い残し、ジブリールは光の粒子に身を包んで姿を消した。言ってしまえば完全迷彩なのだが、熾天使ともなると本当に気配が見えない。イスラーフィールも姿を消し――。


「今回の敗北は、私たちの慢心。でも、アナタ達の戦闘データは取れた。次は負けないから」


 その声だけが廃墟に残り、二人の熾天使の気配は完全に消え去った。もちろん、今が好機と追撃することも検討はしたいのだが、ADAMsに対抗できるだけの速度を持つ二機を、しかも完全に気配を消されている状態で追いかけるのは無理だろう。ADAMsの使い手なら追えるかもしれないが、原初の虎はハインラインの器との戦闘で気絶しており、T3も片腕を潰されている今、追撃も厳しいのが現状だ。


 そうなれば、一旦は撃退できただけでも良しとするか――ともかく治療のため、膝をついたまま動かなくなっているホークウィンドの方へと向かう。


「ホークウィンド、お疲れ様です。大丈夫ですか?」

「問題ない、と言いたいところではあるが……」


 巨漢の正面へと回ると、口を覆う布の下から青白い皮膚がボロボロと落ちてきているのが見えた。


「血族でないものへの人格の転写に、無理な戦闘行動がたたりましたか……その肉体は限界でしょうか?」

「いや、まだ舞える……だが、遠からぬ未来に、その時が迫っているのも確かだ」


 脇腹を治療しながら、二人だけに聞こえる声で話し合う。仮にレイバーロードの肉体が朽ちようと、次の器を探せば良いだけではあるが――ホークウィンドの体術に着いて行けるだけの器は、そう簡単には見つからないだろう。


 とはいえ、慌てる必要はない。今日は失った物より、得た物の方が多いのだから。無論、それは自分の立場だから言える話で合って、他の者たちがそうであるとは限らないのだが。それを証明するように、丘から降りてきた者たちは、何やら浮かない表情をしているようであった。

【作者よりお願い】

お読みいただきありがとうございます!!

7章はここまでです!

よろしければ感想やブックマーク登録、評価の方をしていただけますと幸いです。


次回は幕間の投稿を4/22(土)に予定しています。

また、その後の8章からは投稿曜日を水、日に変えようかなと考えております。

詳細に関しては、次回投稿時のあとがきにて記載しますね。


それでは引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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