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7-75:嵐の後で 中

「エル……」

「あ、あの、ごめんなさ……」

「予告通り……お尻ぺんぺんの刑に処したからな……俺の勝ちだな」


 なんだか間の抜けた言葉に、思わず顔をあげてしまう。そこには、先ほどの暗い表情の代わりに微笑を浮かべる青年の顔があった。


「……だから、そんな泣きそうな顔すんなよ……龍に、肺を貫かれたって、生きてたんだからさ……心臓貫かれたくらいで、俺が死ぬわけないだろう……?」

「でも……」

「でももクソもない。俺は狙って、お前に刺されたんだからな……俺を殺した気になれば、ヴェアなんちゃらも解けるだろうって……だから、お前が謝ることなんて、ないんだ……戻ってくれて良かった、エル」


 一瞬、アランが何を言いたいのか良く分からなかった。狙って心臓を刺されるだなんて、普通なら考えもしない――だが、ひとまず共感するのが難しくても、どこまで行っても彼はアラン・スミスなのだと、それだけは理解できた。


 アラン・スミスという男は、誰かを護るためなら我が身可愛さに躊躇することは無い。彼はヴェアヴォルフエアヴァッフェンを解除するために、心臓を貫かれることすら許容した――もちろん、自身の再生能力があれば問題ない無いと勘定しての行動なのだろうが、一歩間違えればそれこそ死んでいてもおかしくなかったはずだ。


 彼の中では、失敗するという可能性は無かっただけかもしれない。いや、もしかしたら、その可能性を考慮してすら我が身を差し出したのかもしれない――私を取り戻すために。その優しさはありがたくもあるけれど、今は苦しさの方が勝る。


 そもそも思い返せば、彼は私を殺すことが出来たはずなのだ。ADAMsの加速が残っている状態で、ヘカトグラムを弾き飛ばすのではなく、私の脳髄に刃を突き立てれば良かったのだから。


 つまり、彼の勝利条件は私を倒すことでなく、ヴェアヴォルフエアヴァッフェンを解除することにあった――しかし倒される振りをするにしても、距離があれば重力波や神剣の光波で彼自身が跡形もなく消えてしまうから、敢えて刺される距離まで接近してきて、擬似的にこちらが勝利したように思わせるようにした――そういうことなのだろう。


 そのおかげで自分は自己を取り戻すことは出来たのだが、彼の心臓を貫いたという事実は変わらない。それに対しては、やはり謝るべきだろう。もちろん、謝ってどうこうなる問題でもないが――そう思って再び顔をあげたタイミングで、崖の下の方から轟音が響き渡った。


 その音を聞きつけ、アランは顔に戦う意思を宿し、地面に掌をつけて起き上がろうとする。


「くっ、行かなければ……!」

「何を言ってるんだアラン君!? 死んでいないのが奇跡なんだ……安静にしていないと駄目に決まっているだろう!?」

「だが、あのジブリールとかいう奴をぶっ飛ばさなけりゃ、気が済ま……ない……」


 アランの声は段々と弱くなっていき――起き上がろうと膝をあげた瞬間に意識が途切れてしまったらしく、今度は前のめりに倒れ込んでしまった。


「アラン!? アラン!!」


 やはり、失血が原因で――そう思って再び彼の元に詰め寄るが、確かに呼吸はある。どうやら気絶しているだけのようだった。


「ふぅ……本当に無茶苦茶だねぇアラン君は。とはいえ、下に加勢に行った方が良いのは確かかも……」

「……私が行こう」


 その声と共に複数の足音が近づいてくるのが聞こえる。音の方へは自分より早く、ティアが振り返っていた。


「ソフィアにナナコは良いとして、T3にテレサ姫……なんだか珍妙な組み合わせだ。しかし……」

「……うん。真に戦うべき敵は分かった。今は、この人と争ってる場合じゃないね」


 そう言い合いながら、ティアとソフィアは互いに頷き合った。どうやら、二人は今の状況を自分よりは認識しているようであり――少なくとも、T3と争うべきではないという事態は共通認識として持っているようだ。


 そして、T3は――本来は自分はこの男を倒すために旅を続けていたのに、今はそんな気力も沸かない――気絶するアランを一瞥してから口を開いた。

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