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7-67:亡霊の代理戦争 上

 前後から自分の名前を呼ばれるが、どちらにもなんだか違和感があった。エルはダンからティグリスに似ているとは伝えられていても、自分が原初の虎と呼ばれていることは知らないはずだ。それに、テレサも俺のことはさん付けで呼んでいたはずである。


 何より、エルの様子は間違いなくおかしい。T3とやり合っていること自体は納得できなくはない。今回の旅はゲンブ一派を倒すためのモノであり、そのうえ元々コイツは養父の仇なのだから、状況を知らないままであれば戦闘になってもおかしくはないのだ。


 しかし――。


『エルの様子を見る限り、正気ではないようだが……クラウディアの時とは様子が違うな』

『あぁ……何かされたのは間違いなさそうだが……』

「……アラン!!」


 べスターとやり取りをしている途中で背後から名を呼ばれ、そして振り返った瞬間、テレサが体当たり気味に自分の方へと突撃してきてそのまま抱きつかれてしまった。


「アランアランアラン! 会いたかった!!」


 名前を呼びながら、テレサはこちらの胸に額を擦りつけてくる。あまりに唐突な奇襲に頭も働かないのだが――もちろんテレサとは会話はしたことはあるし、変身していて外見で判断できなくても、声を覚えられているか自分と認識されてもおかしくはないのだが、こんな風に抱きついてくるようなタイプではなかったはずだ。

 

「あぁ、えっと……?」

「どうしたのアラン、私が分からないの?」

「いや、どうもこうもテレサじゃないのか?」

「テレサ……そうね、今の私はテレジア・エンデ・レムリア……でも同時に、グロリア・アシモフでもある」

『……グロリア、まさか本当に!?』


 グロリア、聞き覚えがある名前だ。確か、ハイエルフがテレサ姫に魔人の力を授けたとか言っていたか。


『べスター、知っているのか?』

『ハイエルフが言っていたのを覚えてないのか?』

『覚えてはいるが、お前の反応が尋常じゃなかったからな』

『そうだな……グロリアはオレやチェンたちと共に、原初の虎亡き後にDAPAと戦った仲間……もとい、お前がDAPAから連れ去って来た少女だ』

『はぁ!? 俺が人さらいしたって言うのか!?』

『元々は暗殺のために潜入していた先で偶然出会って、お前が拾ってきたんだよ……いや、グロリアが勝手についてきた、の方が正しいのかもしれないが……ともかく、お前にひどく懐いていた子だ』


 誘拐して懐かれていたというは違和感もあるが、懐いかれていたともなれば抱きつかれたのもおかしくはないのか。いや、懐かれている程度で抱きつかれるのも変な話かもしれないが。ともかく、眼下でこちらを見つめていたテレサの顔を見ると、哀し気な表情でこちらを見上げていた。


「私のことが分からないの……そうね、アナタは死んだはずだもの。それなら、アナタは私の知るアラン・スミスじゃないのね……」


 テレサは残念そうに視線を落とし、自分の背に回していた腕の力を弱める――同時に、横から剣が空を斬る音が聞こえる。見れば、エルが忌々し気な表情を浮かべてアウローラの切っ先をこちらへ向けていた。


「原初の虎から離れなさい、グロリア」

「イヤよ、と言いたいところだけれど……確かに、邪魔な誰かさんのせいでノンビリ話している場合じゃないわね。今は、ハインラインを倒すのが先決……!」


 テレサは自分から離れて、また義姉同様に憎々し気に吐き捨て、右腕から炎を出して燃え上がらせた。


「先ほどまでの私とは思わないことね……アランが見ているんだもの! 覚悟なさい、ハインライン!!」

「許可は無いが、計画には不要な存在……テレジア・エンデ・レムリア、並びにグロリア・アシモフ。危険度をAに変更、グロリアハンドごと排除する!」


 義姉妹が互いに怒気をぶつけ合うと、テレサは飛翔して天高く舞い上がり、エルは双剣を構えて上空を仰ぎ見る。そしてすぐに上から巨大な炎の渦が落下してくるのが見え、それに巻き込まれないように下がる――炎が消えた後にはエルの姿は無かったが、燃え尽きてしまった訳ではなく、凄まじい速度で岩壁を登っていっているのが視認できた。


 しかし、エルのあの動き方は普通じゃない。状況を確認するため、一部始終を見ていたはずのT3に確認を取ることにする。


「おい、T3! 一体全体どういう状況だ!?」

「エリザベート・フォン・ハインラインがヴェアヴォルフエアヴァッフェンを起動させた」

「ヴェあ……? おい、もっと端的に頼む!」

「ハインラインの器としての力を解放したのだ……今の奴は戦うための機械だ。リーゼロッテ・ハインラインこそまだ宿っていないようだが……それでも戦闘能力は折り紙付き、認めたくはないが私では歯が立たなかった……」


 そう答えたT3は、最後には悔し気に口を結んだ。先ほど手合わせをした感じで見れば、T3は王都で対峙した時よりも強くなっている――それで歯が立たないとなれば今のエルの力が尋常でないのは間違いないと判断できる。それと同時に、七柱の創造神に対して歯が立たなかったのが悔しい、というT3の気持ちも分からないでもない。


「それで……そのヴェアなんちゃらってやつは、解除出来るのか?」

「ナナセ・ユメノに同行していたルドルフ・フォン・ハインラインも同様の力を持っていた。奴の場合、敵を殲滅しきった時には元に戻っていたから……この場にいる全員がやられれば、恐らくヴェアヴォルフエアヴァッフェンも解除されるだろう」

「なるほど……ちなみに、ルドルフとやらが器の力を使った後はきちんと元の人格を取り戻していたのか?」

「あぁ、戦闘後はいつも通りに戻っていた」

「それだけ聞ければ十分だ」


 要するに、クラウと違ってエルは記憶や意識を改竄されたわけではないということだ。それなら、先ほどよりはもう少しシンプルに立ちまわることが出来る――そう思いながら既に遠くへ移動して戦っている二人の剣士の方を見つめる。


「おい、まさか自分ならばハインラインを止められると思っているんじゃないだろうな? ヤツはADAMsを狩ることに特化した存在だ。それを止めようなどと……」

「さぁ、それは試してみなきゃわからん。だが少なくとも、お前とグロリアとやらに任せておくわけにはいかない……殺意が高すぎるからな」


 二人に任せておけば、エルの安全が保障できない――しかし、それだけではない。今はグロリアとやらの意識が勝っているようだが、その身はテレサのモノだ。本当は姉妹でなかった二人ではあるものの、元々エルとテレサは憎からぬ仲であったのは間違いない。


 その二人の身体を使って、旧時代の亡霊達が殺し合いをしているだなんて、間違えているに決まってる――それなら、奴らと同じ亡霊が、責任をもって清算しなければならないというものだ。


「グロリアとやらは何とか退かせるから、お前はナナコたちの所に行ってくれ……さっき遠目に見た時は危険はなさそうだったが、向こうにもいつ第五世代達が現れるとも限らないからな」

「おい、待……」


 自分が音速の世界へ足を踏み入れたため、制止の声は途中から聞こえなくなった。

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