7-77:激戦の決着 上
集落の跡地では、未だに激しい戦闘が行われていた。ホークウィンド一人では劣勢だったものの、今はジブリールに対しては二対一の構図になっており、こちらに戦局が傾いて来ている。
「アズラエル! 婆の犬めがぁ!!」
ジブリールに名を呼ばれたラバースーツのアンドロイドは鎌を振り回し、羽型のビットから射出される光線を無言のまま防いでいる。
「はっ、何とか言い返したらどうなのぉ!?」
「犬と呼びたければそう呼べばいい。絶大なる力を与えられて、それに振り回されているだけの貴様に何を言われようとも、我が忠義は揺るがぬのだから」
「ほざけぇ!!」
桃色の髪の少女は癇癪を起したような声を上げ、命令を出して四つのビットで優男風のアンドロイドの言葉を取り囲む。対するアズラエルも流石は熾天使と言うべきなのか、ビットを見ずに軌道を読んでいるようで、照射されるレーザーを涼しげにいなしている。
「とある指摘が非常にクリティカルである場合、反論の余地が無く激昂するしかないことがあるというが……なるほど、これが図星というものか」
「うるさいうるさいうるさい! 壊れろ!!」
「壊れるのは貴様だ! ついでに、我が主君への侮辱を訂正してもらおうか!」
アズラエルは攻撃の隙間を縫うように中空へと跳び出して攻撃を仕掛けるが、やはり直線的な動きしか出来ないのに対してジブリールは三次元的に動き回れる分、余裕で躱されてしまう。
「ははっ、終わりだ犬め!!」
「……やらせん!」
ジブリールは再度腕を変形させてロングバレルから弾丸が射出される前に、いつの間にか回収していたのだろう、ホークウィンドの大八方手裏剣が下から投げ出されていたため、ジブリールは回避行動を取った。
先ほどから、こんな調子の応戦が続いている――ジブリールは相変わらず中空に居るので、アズラエルとホークウィンドだけでは一押しが足らない、そんな状況が続いていた。
その均衡を崩すためには自分が応援に行ければいいのだが、それは出来ない理由がある。こちらは援護のために射出した七聖結界付の札を、水色の髪の少女が作り出す強力な反物質バリアによって防がれているところだった。
「行かせない……」
そう小声で呟く少女型のアンドロイドこそ、音に聞くイスラーフィールだろう。幸いにして守りに特化した機体なのか、積極的にこちらに攻撃を仕掛けてくるわけでもないが、同時に確かなスピードと防御力を持っており、こちらも攻めあぐねているといった状態だった。
「レア様、ジブリールの非礼は私から詫びます……なので、思い直してこちらへ戻ってくれはしませんか?」
イスラーフィールはこちらの攻撃を防ぎながらエルフの老婆にそう問いかけた。確かに、この場の均衡はどれか一つだけでも欠け落ちれば崩壊する。もしレアが向こうへと寝返ってアズラエルが敵対したら、一瞬でこちらが打ち負かされてしまうだろう。
実際の所、レアが急進派と反りが合わないのは事実だろうが、リスクを負ってまで旧敵である自分たちに手を貸してくれるかどうかはまだ不明瞭だ。そうなれば、もう少し事態を整えてから熾天使とは事を構えたかったが――しかし、ファラ・アシモフは毅然とした態度で一歩前に出て、イスラーフィールに向かって首を振った。
「いいえ、イスラーフィール……賽は投げられました。私は惑星レムの存続のため、アナタの主君であるルーナを討たなければなりません」
「そうですか……ですが、その言葉を待っていました。今から、私がアナタに危害を加えないとは思わないことですよ?」
そう言いながら、イスラーフィールは真っ白なローブの袖からビームを刃とするチャクラムを取り出し、それを指で回しながらこちらへ向き直った。




